第22話

 その時であった。


 アフラムとディジャールの背後で、人骨が揺れる。ガクン、と一度大きく痙攣し、その動きを止めてしまった。



 二人は咄嗟に振り返る。人々も大きな人骨の方を見つめていた。



 人骨は苦しそうに大きく吠えた。声にならないような低い鳴き声が響く。大きく開かれた人骨の口から、牙のような鋭い歯が抜けて落ちた。


 それを皮切りにしたかのように、肋骨、背骨、小さな手など、人骨のパーツがどんどんと崩れ落ちていく。地面に衝撃を与えながら形を保てなくなっていく人骨を、二人は驚いたように見入っていた。




「何故……」


 絞りだしたようなディジャールの声が、人骨の頭蓋が落下した音にかき消された。土に半分埋まるように変形したそれが、ジワリジワリと溶けていく。落下した骨が次々と溶けだしていくその異常な現象に、人々は何も言えなくなっていた。


「だって……魔法は完璧だったはず……寿命も足りているはずなのに……」


 ソリバが支えていた右腕も力なく落ち、地面に付いた部分から液状化していった。


「……こんなこと、あって……」



 しばらくの沈黙が落ちる。しかし人々はすぐに正気を取り戻し、衛兵はアフラムを捕縛。逃走したディジャールを追い、国中に駆り出されたのであった。





「あ、あの、アフラム……さん?」



 新人衛兵は目の前を歩く大罪人に声をかける。アフラムは振り返らずに、「何だ」と答えた。


「その……三年前の事件って、本当に貴方たちがやったんですか」


 新人の声は震えていた。緊張した沈黙に耐えられずについ発した質問であったが、かえってそれが空気を気まずくしたのに気が付く。


 アフラムは足を止め、振り返って言った。


「だから何だ」


 不機嫌な態度を露わにして、しかし平然と答える様子に、新人衛兵は語られた事件の信憑性を理解する。


 職務を全うしろと言っていたソリバの表情を思い出し、新人は腰の剣を絞めなおした。


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