第35話 見据える先は
あーちゃんとなっちゃんのダンジョン配信前日。当たり前のように俺の家で寛いでいる二人と一緒に、当たり前のように夕食を食べていた時の事。
「そういやレナちゃん、明日来るってさ」
「誰がですか?」
「あーちゃんとなっちゃんがダンジョン潜ってる間、修行したいって言ってたでしょ」
「見つけてくださったんですか!」
「うん。誰か良い人いたら紹介してくれって万魔に頼んでたんだけど。明日来るってさ」
「ありがとうございます!」
「レナちゃんが強くなればあーちゃんも助かるしね。刀メインで魔法も使える人でよかったんだよね?」
「はい。万生教で戦闘を主とする方々は、両方使い熟すと聞きましたので」
「誰が来るか知らないけど。詳細は二人で詰めてね」
「はい、ありがとうございます」
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当日。あーちゃんとなっちゃんのダンジョン配信は9時からだ。俺も探恊にそれまでに着いておかなければならない。レナちゃんはお家でお留守番である。
「それじゃ行ってくるね」
「はい、いってらっしゃいませ」
「万生教の人、こっちに来ると思うから」
「分かりました」
よし、それじゃ行こう。扉を開けて外に出ようとしたら、家の前で直立不動で立っている女の人が居た。この人は…
「おはようございます、魔央様」
「おはようございます。貴女は…」
「万魔様より、魔央様が稽古の相手を探しておられると伺いまして。僭越ながら、私、無常鏡花が志願させて頂きました」
ええ…この人あれじゃん。万魔十傑衆だっけ?それの筆頭してた人でしょ。まじで?なんでそんな人が来るの?
「…無常さんってあれですよね?確か万魔十傑衆の筆頭してましたよね?」
「覚えておいででしたか!その節は魔央様の事を知らず、大変なご無礼を働きましたこと、深くお詫び申し上げます」
「いやいや…あれは自分が悪いので」
ちなみにこの人は俺が最強仮面という事を知っている。俺が帝級使ったのを覚えてたし、俺と小雪ちゃんの会話を聞いていたから見当がついたんだろう。万生教信者だし漏らす事もないだろうと思って、問われた時に素直に肯定したのだ。
「というか万魔の方は良いんですか?神衛隊長ですよね?側を離れるのは不味いんじゃないですか?」
「ご心配なく。私がこちらにいる間は、次期隊長候補の茜に、経験を積むついでに実務を任せておりますので。後は例の件もありますし、私が適任だろうと思い、志願致しました」
最強仮面の事もあるから知ってる自分が来たって事か。むぅ、悪い事しちゃったかな。
「その事だけど、色々考えた結果、別に隠す必要もないんじゃないかなって思って。自分からばらすような事はしないけど、バレたらバレたで問題ないから。あんまり気にしないでね」
「畏まりました」
「だから、わざわざ来てくれて申し訳ないんだけど、無常さんじゃなくて良いんだけど。万魔の事が心配でしょ?」
「ご心配なく。あのような失態を見せた後に言う事ではありませんが、私が抜けたとしても、万魔神衛隊は十全に機能致しますので。それとも私ではお眼鏡に叶わなかっ
たでしょうか?」
「いや、予想より遥かに上の人が来ちゃったからどうしようかなって思ってさ…万魔にちゃんと話聞いた?頼んだのって、俺の稽古じゃないよ?」
「はい。万魔様より聞いております。ありす様とPTを組む予定の者を鍛えるのですよね?その為に刀と魔法に秀でた者を探しているとか」
「そうなんだけど。えー、いやぁ…う~ん…」
「僭越ながら、万魔十傑衆の筆頭に相応しくあるべく、鍛錬をしてまいりました。刀剣術、魔法に関しても、教鞭するだけの実力はあると自負しております」
「本当に良いの?誰もしたがらないから私が来たって正直に言っていいんだよ?」
「ご安心ください。誰がこの任につくか、十傑衆で争いになった程度には皆来たがっていましたので。当然私が勝ちましたが」
「そうなんだ…じゃ、お願いします。すいませんけどこれから用があるので、家に上がってもらっていいですか?当人は中で待ってると思いますので」
「はい。それでは上がらせてもらいます」
「ああ、住む所が決まってないなら、右側の家が空き家なんでそこを好きに使ってください。後何か用があったらいつでもどうぞ。起きてたら話聞きますので」
「!…はい!有難く使わせて頂きます」
「それじゃすいませんけど、これで失礼します」
ぺこっと頭を下げて探恊へ。それにしても、無常さん何時からあそこにいたんだろう?
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「失礼する」
魔央様の外出を見送った後、家へと入る。ふぅ…おかしな所はなかっただろうか?
ありす様のダンジョン配信が9時からの予定だったので、魔央様と万が一にもすれ違わないよう7時から玄関前で待機していたが。私が居るのを見てありす様が魔央様を呼ぼうと気遣ってくれたが、遠慮させてもらった。主の行動を妨げるようでは従者失格だからな。
万魔様がこの任に適した者を探してくれと頼まれた時、誰が適任か、誰が向かうのかで言い争いになり、揉めに揉めた。結局、最後に立っていた者が任につくという事で収まったが。
万魔央様。万魔様の後継者にして、あの最強仮面。未だにあの光景を思い出すと震えがくる。万魔様しか使う事が叶わなかった帝級魔法。それをあの歳にして既に習得しているという奇跡の存在。魔央様と最強仮面が同一人物だと知った時、我々がどれほどの歓喜の念に包まれたかは、同胞にしか分からないだろう。
恐山天獄門が解放されて300年余り。誰一人として万魔様に並ぶ者は現れなかった。追いすがろうとする者さえも。万魔様を慕い、敬い、崇めるだけの我々では成し得なかった事を、魔央様はあっさりと成し遂げられた。ついに現れたのだ。万魔様の孤独を埋め、隣に立ち、共に歩く御方が。そんな方が望まれた事を叶えずして、何が万生教か、神衛隊か。
そして件の人物だが、魔央様の姉であるありす様と将来PTを組むとの事。魔央様がどれだけありす様を溺愛しておられるかは万魔様より伺っている。もしありす様に万が一の事があれば、禁忌領域以上の災厄になるやもしれぬとも。
万魔様より告げられたのは、魔央様が、ありす様とPTを組む予定の人物を、鍛えてくれる人を探していること。当人は刀を使い、各種魔法を満遍なく使うオールラウンダータイプ。ただし才能はそこまで秀でていないと。だからこそ私は志願した。天性の才ではなく、不断の努力によって十傑衆筆頭の座を掴み取った私が。
望むなら私の全てを教えよう。抗うだけの力も与えよう。だがそれは、それに耐えうるだけの意志を持っていればの話だ。半端な覚悟では到達できず、半端な覚悟など許しはしない。魔央様からの期待、万魔様の配慮、万生教を頼った意味、それらを理解できていないならば…
「初めまして。本日この時より教えを乞う事になります。私、星上レナと申します。万魔央様の為、ありすの為、ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い致します」
視線が交差する。…我らとよく似た目をしている。少なくとも、生半可な気持ちではないようだ。ふん、いいだろう。
「万魔神衛隊十傑衆筆頭、無常鏡花だ。万魔様の、魔央様の要請により、貴様を鍛える為にここに来た。初めに言っておく。甘えは許さん。妥協も許さん。断る機会は今、この時のみだ」
「構いません。お願いいたします。強く、ええ、強くならなければ…並ぶことも、追いすがる事も、近くにいる事すら叶いませんので」
「良いだろう。今この時よりお前は私の弟子となる。私のことは師匠とでも呼べ。私の全てを教えると誓おう。得た力は、お前の好きに使うと良い」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
―――――面白い。私の、私たちの全てを伝えよう。我らが万魔様の矛であり盾ならば。お前は魔央様の、ありす様の矛であり、盾となるが良い。
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