第146話 退屈を殺すもの
つまんねぇな…何でもありの戦いだっつうから結構期待してんだが。俺に背を向けわき目も振らず逃走する輩を眺めつつ、ため息が零れた。遭遇した奴全員がこれだ。
正々堂々なんて期待しちゃいないが、喧嘩を売るだけの度胸があるんなら、白黒はっきりつくまでやり合おうって気概はないのかよ。どいつもこいつも不意打ちが失敗したらトンズラしやがって…ちょっと魔法を斬っただけじゃねえか。なんで化物でも見るような目で俺を見て逃げ出すんだよ。
このバトルロイヤルが倒した人数も関係あるなら、どんな雑魚でも見逃したりはしないんだがな。最後の一人以外は全員敗者のルールのお陰で、俺としてもわざわざ雑魚狩りする気も起きずに見逃してるわけだが。不意を突いてこの程度なら何人束になって掛かってこようが俺の敵じゃねぇし。
マジでつまんねぇなぁ…織田遥辺りとばったり遭遇しねえかな。あれだけでかい口叩けるような奴なんだから、まさかその辺の奴らと同様に不意打ちかまして不利になったらトンズラかます恥知らずな真似なんてしねぇだろうし。何より同じ禁忌領域守護家の出なんだからな。アイツとなら面白い戦いが出来ると思うんだよな。
いっその事姿晒して襲撃されるのを待つのもありっちゃありなんだが、こんな山の中じゃ見つけるのも見つけてもらうのも一苦労だからな。さっさと平原なり町なりに辿り着かなきゃ始まらねぇ。その点、初期位置が山頂付近で助かったぜ。山頂で木に登ってある程度地形が把握できたのはでかい。あのでかい黒目玉の事も気になるし、少なくとも退屈はしなさそうなんだ。そいつにいつ出会えるかってのが問題なだけでな。万魔央とやり合えないんだ。せめて天獄杯に参加した元は取らなきゃやってらんねぇぜ。
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その光景を見ることが出来たのは、たまたまにすぎなかった。殺る気もないのにちょっかいをかけてくる奴がまた現れ、いい加減ウザかったので周りの樹ごと切り倒した。そいつはビビッて逃げちまったが、まあいい。相変わらずつまんねぇ奴らだなとため息をこぼしながら空を見上げる。丁度その時だった。周りが開けたお陰だろうか、天にも昇る火柱を目撃したのは。一瞬どこかの山が噴火したのかと思ったが、まさかそんなギミックがあるわけもない。山火事ならあんな風に燃え上がらないだろう。つまりあれは、誰かが使った魔法という事になる。
自然と口元がにやける。あの火柱の方向に向かえと俺の直感が囁く。確かにこのまま普通に下山しても骨のある奴と戦えるかは微妙だ。だがしかし、あの火柱を出した奴なら。隠れ潜み不意を突くのが定石のバトルロイヤルで、あそこまで自己主張の激しい魔法を躊躇いなく使える頭のネジがぶっ飛んだ奴となら、面白い戦いが出来るかもしれねぇ。あれだけでかい打ち上げ花火だ。結構な数が見てるに違いない。つまりあの花火を打ち上げた奴は俺達に言ってるわけだ。ここにいるぞと。自分は逃げも隠れもしない、自身があるなら、怖くないなら掛かって来いと。あれはこのバトルロイヤル参加者に対する宣戦布告で挑戦状だ。
面白れぇ…!!こんな手があるなんて思いつきもしなかった。単純だがそれ故に意図は明白。俺も魔法がまともに使えりゃ真似したいくらいだ。ココがいりゃ同じ事して貰うってのもあったんだがなぁ…っと、そういやココに連絡入れなきゃだな。マジックバッグからスマホを取り出し、そういやスマホなんて使えるわけねぇだろと思い直すが、画面を見たらココと親父たちからメールが山のように送られてきていた。
おいおいまじか…スマホ使えるのかよ、馬鹿じゃねえの?連絡とり放題じゃねえか。呆れつつもココに電話をするが繋がらない。電話は繋がらないのか…でもメールは送れると。なんでこんなあからさまな欠陥を残したままでバトルロイヤルしてるのか理解に苦しむが、主催が万生教だからな、きっと深い意味があるんだろうよ。とりあえずココと親父たちに心配かけたなとメールを送り、スマホをしまう。個人的に使うのはフェアじゃない気がするからだ。使える物は何でも使えと万魔様も言ってたから問題ないんだろうがな。中国探学に知り合いなんていねぇから連絡取れる奴なんていやしねぇし。そもそも相手もスマホが使える事知ってなきゃ意味ないしな。
何より俺の目的に共闘する奴は邪魔になる。仮に共闘して俺が優勝したとして、俺の我儘を万魔様に叶えてもらうのは筋が通らねぇからな。このバトルロイヤルは独りで勝ち抜く。それはそれとして強い奴とも戦いてぇ。両方やらなくちゃならないのが面倒でもあり楽しくもあるわけだが。とりあえず行先変更だな。火柱の上がった場所に行くとするか。偶然とはいえココと親父たちにも連絡取れたし、あの火柱を出した奴には感謝だな。
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期待に胸を躍らせて火柱の発生源へと急ぐ。まるで何かに導かれるように。余計なちょっかいをかけてくる奴らとも遭遇せず、山中をものともせずに駆け抜ける。そうしてどの位経ったのだろうか。遠くから激しい剣戟らしき音。近い。自然と口がにやける。これは当たりを引いたか?俺と同じで発生源を確認しようとした奴がいたらしいな。先を越されたっぽいのは癪だが…どうすっかな。他人の戦いに割り込むのは好きじゃねぇんだよな。とりあえず様子見か?それで残った方と戦えばいいか。そう考えた矢先、連続して何かが降り注ぐような轟音が鳴り響いた。ヤベ、もしかして一番良い所が終わっちまったか?打って変わって静まりかえった森の中。今度はなにかが砕けるような音と絶叫が響き渡る。一体何が起こってんだよ…なるべく音を立てずに進むみ木々が開けた先、広場になっている場所に誰かがいた。気付かれない様木陰に身を潜め様子を伺う。
女?…てことはあの火柱出した奴は織田遥か?可能性はあるな…面白れぇ。こんな序盤で脱落したら織田の面目丸つぶれだろうが、俺に出会ったのが運の尽きってな。
広く開けた場所には屋根の吹き飛んだボロ小屋。火柱の発生源はおそらくここで間違いねぇ。
先客は全員女みたいだな。織田遥じゃねえな、あの特徴的な髪型してねぇし。位置関係で見れば1対3っぽいが…三人が同じ制服って事は、あいつら共闘してるのか?あの制服…東北探学か。成程、なら三人でつるんでるのも頷ける。天獄杯に出るからってんで少しは勉強したからな。東北探学の強みは連携ってのは流石に覚えてる。そして黒巫女候補だって事もな。対する一人は…
!?ありゃ、日向じゃねえか。なんであんな所にいやがる?あいつまともな攻撃手段もってなかったはずだよな?手に魔法銃っぽいものを持ってるが…そもそも魔法使えない奴が持ってても意味ねぇだろ。なに考えてんだあいつ。しかし多勢に無勢だろありゃ。戦闘のド素人と連携に長けた黒巫女候補三人組。勝敗なんざ比べるまでもねぇ。
なんでこんな事になってんだ?あの屋根吹き飛ばしたのは東北探学の連中か?いや、そんな馬鹿目立つ事するわけないし、したとしてもすぐにその場を離れるだろうな。とういことは、さっきまでの戦闘音は東北探学の連中と火元の原因の戦闘で、逃げられたって事か?それでタイミング悪く日向が現れたって所か。なんか引っかかるが…
日向も運が悪かったな…あいつらが見逃すってのは、まぁないだろう。日向を倒すメリットなんてないが、見逃すメリットもない。いや、見逃して多少なりとも情報が天月や星上に渡るデメリットがある以上、ここで始末しない選択肢はないだろう。
日向は運が悪かった、それだけだ。日向みたいな無害な奴に多勢に無勢ってのは気に入らねぇが、これも勝負の綾ってやつ…いや、違うな。こんなのは勝負でも何でもねぇ、ただの蹂躙だぜ。…ったく。頼んだわけじゃねぇが、あいつにはココを助けてもらった恩があるからな。…仕方ねぇ、今回だけ助けてやるよ。それで貸し借り無しだぜ。
「おいお前ら、恥ずかしくないのか?戦う術を持たない相手に三人掛かりでよ」
わざと音を鳴らし、木陰からゆっくりと姿を現す。俺を見る4人。ボケっと素人丸出しに突っ立ってる日向と違い、東北探学の三人は一斉にこちらを警戒…いや、あの立ち位置、俺と日向を警戒してる?どういうことだ?まあいい。とりあえずこれで一方的に日向がやられることはないだろ。後はこの後どうするかだが…
ボケっと突っ立っていた日向がプルプルと震える。余程怖かったのだろう。まあ気持ちは分かる。俺だって初めて実戦に出た時は震えが止まらなかったからな。
「毛利…恒之…」
「おう、あの時は世話になったな。ここは俺が助けてやっからよ。お前はさっさと逃げな。ココを助けてもらった借りはこれでチャラだぜ?」
「毛利…恒之!!」
「なんだよ。何度も言わなくても聞こえてるっての」
「死ねっ!!」
俺に銃口を向ける日向。明確な殺気が俺に向けられる。なんだっ!?日向の意識が俺に向いたと同時、東北探学の三人が散る様に逃走した。っだと!?この状況で全力で逃走だ?どういうことだ!?俺を殺意の籠った眼差しで見る日向。その小さな指が引き金を引き―――なんか知らんがやべぇ気がする!!
日向が引き金を引くのと同時、俺の抜刀により銃口から放たれた炎の奔流が真っ二つに断ち割れる。
「毛利恒之…お前を殺す」
意味がわかんねぇんだが!?
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