帰り道にて
「スタッフさん、驚いてはったね」
「まぁ、俺が財閥の娘と一緒にいたからだろうな。 スタッフさんは俺の過去を知ってるし」
「それだけ、財閥への印象は悪いんやろうね。 飛鳥財閥だと言ったら、ホッとしとったけど」
「後で聞いたら飛鳥財閥は数少ない良心的な財閥なんだってな。 関西地方に本家があると」
「うん、奈良に本家があるよ。 飛鳥財閥が抱える企業に属する攻略者は退職者はおらんしね」
謙二と美波は、そんな話をしながら一緒に帰り道を歩いていた。
どうも、役所を出た後も帰り道が一緒だったようなので、折角だし個人として美波ともう少し話をしながら帰ろうという事になったようだ。
元々、対策庁のスタッフは、謙二の過去を知っており、財閥への心証は良くないことも分かっていた。
そんな彼が、財閥の娘と一緒に役所に来たのだ。
驚いてしまうのも無理はないだろう。
幸い、美波が飛鳥の姓を名乗った事で、落ち着きを取り戻したようだが。
飛鳥財閥は、関西地方に本家を構える数少ない良心的な財閥の一つで、人材を大事にする事をコンセプトにしている。
そのため、去年の事件による世間での財閥への全体的なイメージ悪化にも関わらず、退職者が一人もいないのだ。
他の財閥では、かなりの退職者が発生し、多くが個人攻略者になっている中でだ。
「しかし、流石にレベル1だから報酬は少ないね」
「確か、手取り2000円だったか。 まぁ、素材もあまり落とさなかったしな。 今回は報酬よりも住処に危険が晒されないようにというのが優先だったからな」
「ああ、確かにね。 謙二さんが住むアパートの近くやったもんね」
なお、今回の攻略報酬はレベル1の廃校ダンジョンだった為に、手取りで2000円程度だった。
だが、謙二にとっては報酬よりも住処を守るために攻略していたので気にしていない。
そもそも、彼には昨日の分のお金がまだあるからだ。
「もうそろそろたどり着きそうやね」
「美波の場合は確か、財閥っていうから、別荘とかだよな?」
「うん。 本家と別荘を【テレポーター】という魔道具で行き来してるんよ」
「【テレポーター】か。 便利だなぁ……」
「といっても、一度行った事のある場所限定なんやけどね。 本家に行ってない人はここからのテレポーターは弾かれるし」
「どこかのRPGの移動魔法みたいだなぁ」
美波の場合は、別荘となってる一軒家を構えている場所に向かうという。
本家が奈良に構えているので、そこと大型魔道具である【テレポーター】を利用して行き来しているようだ。
ただ、利用するにはまず本家に直接出向かわないといけないらしく、そうしていない場合は【テレポーター】を利用しようとしても弾かれて使えないのだ。
そういった方面は、しっかりしているようだ、
「あ、うちの別荘はこの店の隣やねん」
「ん? 【アトリエRIN】の隣?」
暫く歩いていると、美波の別荘が少し見えて来た。
そして、美波は目印である店の方を指差ししていた。
だが、その先は謙二の幼馴染の少女で兼業攻略者の凛が営む【アトリエRIN】だったのだ。
「謙二さん、あの店知ってるの?」
「ああ、俺の幼馴染の子がやっている店だ。 予約制だから俺は基本的に裏口から入ってるんだ」
「なるほど、顔パスってわけやね。 うちもそうなんよ」
「そうなのか?」
「うん」
謙二の様子を見て気になったのか、美波はひとまず聞いてみた。
その際の彼の答えにも納得したうえで、自分も顔パスで通してもらってることを明かした。
「あれ、ケンくん。 それに美波ちゃんも」
「あ、凛」
「凜さん、こんにちは」
そんな話をしていると、店から凜が出て来た。
二人の話し声が聞こえて来たからだろう。
「えっと、ケンくんと美波ちゃんが一緒なのはどういう事? 特にケンくんは廃校ダンジョンに行ってたんじゃ?」
「ああ、それなんだがな……」
謙二と美波が一緒に居る事に驚いていた凜に対し、謙二は説明を始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。