【完結】異世界で幽霊やってます!?

かずき りり

第1話


 ――……け……て。


 声が、聞こえた気がした。

 悲しみを帯びた、どこか縋るような声が、俺に対して何か伝えてきた気がした。


 (……なんだ?)


 そう問いかけようとして、自分の瞼が開いた。

 夢か、そう思った瞬間、ぼやけていた視界が開き、その光景で更に目を見開いた。


「……夢?」


 自分のベットシーツの感覚もなく、あるのはただの浮遊感。

 天井が間近にある上、絵等の装飾が飾られていて、それはもう豪華だ。

 ……見知った自分の部屋でない事は、瞬時に悟れた。しかし、これだけ天井近いという圧迫感は何だ。

 そう思って自分が横たわっているだろう場所に手をやると、ただ宙を切っただけだった。


「え?」


 頭の中に疑問符が浮かび、思わず顔を横に向け、布団があるだろう場所へ視界をやると、この部屋がほぼ一望できた。

 自分の眼下には豪華なベッドがあり、そこに横たわっているのは綺麗な顔立ちをした金髪の男。

 側には二人の男と泣いている一人の女が付き添っているかのように見えるが、その服装が中世時代とでもいうのか。髪の色までもがカラフルで、小説や漫画の世界を思い出させる。


「……は?」


 思わず声が出た。ただ、その声は誰の耳に届く事もなかったのだろう。付き添っている三人は、こちらに目を向けようともしない。

 いやいやいや、どうなってる!?

 周囲を見渡しても、今の状況が変わるわけでもなく、呆然と自分の手のひらを眺めてみた。うん、自分の手のひらだ。いつも見てるわけでもないが、見慣れている手のひらだ。

 ふと、自分の袖口が目に入り、自分の恰好を見渡してみる。

 ……いつもの学ランだ。

 この中世時代かのような背景では、見事に浮いているだろう。否、実際本当に浮いてはいるけれど。


「……何これ」


 パニックも極限を超えれば変に冷静となるのか。むしろ脳が考えるのを放棄したかのように思考しない。


「……ドッキリか?……何のために?」


 誰にも聞こえてないようだが、言葉として出さずにはいられない。

 むしろ口に出す事で、少しでも思考を整理できるならばという思いもあるけれど……。ドッキリを俺に仕掛けたとして、一体どんな利点があるんだ。しかもこんな大がかりなもの、某動画企画やテレビの企画くらいでしか出来ないのではないか?

 下に降りる事は出来ないのか考え身体を動かすと、ベッド付近へ近づく事が出来た。

 本当に自分の姿が見えないのか?そう思い、泣いている女を慰めている男二人の目の前で手を振ってみるも、彼らは微動だにしない。


「マジかよ……」


 手の込んだ仕込みなのか、演技なのか。それにしても、手が込みすぎている気がする。

 それよりも、何でこうなったのか。

 今の自分の状況は一体なんなのか。

 むしろ今どうしてここに居るのか。

 その原点を考えようとして、俺は自分を振り返り、思い出す事にした。


「……何してたっけ……」


 俺の名前は佐伯斗真、高校二年生。うん、思い出せる。

 そして……確か……。







 明日は学期末テスト。

 中間テストと違い、その範囲は広い為、何もせずテストに挑むのは赤点覚悟となるだろう。という事で俺は、苦肉の最終手段として一夜漬けを決行した。そうすれば、いつも赤点くらいは免れてこれたのだ……ギリギリ。

 ただ、今回は睡眠不足が見事に続いていた。……主にゲームで。

 テストの事を少しは考えていれば良かったのだろうが、教えてもらったゲームに思いのほかハマってしまったのだ。そして見事に連日寝不足。気が付けば朝日を見てから眠る日々だった。


「あー!しまった!」


 朝日を見れば眠るという習慣でもついてしまったのか、テスト勉強中に寝てしまったのだろう俺が起きたのは遅刻ギリギリな時間だった。

 こんな俺の生活に呆れたというか見守るというか、何も言わない親は、朝食におにぎりを用意してくれてあった。

 とっとと着替えて用意をしたら、おにぎりを1つ持って、急ぎ学校まで走る。

 不良になりたいわけでもなく、ただ趣味を満喫しているだけで、不真面目なわけでもない。……真面目とも言い難いが。

 そんな俺だからこそ、最初からテストに遅刻しても良いや、なんて諦めの気持ちがあるわけでもなく、とりあえず急いでみようと思い全速力で走る。……直ぐに息は切れたけれど。インドアに体力を期待してはいけない。

 それでも速足で歩きながら、一心不乱に学校へ向かう。


「あ…………と、すこし…………」


 学校近くの歩道橋を登り切り、少し息を整える。チラリとスマホを見れば、何とか間に合いそうだ。

 少しだけ気持ちに余裕が出来た為に気が緩んだのか……原因は確実に寝不足なせいだとは理解できるが……。俺は、落ちた。

 歩道橋を下りる階段の一番上で、眩暈を起こし、身体が宙を浮いたかと思ったら、そこからはただ落ちていくだけだった。

 落ちる事はおろか、自分の身体を庇う事も出来ず、ただただ身体の痛みを感じ、そして意識が途切れた。







「……で?」


 そこまで思い出し、再度自分の身体を眺める。

 一番上から落ちたというのに、痛みはない。それどころか、服が破れているとか、血がついているとかもない。

 意識を失ったのならば、病院に運ばれて着替えさせられていてもおかしくない案件なのではないだろうか?むしろ骨折していてもおかしくないだろうし、痛みが一切ないなんて……。


「どうなってんだ?」


 妙な状況に、最悪の状況が頭によぎり、心が少しだけ焦る。認めたくない現実に、手が届こうとしている。

 周囲を見渡すも、さすがに怪我人にこんなドッキリを仕掛けたりしないだろう。

 そもそも今も少し浮いているのだ。身体にロープなどの仕掛けもないのは自分が一番よくわかっている。


「なぁ、どうなってんだよ!」


 心拍数が上がっていく中、目の前に居る男へ怒鳴りつけるよう声をあげるが、一切動かない。

 本当に、聞こえていないように……。

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