廃校ダンジョンのボス部屋へ

「よし、美波もいい感じに杖での打撃攻撃のレベルも上がって来たな」


「謙二さんの指導のおかげやね♪」


 三階に上がり、道中のコボルトやゴブリンといった怪人タイプのエネミーを倒して進んでいく。

 たまに出てくるアンデットには美波の【浄化ピュリフィケーション】で浄化して貰い、それ以外に対しては打撃縛りではあるが順調に進んでいる。

 美波の打撃攻撃のレベルも上がっており、ゴブリンなら一撃で倒せるほどになっていた。


 これも謙二の指導の賜物だと美波は嬉しそうに言う。


(相変わらず笑顔が可愛すぎて困るな。 財閥の令嬢らしいが、こんな子もいるのか)


 美波の笑顔にドギマギする謙二。

 彼女が財閥の令嬢なのは自己紹介で知ったが、それでも彼女のような子もいると知り、少しではあるが財閥への見方は変わろうとしているようだ。


「あの奥の扉の先にボスの気配がするな。 気を付けて進もう」


「あ、その前に謙二さん」


「どうした、美波?」


 この三階の廊下の奥にうっすらと見える扉。

 遠くからでも見えるその扉の先にボスの気配がするようだ。

 なので、気を付けて進もうとした時に、美波に呼び止められた。


 どうしたのかと振り向く謙二。


「少し、お手洗いにいってええかな?」


 美波からの言葉に驚く謙二。

 よくみると、美波はスカートの裾を引っ張りながらモジモジしているようだ。

 謙二と遭遇するまでに緊張も入ってたのだろう。

 幸い、彼女の横にはトイレはあるのだが……。


「トイレか……。 見たところ女子トイレは壊れてて入れないな。 男子トイレしか使えないが」


「ええよ。 代わりに個室の傍に居てほしいんやけど」


「仕方ないか。 耳は塞ぐからな」


「そこまでせんでいいよ。 何かあった際に対処できんかったら困るし」


 そう言いながら、二人は男子トイレの方に向かう。

 ダンジョンと化してるので、トイレでも安心できない。

 用を足す時だろうと、エネミーは襲い掛かって来るからだ。

 男子トイレの使える個室に美波は入り、そこで済ませる事にした。


「ふぅ、スッキリした。 傍にいてくれてありがとう、謙二さん。 おかげで漏らさずに済んだよ」


「あ、ああ……。 じゃあ、先へ進むか」


「うんっ」


 用を足す際の音を聞いてしまい、顔を赤らめながら美波に先へ進もうと告げる謙二。

 そんな事は露知らず、笑顔で返事をする美波。

 とはいえ、ボスを控えて大事にならなくて済んだのは幸いだっただろう。


 トイレを出てからは、エネミーに遭遇せずに目的の扉の前に到着した。


「この先やね」


「ああ、準備はいいか?」


「うん。 レベル1やからって油断はせえへんよ」


「よし、行くぞ!!」


 二人が顔を合わせてお互い確認をしてから、謙二が扉を開く。


「グルルル……」


「ギギギ……」


「ランクDの怪人、【ボブゴブリン】か」


「それも二体。 少し手こずりそうやね」


 その先にいたのは、ランクDの怪人の【ボブゴブリン】だった。

 それも二体いる。

 二体は、謙二たちに気付くと石斧を構え始めた。


「ここは魔法スキルも織り交ぜて戦おう。 打撃縛りにこだわるなよ」


「うん!」


「「ガアァァァ!!」」


 後ろの扉が自動的に閉められ、ボブゴブリンが襲い掛かる。

 同時に謙二が前に出て、石斧の攻撃を剣で防ぐ。


(流石はミスリル銀の剣だ。 見た目とは裏腹に強度が段違いだ)


 ミスリルの剣が思った以上に強度があることに驚きつつも、冷静にボブゴブリンに反撃する。

 ギリギリで回避されるが、そこに美波の追撃が待っていた。


火炎弾ファイアボール!!」


 美波の火属性の魔法系スキルが、ボブゴブリンに襲い掛かる。

 そして、二つの火の玉はそのボブゴブリンに命中した。

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