第84話 反省会
「結局奈っちゃんの勘違いだったね」
「勘違いで良かった」
「勘違いを反省するならともかく、良かったで済ませるのは流石にどうかと思いますが」
「レナ、よく考えてみて。もしわたしたちが尾行しなければどうなっていたと思う?」
「どうにもなっていないのでは?そのまま禁忌領域の素材を矢車さんに渡して帰って来たのではないでしょうか」
「っ!!違う、違うよレナちゃん!もし私たちが尾行してなければ、れーくんはメイド喫茶ぱんでもにうむで、けも耳メイドさんハーレムだよ!!」
「そう。ありすの言う通り。わたしたちが尾行したからこそ、わたしたちがけも耳メイドさんハーレムを成し得たけれど、もし尾行していなければ、委員長たちがれーくんをけも耳メイドさんたちで囲っていた」
「そんな事は…いえ、確かにそうかもしれませんね」
「れーくんの反応からみても、けも耳メイドさんが好みなのは間違いない。そんなけも耳メイドさんの巣窟とは知らずに来店した子猫ちゃんが、無事に帰って来れると?委員長がただで帰すとでも?そんな事はありえない」
「確かに。あの様子では矢車さんも嬉々としてご奉仕していたでしょうね。そしてあの場にそれを当然と受け入れる人はいても、咎める人はいない…ですか」
「確かに尾行したのはやりすぎだった。これからはしない。でも尾行が間違っていたとは思わない。今後もれーくんの単独行動は注意する必要がある。だからこそ次からはやり方を変える」
「一体どうするつもりですか?」
「れーくんはありすに甘い。そもそも今回の件も、ありすがごねればおそらく一緒に出掛ける事が出来ていた筈」
「れーくんが嫌がる事はしたくないよ?」
「ありす。何のために言葉はあるんだと思う?それは分かり合うため。人は誰もが違う生き物。考え方も生き方も違う。だけど話し合う事で人はお互いを理解しあうことが出来る。今回の件もそう。れーくんがどこに行くのか、何をしに出かけるのかちゃんと確認していればこんな事にはならなかった。行先が分かれば事前にメイド喫茶だと知れて対策が取れた。素材を卸す為に出かける事を知っていれば女だなんだと騒ぐこともなかった」
「それはそうかもしれないけど…」
「れーくのん行動に干渉して捻じ曲げられるのは、現状ありすしかいない。れーくんの一番身近にいて、一番頼られていて、愛されているお姉さんのありすにしか」
「頼れるのはお姉さんの私だけ…やるよ奈っちゃん!弟が道を踏み外さずに正しい道へ導くのもお姉さんの役目だもん!!」
「当面はおそらく何もないはず。事態が動くとしたら…」
「天獄郷旅行ですね?奈月御義姉様」
「そう。勝負は天獄郷。失敗は許されない」
わたしたちにとって勝負の夏。決戦の夏休みが始まるのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「明日から夏休みだが、いくつか連絡事項がある。まず一つ目。夏休み明けにダンジョン探索評価試験が行われる。これは4月末に行われたダンジョン探索者適性検査時と同じPTで挑んでもらう事になる。この試験の評価項目は二つ、到達階層と討伐モンスター数だ。自分たちがどこまでやれるか、どういう状態なのかをしっかりと把握しながら挑む必要がある。どのダンジョンに挑むかもお前たちの判断に委ねられるが、当然ランクの高いダンジョンの方が評価は高い。リスクを取るか安定を取るか、それも含めて試験の内だ。夏休みをどう過ごすかはお前達の自由だが、遊び惚けて後悔する事のない様に」
無常先生の言葉にビクッと反応する生徒がチラホラ。気持ちは凄く分かるけど。何なら私も少し浮かれているし。
「このクラスは特に注意する必要がある。何故かはわかるな?」
「はい!豪華天獄郷旅行2週間があるからです!!」
「そうだ。8月からの2週間が天獄郷旅行で潰れる事になる。この中で行かない予定の者は…いないようだな。前にも言ったが羽目を外すなとは言わん。だが自らの立場を自覚しろ。何のために魔央様がこのような旅行を企図されたのか。お前達が遊び惚ける為に用意されたわけではないと心しておけ」
「え、そうなの?」
「嫌な事は忘れて目一杯楽しんでリフレッシュする為じゃないの?」
「はぁ…お前達を遊ばせる為にこのような旅行を企画されるわけがないだろう。口ではおっしゃられないが、魔央様はお前達に期待しているのだ。将来探索者として大成する事をな。だからこそ天獄杯を直に観戦できるこの機会は有意義な時間になるだろう。加えてお前達が泊まる場所は黒巫女の住処でもある天獄殿だ」
「つまり黒巫女さんとお近づきになれるって事か」
「でもお前万生教信者じゃないじゃん。相手にされないんじゃ?」
「そこはほら。万王様のとっておきの話知りたくありません?とか言ってだな…」
「そればれたら絶対殺されるやつじゃん…」
「ちなみにだが。万魔様のお膝元で大恥を晒すような輩は、魔央様が御許しになられてもこの私が許さん。肝に銘じておけ」
「「はいっ!!」」
「皆さん、無常先生はこうおっしゃりたいのです。我々は万王様に直接招待された客人ですので、万生教徒の方達も無下にはされません。つまり頼めば黒巫女達も助力は惜しまないという事です」
「それはつまり頼めば何でもしてくれると?」
「「何でも!?」」
「自分に自信があるのなら試してみるのもいいと思いますよ。皆さんは既に探索者です。自分のした事の責任は取れると思いますので」
「言っておくが、黒巫女として認められた者は最低でも探索者ランクで言えばBランクに相当する。今のお前達より遥かに格上だ。それを踏まえた上で行動するんだな」
黒巫女さんかぁ…けも耳巫女さんはどうなんだろ?れーくんはどっちが嬉しいのかな?
「たかが2週間、されど2週間だ。天獄郷での2週間はお前たちの今後の人生にとって得難いものとなるだろう。どう過ごすかは各自の判断に委ねるが、後悔だけはしないように」
先生の言う通りだ。どう過ごすかで今後の展開が大きく変わる。天獄郷での2週間が今後の人生に大きな影響を与えるのは間違いない。私たちとれーくんの関係を一歩進める、特別な2週間にするんだ!!
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