第25話 神学校へ

 神学校へ進む決め手となったのは、教会の系列の神学校には、特待生制度があったことだ。そのため、実質的に、金銭的な負担はなく、それが、鈴木にとっては救いだった。

 神学校とは、不思議な学校である。大学を卒業した年齢の者が、一番下の後輩となって寄宿生活を送るのだ。だが、それも無理もないと思える。先輩には、鈴木のように大学を出てから、直に入学した者は少なく、実に様々な実社会の経験をして入学した者が多かった。先輩のキリスト教への回心の話は、実に興味深く奇跡が起きたのかもしれないと思われることもあった。

 とにかく、色々なことを教えられたが、ある日、先輩から、お前は、童貞かと聞かれた。そんな機会もなく、結婚までは、このままだろうと思っていたので、何を言われるのかと考えながら、先輩の言葉を待っていると、今度の土曜日に売春宿に連れて行ってやるという話だった。

 鈴木は、唖然とした。いくら何でも、キリスト者が買春をしても良いのだろうか。だが、先輩は、将来、人の悩みを聞くのに、女も知らないでは、話にならないから、単に欲望充足のためではないと宣うた。

 そんなものかと思ったが、その日が来るまで、鈴木は気が重かった。いやなら、やめるぞと先輩は脅す。いくじがないと言われるのも嫌だった。思い切って、ついて行くと、こんなところに家があるのかと思うほど狭い小路を抜けると、何軒もの家が固まっていた。まあ、売春防止法は、施行されていたが、ザル法ではあった。

 仙台にもそのような場所はあったが、その地区一帯がP関係だと聞いて、さすがに、東京は別格だと思った。ある家に着くと、先輩が、玄関先で待っていろと言う。今、思えば、あのとき先輩は、初めての者なので、親切に教えてくれと頼んでいたのだろう。

 鈴木の相手となったのは、この世界に入って未だ日が浅いという二十歳前後の女だった。鈴木は、珍しいやら、恥ずかしいやらで、何が何だか分からずに終えてしまった。

 それから、鈴木のヰタセクスアリスが始まった。若いと言うことは、性欲も強いということである。講義の合間には、アルバイトに精を出したが、そこに行けるのは、月に一度だけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る