狂人の遺言

かんたけ

持ち主:色崎きいろ

一日目

 隕石が衝突し、世界が滅ぶと言われてから数時間後。


 どうやら、私と群青は異世界に転移したらしい。

 この極めて貴重で稀な体験を、日記に記しておこうと思う。


 私の名前は色崎きいろ。女。前の世界では中学生だった。この口調は日頃読んでいる小説の影響である。

 共に転移したのは、色崎群青いろざきぐんじょう。男。彼とは血の繋がっていない兄弟で、同い年だ。十年前から、一つ屋根の下で生活している。


 白い岩でできた瓦礫から抜け出した私たちは、まずは互いの姿を見て驚いた。お互いがいるとは思わなかったからである。調べたが、特に目立った外傷もない。


 私は一瞬、目の前の人物が本当に群青なのか疑い、「お前の血は何色だ? 黄色か? 青か?」と聞いた。

 すると、彼は私の肩を叩きながら、「青色だ。お前は黄色いな」と答えたので、彼が群青本人であると分かりほっとした。


「ここ、どこだろうね」


 私は立ち上がって周囲を見る。見渡す限り、礫岩砂漠のような白い岩の瓦礫が広がっていた。

 すると、群青が首を傾げた。


「……分からないの?」

「当たり前でしょ。え、何、群青はわかってる感じ?」

「......いや。多分気のせいだった。それより、これからの行動指針を決めよう」

「そうだね」


 群青曰く、サバイバルにおいて重要なのは、飲み水、寝床、食料らしい。中でも優先順位の高いものは、飲み水だそうだ。なので私たちは、飲み水を求めて練り歩くことにした。


 空は呆れるほど晴れ渡っていると言うのに、驚くほど寒い。私たちは瓦礫の下敷きになっていた服を何着か拝借し、防寒に努めた。

 飲み水も食料も寝床もないという緊急事態だったが、私はものの1時間で飽きてしまった。歩いても歩いても純白の瓦礫が続いている。最初は、神域にでも踏み込んだのかとワクワクしていたが、慣れた。慣れてしまえば、神秘的ではなく殺風景だ。

 あまりにも暇だったので、適当に会話することにした。


「ねえ群青。初代内閣総理大臣って誰だっけ。伊能忠敬?」

「海馬狂ってるんじゃないのか」

「海馬って何さ」

「記憶を司る器官のことだ。動画で見ただろ」

「そうだっけ」


 退屈な光景が続き、私たちはついに、巨大な瓦礫が奇跡的なバランスで合わさることによってできた洞窟を見つけた。今にも崩壊しそうだったので私は足踏みしたが、群青は平然と中に入った。

 彼はつるりとした壁面に指を這わせ、真剣な表情で瓦礫の一部を取り出し、眺める。

 正直、彼が何をしているのかは分からなかった。


 先ほど目立った外傷はなかったと言ったことを訂正しよう。


 群青は、頭のネジが数本爆発したのかもしれない。

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