漆黒

りゅうちゃん

第1話 闇バイト

「なんで、こんなことをしてしまったのだろうか」

 茹だるような暑さの昼下がり、項垂れた様子で若い男がスマホを見ながら立ち尽くしていた。この男の名前はカズヤ、Fラン大学の2年生。

 地元の底辺高校から奮起し、一浪の末何とか大学に潜り込めたが、所詮はFラン。特に面白くも無く退屈な日々を過ごしていた。サークルもいろいろ試したが、何のとりえもない平凡な男は周りの華やかな人たちを飾るただの風景でしかなかった。「金、金さえあれば」とバイトをするも、時給1000円ちょっとの底辺仕事。毎日毎日働いても、ちょっと旨いもの、ちょっといい服や時計を買ったらすぐ消えてしまう。一攫千金のギャンブルをすればただでさえ少ない金がどんどん減っていく。つまらないバイトしてつまらないことで金を使って、無駄に時間を浪費していく、こんな人生なんだろうか。高校の時も、気が合うわけでもないつまらないやつらとつるみ、たいして楽しくない会話をして、興味のない遊びをして、たいして可愛くも無い女の気を引いて、無駄に時間を潰していた。大学に入ってもキラキラしているやつはほんの一部で体育会系かバカのくせに金持ちの奴ら。俺が楽しくやるには金、金しかない。金があれば、いい車に乗ってスキーやサーフィン、別荘でパーティ。海外留学だって出来る。もっと、もっと割のいいバイトを探さないと。これが良くなかった。興味本位でタマネギなんか使わなければよかった。

 「転売の簡単な仕事です」日給5万円と破格の報酬で定期的に仕事があり、バイトリーダになれば10万円夢ではない、という求人広告に飛びついたのは早計であった。日給の高さからまともな仕事ではないと思ったが、限定販売の商品やチケットの買い占めや精々バッタもんや盗品の売買くらいのグレーな仕事だろうと高を括っていた。だが、内容は完全にブラックなタタキ。元手なしの転売だからと言うことで、マイナンバーと銀行口座、顔写真を送らされた。

 仕事の連絡が来て初めてタタキの仕事と分かったが、詳細な計画も書かれており、逃げたら家族含め安全の保障は無いと恫喝する内容も含まれていた。計画は単純でもう逃げることは出来ないだろうか。警察に相談すべきか、一掃の事、闇バイトに手を染めるか。いずれにせよろくな結果は待っていないことぐらいは分かる。欲なんかかかずに、平凡を受け入れれば良かった。だが、時間は戻ることはない。どうすれば良いのか分からない。

 途方に暮れ、行くあてもなく外をぶらついていたら、突然背中に衝撃が、振り向いて睨みつけると、長身の懐かしい顔が不敵な笑みをたたえ立っていた。

「アキラ先輩」

 安堵の為、取り止めも無く涙が流れ、先輩に駆け寄ったら前蹴りを喰らって

「汚い分泌物流して近づくな馬鹿」

 さらに左足に回し蹴りを喰らってさらにケツを蹴られ

「涼みに行くぞ、バカ」

 先輩の蹴りに操られ、近くに店に連れていかれた。

 アキラ先輩は二つ上の高校の先輩。今は超一流大学の大学院生。異常に頭が良く教科書を見ただけで解るので今までまともに勉強したことが無い。受験勉強すらしたことも無いらしい。そんな先輩が底辺高校に行ったのは、単純に家からの交通の便が一番良かったから。高校でも一目置かれB高のアンタッチャブルと呼ばれていた。勉強だけでなく、文武両道、しかもやんちゃもかなりしていたから質が悪い。単にバス停が一緒と言うだけだったが、先輩には可愛がってもらった。といってもバス待ちの暇つぶしで蹴られたり、時々悪さに付き合わされたり振り回されただけだが、先輩と出会ったことで、頭悪いなりにも勉強に興味が湧き、大学を志したのだ。

 昔ながらの昭和の匂いがする喫茶店に入ると、体に悪そうなクリームソーダを2つ頼み(当然、俺に聞くことも無く)ソファーに座り込んだ。

「どうした、バカ」

 そう思えばこの人との付き合いは5年近くになるけど、名前で呼ばれた記憶はない。ろくでもない性格の持ち主だが、非常に頼りになる。先輩に闇バイトの話をした。

「ほっとけ、そんなもの無視しろ。こいつら素人、もしかしたら子供かもな」

「どう言う事ですか」

「愉快犯だよ。これは。大体来るかどうかわからない奴に詳しく計画教えるか?まあ、愉快犯で無ければ余程のあほだから出した個人情報なんて使いこなせねえよ」

「でも、襲われたりされたりしませんか」

「見せしめでやる可能性は0ではないが、無駄だろう。毎回、寄せ集めでやるタタキに見せしめもクソも無いだろう。タタキのブツ横取りしたら別だろうが、お前をを襲ったところで、一銭にもならないからそんなあほことをしないぞ。まとも(?)組織ならな。素人が嫌がらせで出来ることなんて個人情報をダークウエーブで晒すくらいだが、大金持ちや有名人でもないお前の情報なんぞ、誰も興味も持たない。口座だって小銭しか入ってないんだろう。気になるなら口座閉めとけ。」

「でも」

「そんなに気になるならお前のスマホ貸して見ろ」

 そういって、自分のスマホを出して、データ通信を行い、

「もうこれで大丈夫だ。」

「どうしたんですか」

「お前が連絡とっていた匿名チャットにウイルスばらまいたから、チャットに入った奴は感染して、お前の情報含めPCの全てデータ破壊される。これで、お前の情報の闇サイトから消え去るというわけだ」

「先輩、ありがとうございました」

 本当に心の底から先輩に感謝したが、一瞬で後悔した。先輩の狡猾な笑顔が怖い。

「こんなものに引っ掛かるなんて、相変わらずバカだな。金がいるのか?俺が良い仕事作ってやろうか」

「何をさせる気ですか。せっかく犯罪者にならず済んだのに、ヤバいことはしたくないです。怖い思いしてまで金稼ぎしたくないです」

「まあ、捕まることは無いだろう。訴えるやつがいないから。行為は別として、被害者がいなければ犯罪として立証できないというか、認識すらされないだろう」

「何をさせたいのですか」

「そうだな。お前が引っかかったのが闇バイトなら、俺のは黒バイトいや漆黒のバイトだな」

漆黒のバイトとは一体何なんだろうか。







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