ねえ、モデルになってよ!

@kminato11

第1話 勧誘

「ねえ、琴美。モデルやってよー」

「……またあなたですか? ひかりさん」

 私は今日もめげずに彼女に向かって話しかける。


 長くてきれいな黒い長髪でまさに大和撫子を体現している美少女……そんな彼女に私はモデルをやってほしいと声をかけ続けている。

 何回ダメって言われても誘うから。だって絶対いいモデルになると思うし。動きにも品があるし、スタイルもいい。何より美人! ほんとこれ以上ないってぐらいの人だよ!

「私にミスコンのドレス作らせて! お願いーー」

「はあ……」

 私が駄々をこねるけど、琴美はそれでも「うん」とは言わない。


 私の学校の文化祭はミスコンがあって、当日は体育館を貸し切り、選ばれた美少女たちがランウェイをするのが決まりだ。

 そしてそのドレスを仕立てるのが、私が所属している被服部の大切な仕事で、そのランウェイを歩く人たちを口説かないといけない。

 琴美はいっぱい声かけられているとは思うけど、絶対私がドレスを作りたい!

 そう思って何度もアタックしているけど、なかなかガードが硬いんだよねー。

「私はミスコンに出たくないんですけどね……」

「でも、ミスコンって投票制だし。実際に声はかけられているでしょ?」

「まあ、そうですけど」

 もう、出場者も発表するぐらいの時期にはなっているし。もうほとんど強制なんだから、断ることは基本出来ない。琴美だってわかっているはずだ。

 だったら後は誰が作るかだけの問題しかない。

「ねえーモデルやろうよー」

「嫌ですよ」

「えーお願いー」

 これでもダメなの? もう一か月ぐらい誘ってるのに!

「琴美だったら絶対ミスコンで一位獲れるって」

「別に私じゃなくても」

「琴美じゃないと無理に決まってるでしょ!」

「……」

 私の誉め言葉も琴美には届かないらしく、またうつむいてしまう。実際かわいい子が多いんだから、琴美ぐらい超かわいくないときついって。マジで。

 琴美は拗ねるように呟く。

「……ひかりさんだってかわいいじゃないですか」

「は?」

 思わず、変なリアクションをしてしまう。

 えっ、私がかわいいって?

「……私、ランウェイやろうなんて声かけられなかったけど」

「だってそう思いますし」

 ……なんか琴美に言われるとほんとにそう思いそうになる。

 誘われてないだけで私、かわいいのか? いやいや、いい女はお世辞を言う。

 実際誘われてないんだから、浮かれない。嬉しくしない。

「まあ、でも私は出ないから。それに琴美のほうが私よりも何倍もかわいいから」

 私はさらにほめる。

「だってプロポーションも最高だし、なにより顔がいい」

「はあ……」

「なんなら触りたい」

「えっ?」

「あっ」

 声に出てしまったのか、琴美は警戒したように私から距離をとる。

 やばいやばい。

「だからそれだけ、琴美が魅力的ってことだよ!」

「……私、忘れてませんよ? 最初に会ったときに踏んづけてとか結婚してとか言ったこと」

 ……だってマジで好みだったし、こんな美少女がいきなり目の前に現れたら出ちゃうって。

 めちゃくちゃ、ジト目で見られるが私はほめ続ける。

「肌も髪も超綺麗だし、顔がほんとにいい。もう、世界一可愛いよ!」

 この後も、琴美の顔がどんどん赤くなっているけど、気にせず褒めていると、ついに観念したようで。

「……わかりました」

「ホント!?」

「はい。もう、こんなに言われたら断れないじゃないですかぁ」

「ありがと!」

「ってちょっと、抱きしめないでください!」

 私が勢い余って抱きしめると抗議の声が上がってくる。でも私もめげずに勧誘しまくったんだから、さすがにご褒美がほしい。あーやわらかい。

「もう」

 やれやれと言わんばかりに琴美は苦笑いをしている。

 私は琴美から顔を放して満面の笑みを浮かべる。

「これからよろしくね。琴美!」

「はい。よろしくお願いします」

 琴美も困ったように笑って、そう返してくれた。 

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