第22話 ルンゲ 選ばれる
しかし、どうしても諦めきれなかったルンゲは、王様が、忙しくなく、廻りに人が少ない時と場所を聞き出しました。王様は、毎日、起きてから、朝の散歩をするのが日課となっていました。五月のある日、ルンゲは、庭園に潜んで、オートマタを設置し演奏をする準備を整えました。
良く晴れた日の朝、王様は、歩きながら、宮廷大臣にオルゴールの職人選びの結果についてたずねました。宮廷大臣が、ムントとハンスという二人の職人に、決まりましたと告げたとき、どこからか軽快なワルツが流れてきました。
「おやっ、誰か、楽団に演奏を頼んでくれたのかな」
と王様が聞くと、宮廷大臣は、けげんそうに、
「いや、誰も頼んでいないはずですが」
と当たりを見回しました。
庭園の隅に、何やら人形のようなもの動いています。音楽はそこから流れていました。
「おお、人形がバイオリンを弾いている。まるで人間のようだ」
王様は、驚きを隠しきれません。
「誰が、このからくりを仕掛けたのだ」
宮廷大臣は、いまいましそうにルンゲの名前を出しました。
「ルンゲと申すのか。このオートマタをしかけたのは。しかし、先程聞いた職人の中には、入っていなかったような」
「いや、それが」
と宮廷大臣は、額に汗を浮かべて
「教会の者どもが、けしからんと申しまして」
と言い訳をしました。実際に、そのような申立はあったのです。
王様は、しばらく考えてから、
「その言い分も分かるが、予が、音楽を楽しむだけであれば、そのような気遣いは無用だ」
と言って、ルンゲも仕掛けづくりに加えるよう命じました。
こうして、王様のこの世に二つとないオルゴールを作るという計画は、オートマタとオルゴールとの競争になっていきました。
選ばれた職人は、ハンス、ムントとルンゲの三人となりましたが、ルンゲは一度は、断られたのになぜ入ったのか、ハンスには不思議でした。
それとムントのことですが、その名を聞いて、ハンスは、以前、自分の名前を騙られたという苦い記憶がよみがえりました。
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