VSドラゴン
セイントたちの悲鳴。
溢れた邪念は凄まじい濃度。
濃い赤黒い邪念は漆黒の霧に変化して一気に聖殿内を満たし、ボコボコと水疱が浮かんで天井が破壊され始めた。
「陛下!」
「くうう! マリー!」
「全員退避!」
セイントたちはアースレイ王子主導のウィザードたちが結界を張り、守ってくれた。
瓦礫が落ちるが、死者はなく無事に全員が聖殿の外へと逃れられたが陛下は私が横抱きにして外へと連れ出す。
陛下には微妙な表情で見られたが、命第一なのでお許しを!
『グオオオオオオオオオオ!』
げっ、と見上げる。
まだ大きくなるのか!?
聖殿が足一本分、だと!?
「っ、これは、無理だ! フォリシア、すぐに郊外へ転移を行う! 君一人で倒すのは不可能だ!」
「っ」
確かに、これほど巨大化してしまうとは思わなかった。
まだ巨大化して、城の高さよりも大きくなっていく。
これがサタンクラスが生み出す災厄、なのか。
「なによりここで倒しても死体で町が破壊される!」
「なるほど!」
陛下、ど正論!
「転移陣を展開せよ!」
陛下の声に、魔法陣が即座に展開される。
……そういえば、マリーリリー様は?
「陛下、マリーリリー様はどこに!? 助けなければ」
「中だ」
「え?」
「
アレ――ドラゴンの、中?
「えええええっ!?」
「倒して取り出すしかない。取り出したあとは一時的に雑念も受けつけない体となり、回復後はサタンクラスとしてさらに災厄を生み出しやすい身となる。寿命も延び、老いも遅くなって伝承の魔王に近づくという」
「っ」
「……だから、手加減をする必要はない。慈悲で生かしておく方が酷なのだ」
王子殿下たちの言うことが正しいとわかっている。
国王陛下が正常な対応だと思います。
「大丈夫です、陛下」
ともあれ、あのドラゴンを倒せばマリーリリー様も助けられるということだよな。
それに、助け出したあとのことも王子殿下たちが提案していた。
「ジェラール様と災厄は私が倒すと約束しましたから」
魔法陣が発動する。
陛下を横抱きにし、生まれたダークストームドラゴンと転移した。
私が転移した先は――空中!
「ぬううう!」
「お任せください、陛下」
真隣でダークストームドラゴンが咆哮を放つ。
耳が、鼓膜が破れる……!
「父上!」
「アースレイか!」
それでも無事に着地したら、地面が砕けた。
なんか私が重いみたいではないか!
落下ダメージなので勘違いしないでほしい!
とか思っていたらアースレイ王子が駆け寄ってきた。
陛下をアースレイ王子にお任せして、私は思いっきり息を吸い込む。
「では、首を落としてまいります」
「え? いや、なにを言って」
「殿下たちはダークストームドラゴンが王都に戻ろうとしたり、攻撃するのを止めてください! それは私ではできませんので!」
「フォリシア夫人!」
身体強化で岩壁のごとき巨体を駆け上がる。
さらに巨大化して、もはやダークストームドラゴンの全長は100メートルを超えていそうな高さ。
だが、逆にそのごつごつとした体は走りやすい。
巨体故に上るのは時間がかかるが、魔力を使い果たすほどではない。
ジェラール様の『予言』で、今のところ死人の報告は出ていないからここで私がダークストームドラゴンを倒せば、王都は――!
『ごおおおおおお!』
「っ!?」
ダークストームドラゴンが王都に向けて口から光線を吐く。
鱗にしがみついて振り落とされるのを耐えるが、王都は!?
片目を開けてみると、ウィザードたちの結界が発動して光線の軌道をずらす。
かなり大がかりな結界魔法。
張るのに時間がかかるだろう、それまでは騎士団がダークストームドラゴンの注意を引きつけ、王都から引き離す必要がある。
この規模の攻撃が連射できると思えないから、今のうちに駆け上がる!
「ジェラール様、私に任せてくださいね」
肩まで来た。
剣を引き抜く。
父や兄たちにもお墨付きをもらった私の全力の身体強化魔法での一撃。
ジェラール様の――あなたの願い、騎士として誇らしかった。
あなたの望み、騎士としての私の性質にドンピシャです。
だから、約束通り!!
「――はあああああああああ!」
私の全力で、細く細く力を鋭利化して剣に纏わせて振り払った。
十数メートルの太い首は、その一閃で綺麗に切れ目が入って吹き飛んだ。
ダークストームドラゴン、討伐完了!
「……あ、まずい」
全身から力が抜けて、落下が始まる。
しまった、首を切ったあとのこと考えてなかった。
身体強化に回すすべての魔力を全ブッパしてしまったから、眠気で意識も、もう……。
……まあ、でも、いいか。
ジェラール様との約束は守ったし、下に父上や兄上たちがいる。
元部下や、仲間もいる。
誰かがキャッチして、拾ってくれると思う、から……。
◆◇◆◇◆
「んん~~~~」
目が覚めると知らない天井だったので、上半身を起こして背伸びをした。
とりあえず体に痛みは感じないし、寝起きも爽快。
生きているのは間違いない。
部屋も豪華で、消毒液のような匂いもない。
窓に近づくと、王都が目下に広がるので城の一室らしい。
王都は傷もなく、いつもの平和な風景。
つまり――。
「フォリシア様、目が覚められましたか」
「ルビ! ジェラール様は?」
「すぐにお呼びしますね。ジェラール様」
と、部屋に入ってきたルビが、隣の部屋に声をかける。
え? 隣の部屋にいるのか!?
「フォリシア!」
いたーーーーー!
本物のジェラール様だぁあぁ!
「フォリシア、無事でよかったです、本当に……うううう」
「ご、ご心配をおかけしました」
「本当ですよ! ドラゴンの体を登って首を断つなんて……無茶苦茶すぎますよ!」
うわああああああああ! ジェラール様からのハグーーーーー!!
我が人生に一片の悔いなし……。
それに、怒ったジェラール様もかわいいいいいいいい!
……はっ! ルビの手に手鏡……!
私そんなヤバい顔してたのか?
よせ、やめろ! ゆっくりと持ち上げようとするな! 見たくない!
「本当に……よかった……」
「押し倒すのはアリですか?(ご心配をおかけしました)」
「え?」
「少々お待ちください、調整します」
「ぐはあああ!」
「ルビ!?」
ルビにぶん殴られてジェラール様から引き離された。
ジェ、ジェラール様の純潔を守ってくれてありがとうルビ!?
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