第11話
アフラムとディジャールが玉座の間に押し入ったとき、一番驚いたのはソリバであった。
三年前、アフラムが地下牢獄に収容されたとき、その死に立ち合うのはソリバの担当になっていた。最重要囚人として慎重に取り扱われ、収容する際にも、アフラムを抑えられるだけの力を持った者でなければならないという指示が出たからである。当時の衛兵隊長は事件によって命を落としてしまったため、特例として彼が任用されたのだった。
三日三晩、アフラムの牢獄の前で見張りを続けた。時折、交代の兵が使わされたものの、代わっていたのは束の間であり、ほとんどの時間を牢獄の前で過ごしていた。
水も食料も与えられないアフラムは日に日に衰弱していく。ソリバはどんな恨み言を吐くかと思っていたが、意外なことに、アフラムは収容してから何も言わなかった。何か考え込むように独り言を呟いていたときはあったものの、ソリバに向けられた言葉は何もなかった。
三日が経過した夜、そろそろかと思って檻の中をソリバはのぞき込む。
しかしアフラムは死んでいなかった。普通ならば、人間は飲まず食わずでは三日しか生きられないはずである。だが目の前の白髪の囚人は、ひどく痩せこけた姿を晒して、まだ呼吸をしていた。魔法でも使っているのかとも思ったが、大人しげに座るアフラムに声をかけても、無言を貫かれるばかりであった。
魔法使いが寿命でしか死ねないことを知ったのは、その時である。
それからソリバはアフラム監視の任を解かれ、衛兵隊長への昇進が決まったのだった。
ソリバが最後に目撃した囚人の姿は死にそうなまでに衰弱しており、死体と見まがうほどであった。あれだけ無惨な状態であったというのにも関わらず、その呼吸は健在であり、そこから三年が経過した今でも、目の前を平然とした様子で歩いている。
彼は腰に携えた剣を手で握った。それは衛兵隊長のみに使用を許された、由緒正しき宝剣である。
隣を歩く衛兵に、あの二人にほだされないように、と小声で指示を出した。若い顔をしたその男は重々しく頷いたが、ソリバはその返事を完全には信用していない。あの二人の手先に成り下がるようであれば、この手で斬る。その覚悟を即座に固めた。
国境が見える。もう辺りは暗くなり始めていた。
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