交際0日で結婚!指輪ゲットを目指しラスボスを攻略してゲームをクリア
Bu-cha
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「やーなーがーわ~!!!!」
私の名字を呼ぶ太くて低い声が、人材紹介・派遣会社であるうちの会社の廊下に響く。
次年度の新卒の子との面談が終わり、バイバイをした直後だった。
その声に振り向くと、うちの社長・・・ボスがズンズカと私の方に歩いてくる。
ボスが、現れた。
7月に入ったのに、スーツのジャケットを羽織りながら私に近付いてきて・・・
「ジャケット持ってこい!!
お前の担当企業からクレーム入った!!」
「ボスだけ行ってきてくださいよ!
私まだ次年度の新卒の子達と面談入ってるんで!!」
「先方の社長が、お前連れて来いだとよ!!」
断ろうとした瞬間、ボスが片手で私の両頬をムギュッと掴んだ。
そして、タコの口にされたので・・・その唇を上下に動かしてみる。
そんな私の顔を見ながら、ボスが大きな声で大笑いをして・・・
「行くぞ!タコ!!!」
そう言って、クレームばかり入る私を・・・ボスが片手で抱え上げ・・・
タコのようにダラーンとしながら、連行した。
ボスの車で連れられ着いたのは、私が新規開拓をした企業。
結構大きな会社だし、人事部の人達とも仲が良くて・・・。
「この会社、次年度もお願いしますって言われたばっかりですよ?」
「俺も詳しくは知らねー。
何聞いても、お前連れてきたらって言われた。」
「そこを上手く聞き出すのが社長ですよね?
ちゃんと仕事してくださいよ!」
「クレームが多すぎるんだよ!!!」
「それ以上に、新規開拓数も内定者数もガンガン取ってますから!!」
ボスとそんなやり取りをしながら、企業の受付の電話機の目の前まで歩いた。
ボスが、受付の電話の受話器を手に取った。
それを真横から見上げていたら・・・
肩を少し強めに叩かれた・・・。
ビックリしながら、そっちを振り返ってみると、この会社の社長の息子がいた。
「柳川さん、来てくれたんだ!!」
社長の息子、専務がデレッとした顔で私を見下ろす。
この前、そろそろ新卒採用がスタートするので人事部の担当者から連絡がありヒヤリングに来ていた。
その時に初めてこの専務とすれ違い、話し掛けられてはいた。
「専務さん、こんにちは!
社長さんからクレームあったので来ました!」
「俺が呼んで貰うようにお願いしたからね!入って!」
そんなことを言われ、ボスと顔を見合わせる。
見上げる私を、ボスはまた片手で両頬をムギュッと掴み、タコの口にしてくる。
「行くぞ、タコ。」
ボスがそう言って・・・珍しく戦闘モードに入った。
*
「来てくれたか!!さ、座って!!」
専務に連れられ社長室に通されると、クレームどころかご機嫌の社長が待っていた。
促されたソファー席に、ボスと並んで座る。
向かい側の席に社長と専務が座り・・・専務がデレッとした顔で目の前の私を見てくる。
しかも、絶っっ対に、スーツのスカートの隙間に視線がある!!!
そこを手で隠そうとした時、ボスからヒヤリングシートの紙の束を渡された。
ボスに感謝しつつ、その紙を両膝の上に置きスカートの隙間を隠す。
「本日は、柳川に対してご不満があると聞き伺いました。
柳川が何かご迷惑をお掛けしましたでしょうか?」
ボスが、社会人モードで話し始める。
いつもと違うこの感じにニヤニヤするのを我慢しながら、目の前に座る社長の返事を待つ。
「そうそう!不満があって!!」
「何がありましたでしょうか?」
「うちの息子と、連絡先を交換してくれなかったと聞いてね!!」
そんなクレームに、私は吹き出さそうになり・・・必死で我慢をした。
「連絡先ですか。
名刺交換をせず申し訳ございません。」
ボスが、すっとぼけたことを言っている。
これ以上私を苦しませないで欲しい。
「名刺交換はしてくれたんだよ!!
個人的な連絡先を交換してくれなかったと聞いてね!!」
「個人的な連絡先ですか。
それは個人情報になりますので、まだ開示出来かねます。」
「そんな硬いこと言わないで!
連絡先くらい!!」
向かい側に座る社長がそう言いながら、私を見てくる。
それに、私は笑いながら首を横に振った。
「弊社が企業様にお見せ出来るのは、新卒採用の場合、氏名・年齢・学歴・自己PR・志望動機・趣味くらいの項目です。
それ以外の個人情報につきましては、内定通知書を出して頂き、内定受諾書を企業様にお渡ししてからになります。」
「柳川の場合は初婚になりますので、中途と違い職務経歴書はございません。
なので、これまでの男性経歴は添付出来ませんが、いかがでしょうか。」
こんなふざけた回答をボスとすると、目の前の2人が驚いた顔をした後・・・機嫌を悪くした。
「バカにしてるのか!?」
「バカにですか?
こんな大企業の社長様を?
“僕”はそこまでバカじゃありませんよ。
で、弊社に登録もしている柳川に内定を出して頂いた場合の報酬のお話になりますが。」
「報酬!?」
「はい、弊社は成功報酬ですので。
中途の場合は、初年度の年収の35パーセントの金額を手数料として頂いております。
ですが、柳川は新卒ですので・・・」
ボスが言葉を切り、怒っている社長を見た・・・。
「200億円ですね。」
そんな金額、止めて欲しい。
これ以上、私を苦しませないで欲しい。
「に、200億円!?」
「そうですね、柳川は弊社に登録もしておりますので。」
顔を真っ赤にしている2人に向かって、ボスは続ける。
「ですが、弊社に登録していない者で・・・。
“俺”の個人的な繋がりのある女性なら無料でご紹介し、報酬も頂かない方法もございます。」
ボスのその言葉を聞き、私はボールペンを手に持った。
そして、1回・・・ボールペンを回し、ヒヤリングシートにボールペンの先を付けた。
「見た目は、柳川のような・・・少し幼い顔が好みでしょうか?
詳しくヒヤリングさせてください。
要件に合った女性、ご紹介致します。」
*
ボスと無言で企業の出入口から出て、エレベーターを使い1階まで降りた。
駐車場までも無言で歩き、2人で無言のまま車に乗り込む。
ボスの運転で、車を数分走らせ・・・
車を走らせ・・・
車を、走らせて・・・
「・・・っお前!!!
ああいう面白い所、毎回どうやって増やしてるんだよ!!」
ボスが大きな声で、大笑いを始めた。
「大きな企業になると、基本的には人事部の人達としか会わないので!!
社長や専務があんな感じだって知らなかったです・・・っ!!」
そう答えながら、私も笑う。
「ボス、何を言い出すのかと思ったら、ボスこそ面白過ぎて!!!」
「お前、よく上手く反応したな!!」
「ああいうのを攻略するのも、面白いですから!!」
ボスがまた大笑いしながら、私にスマホを渡してきた。
「ヒヤリングした要件に合う女、数人ピックアップしとけ。
後で連絡しておく。」
「自分のセフレを紹介するとか、あり得ないですよね!!」
「そっちのスマホは違う女。
男を紹介して欲しい女達。
セフレはノリの良い女で、身体の具合の良い女限定。」
「ボスが考えることは、1プレーヤーには理解出来ませんね。」
そう答えながら、ボスのスマホから女の子達・・・“キャラ”を数人設定していく。
専務という“ゲーム”のクリアを目指す、“キャラ”の設定を。
「良さそうなキャラ、ガンガン入ってますね。
ガンガン紹介していっちゃいましょう!」
運転席で大笑いしているボスを見ながら、言う。
「ゲームをクリア出来た瞬間を、また感じたいですからね!!」
社内に戻ると、定時の18時を回っていた。
でも、うちの会社は・・・
テレアポをガンガン続けるメンバー・・・
新卒や中途の面談はこれからまだまだ続く・・・
登録者のデータ入力をするタイピングの音・・・
まだまだ、今日は続く。
うちの会社は、ブラック企業だから。
「柳川、クレーム大丈夫だった?」
隣の席の先輩が声を掛けてくれた。
それに頷きながら席に座る。
「私の個人情報を要求されたので、ボスが無料で女の子を紹介する営業を掛けてくれたので、大丈夫でした!」
「面白そうなことまたやったのか、社長。」
「笑い堪えるのに苦しみましたよ!
ちなみに、私に対する手数料は200億円らしいですよ!!
結構高くて嬉しいんですけど!!」
「柳川は社長のお気に入りだからな!」
「営業成績良いですから!」
「クレームも多いけどな~。」
先輩にそう言われ、素直に頷いた。
クレームなんて、私は気にしない。
クレーム処理はボスに任せて、私はガンガンいくだけ。
ガンガンいって、ゲームをクリアするだけ。
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