第7話 核心

グレイは屋上に向けて走っていた。


校舎は沢山あるが、屋上に入れる校舎は一つしかなかった。


通常、屋上というとここしかないためグレイは迷わず進む。


ちなみに食堂の近くに屋上があるので、グレイは急がねばならなかったが待ち人であるアリシアはゆっくり来ても間に合う距離である。


「よし!後は階段を登るだけだ」


階数にして4階分を一気に登っていく。


バン!


最後は思い切りよくドアを開けた。


「はぁ・・・はぁ・・・よし。誰もいないな」


グレイは荒れた呼吸を整えながら周りを確認する。


グレイは、わざわざ放課後に屋上にくる生徒はいないことを知っていたのでこの場所を指定していた。


その予想通りだったのでひとまず安堵する。


「ふぅ。今日は走ってばかりだな」


呼吸が落ち着いてきたグレイは時計を確認する。


「14時45分か・・・あと15分あるな。早く着き過ぎてしまった」


グレイは屋上の端の方に向かって歩いていく。


「うーん。どういうポーズで待っていようかな」


手持ち無沙汰になったグレイはアリシアを出迎える時にどのようなポーズで待っていようかというくだらないことを考え始めた。


「やっぱり、ドアに向かって立っていた方がいいか?・・・いや、それだと待ち焦がれていたように見えてしまうよな・・・」


ドアに向かって待っていることは却下らしい。


「うーん。なら、ドアの死角で寝っ転がっていようか・・・でも初対面の相手を待つのに寝っ転がっているのは失礼か・・・」


寝て待つという非常識なアイディアは幸いにも却下された。


「どうしよう」


刻一刻と時間が過ぎるにつれて焦りだすグレイ。


「いやいやいやいや」


はっとなり頭を振るグレイ。


「いくら素敵な方だろうと関係ない。俺は告白をしに来たわけでは無いんだからな!」


大声で自らを否定するグレイ。


「・・・やはりそうでしたか」


「えっ!!」


グレイは急に聞こえてきた別の人の声に驚き、振り返るとそこには先ほど初めて会話をしたアリシアがドアの前に立っていた。


ただ立っているだけなのに気品に溢れて見える。


「ば、バルムさん!」


「ふふふ。驚き過ぎですよ。あなたがお呼びになったのではありませんか」


グレイの反応が面白いのか、アリシアが微笑みながら指摘する。


「そ、そうでしたね」


ちらりとグレイが時計を見ると14時50分であった。


わたくし、相手をお待たせするのが嫌いなのです」


アリシアがグレイがこっそり時計を見たことに気づき、そう言う。


「そ、そうなんですね」


動揺しているグレイは、頭が回らなかった。


(いかん。このままじゃ伝えたいことが伝えられない)


グレイは落ち着こうとアリシアをしっかりと『視る』。


『アリシア・エト・バルム。15歳8ヶ月。寿242


三度目の確認。


(ここまで来ると確定的だ)


「ふぅ」


グレイはまず、深呼吸をしてからアリシアに話しかける。


「俺の名前はグレイ・ズーと言います。今回は急にお呼びしてしまい申し訳ございませんでした」


相手は貴族だ。しかも頂点の一角である。それなりの言葉遣いをしなければなるまい。


「アリシア・エト・バルムです。どうしてもお話ししたいことがあったのですよね。卒業後は難しくとも今はお互い学生の身。そこまで謝らなくても構いませんよ」


「ありがとうございます」


「それでは、お聞かせいただけますか?ズーさんはわたくしに何を仰りたいのですか?」


(やばい。凄く嬉しい。名前を呼んで貰えた!・・・はっ!いかんいかん。落ち着け俺)


グレイはアリシアの言葉に脱線してしまいそうになるのを堪え、呼吸を整えてから





「落ち着いて聞いてください。実は・・・あなたは今日の夕方にお亡くなりになってしまうのです」





核心から先に話したのだった。

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