第176話 答え合わせ 

「はい、というわけで。答えはる覚悟でした~!クイズとしては簡単すぎましたね!」


「なるほど!確かに簡単…なわけあるかいっ!!…っは!あまりの理不尽な答えに思わず突っ込んでしまいました!!失礼しました…おほん、八車様、こんなの分かる訳ないじゃないですか!詐欺ですよ詐欺!クイズになってません!」


「そうですか?禁忌領域勢の二人を引き合いに出した時点で答えを言ってるようなものじゃないですか」


「いやいや…分かるわけないですよ。そもそもヤる覚悟って殺す覚悟って事ですよね?むしろレナさんとは縁遠い気がするんですけど」


「普段のレナさんの印象が強ければ、そう思うのも無理ないかもしれませんね」


「そうですよ。むしろナツキちゃんの方がヤる覚悟が漲ってると思うんですが」


「普段のナツキちゃんは犯る覚悟…おっと、今のはナシでお願いします!さて、これだけだとレナさんがヤバい奴だと勘違いされてしまいますので、もう少し突っ込んで説明したいと思います。といっても万生教徒の皆さんなら分かると思いますけどね」


「私達がですか?万生教はそんな物騒な集まりではありませんが」


「今ここで、万魔様が襲われたらどうしますか?」


「万魔様が襲われる前に、襲ってきた輩をぶっ殺します!!」


「ですよね。分かりやすく言えば、大切なものを守る為にどこまで自分を投げ出せるか、という事ですね」


「成程。それなら分かりやすいですね。始めからそう言ってくれれば変にツッコミを入れなくても済んだと思うんですが」


「本質的にはる覚悟の方が近いんですよね。そもそも先ほど万魔様が襲われたらどうしますかと聞きましたけど、実際本当に、襲ってきた輩をぶっ殺せると思いますか?」


「それは…たしかにぶっ殺すは言い過ぎたかもしれませんが、万魔様の盾にくらいならなれると思います」


「別に非難しているわけではありませんよ?そういった覚悟を宮路さんが持っているのも分かりますが、実際にやれるかどうか、それは直面してみなければ分かりません」


「そんな事はありません!私は何時でも万魔様の為に命を投げ出す覚悟です!それを否定されてしまっては、いくら八車様相手といえども、最早戦争しかありません!」


「落ち着いて下さい。覚悟があるのと、実際に行動できるかはまた別問題なのです。それは私達万魔十傑衆でもそうなのですから」


「フーッ、フーッ…見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ありませんでした。万魔様への想いを軽く見られたと思ってしまい、つい激昂してしまいました。それで、八車様達も同じとはどういうことなのでしょうか?」


「最強仮面さんの抜き打ち天獄郷襲撃訓練、皆さんは当然覚えてますよね?あの件は当然、私達万魔十傑衆すら聞かされていませんでした。天獄殿の防衛につく黒巫女達を容易く蹴散らす最強仮面さんを誅すべく、私達万魔十傑衆は最上階、天獄の間にて迎え撃つ事を選択。そして最強仮面さんを天獄の間にて迎え撃ち…結果、何の成果もあげられず、一瞬の内に気絶させられました。唯一、気絶せずに務めを果たそうとしたのは隊長のみという体たらく…とまあ、このように覚悟がどれだけあった所で、実際に出来るかどうかはまた別という事です」


「ですが、実際に立ち向かわれたわけですよね」


「まあそうなんですけど。あの時はピカッって光った瞬間、あ、死んだなって思う間もなく気絶しちゃいましたからね。で、丁度名前が出てきたので話を戻すんですけど、つまりはレナさんにとっては最強仮面さんがそうなんだって事なんですよ」


「殺したい相手がですか?え…レナさんにとっては恩人ですよね?流石にそれは解釈違いかと…」


「風音、話が取っ散らかって説明になってないぞ」


「えへへへ、すいません隊長。つまりですね。私達にとっての万魔様が、レナさんにとっては最強仮面さんなわけですよ」


「つまりは最強仮面さんの為に、レナさんはる気満々ということですか?」


「そうとも言えます。レナさんの身になって考えてみましょう。ダンジョン探索中に唐突にワンダラーエンカウントに遭い、死を覚悟したと思います。でも死にたくないから必死に足掻きますよね?でも駄目だった。必死に逃げて逃げて、そして正に死ぬその瞬間、最強仮面さんが颯爽と現れて、レナさんを助けたわけです。これまで一切討伐記録がない、ワンダラーを撃破して、です」


「惚れちゃいますね」


「惚れちゃいますね!レナさんの魂には、きっとその時の体験が刻み込まれたに違いありません。この状況、正に天獄郷を解放した万魔様と、そこに一縷の望みを抱いて集まった万生教の祖先の人達の関係に似ていると思いませんか?」


「言われてみればそうとも言えるような?」


「そうでしょう!レナさんはきっと思ったに違いありません。最強仮面さんに会いたいと!近づきたいと!側にいたいと!!」


「当然、諦める選択肢はありませんよね!」


「手を伸ばしても届かないものを欲した時、どうするのか…諦めるのか、手を伸ばし続けるのか、それは人それぞれであり、どの選択も正しくもあり、間違いでもあります。伸ばした先に手が届くこともあれば、届かずに無駄骨だったと嘆く事もあるかもしれません。向こうから引っ張ってくれるかもしれませんし、突き放されるかもしれません」


「レナさんは、追いかける事を選んだわけですね!最強仮面さんの背中を!…あれ?でもその割には最近のアレナちゃんねるの話題は専ら万王様なような?」


「盛り上がっとる所悪いが、結局殺る覚悟とレナがどう関係あるんじゃ?」


「つまりですね!レナさんはワンダラーエンカウントにより死の恐怖を味わいながらも、探索者を続ける強靭な意思を持っているわけです。そしてその原動力は最強仮面さんへの憧憬です。死を実感した事で生半可な事で動じることなく、大抵の事には耐えられて、最強仮面さんの背中を追い続ける手段に躊躇がないという事です!」


「死ぬ事に比べれば多少の怪我なんて我慢できるし、最強仮面さんの事を思えば大抵の事はへっちゃらだって事ですか?」


「そういう事です。織田遥さんや毛利恒之さんも、その立場上、死線の一つや二つは潜っていると思いますが、それはレナさんと違って最大限安全を担保して行われた上での戦いでしょうから、レナさんの方が濃い体験をしていると思います。そしてその体験の差は、実力が近ければ近い程顕著に表れます。草薙さんは見る限り、草薙流古武術の修行はしていますが、死にそうな目に遭ったりといった体験はなさそうです」


「勘違いしたら困るから言っておくが、これを見ている者達はわざわざ死にそうな目に遭ったりしないように」


「その通りじゃ。死ぬ気でどうにかなるのなら、禁忌領域などとっくに解放されておるし、北条もあのような負け方はしておらん。大事なのは日頃の積み重ねと誠実さじゃ。そもそも一つしかない命、大切にしてくれると儂は嬉しいのう」


「万魔様のお言葉、心に刻み込み軽率な行動は慎むように。レナに関しては偶々…そう、不幸な偶然の積み重ねでそうなってしまっただけだ。むしろ被害者とすら言えるだろう」


「被害者ですか?」


「そうだ。C級探索者とはいえ、あの年頃の娘が人に刀で刺されて平気な顔をしている等、異常極まりないと思わないか?草薙の反応が正常なのだ。だがレナはもう戻れない、戻る気もないだろう。そこまで鮮烈な体験だったという事だ」


「レナさんも普通の女の子ですもんね…何が不幸で何が幸せか、人それぞれとはいえ、考えさせられる話です」


「そもそもる覚悟などと物騒な事を言う風音が悪いのじゃ。罰として、そうじゃの…天獄郷にいる間、鏡花と茜にお主のいうる覚悟とやらを教授して貰おうかの。二人が納得するまで関東には戻らんでいいからの」


「畏まりました。というわけで風音、私と茜にお前の言うる覚悟とやらをご教授願おうか。まさかお前から教えを乞う日が来るとはな…なに、安心しろ。他の者達ならともかく、私と茜なら心配いらん。殺されても文句は言わんし、そうなったらお前が次の無常だ」


「え、えへへへ…そんな隊長、真剣な顔して怖いですよ?久々に故郷に帰ってきて、ちょっと羽目を外しちゃったかも~?って…本気…ですか?そ…そんな!理不尽すぎますよ!万魔様も命を大事にっておっしゃったじゃないですか!よりによって隊長と茜さん二人だなんて…冗談ですよね?冗談って言ってくださいよ!…嫌ぁぁああ!!嘘だと言ってくださいよ万魔様ぁぁああ!!止めて下さい!死んでしまいます!!」

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