第9話
一方アフラムは、国境を越えてからのことを考えていた。
彼がクリミズイ王国に来てから、かなりの時間が経過している。もはやイファニオンへの行き方など、ほとんど記憶していなかった。地図は手元にあるが、果たしてこの地形が今もそのままになっているのか、はなはだ疑問である。
イファニオンへはかなりの距離がある。直線距離で考えても、国を三つは跨がなくてはならない。道中には渓谷や大きな山も控えており、何よりイファニオンの周辺には大きく広がる砂漠があった。
その砂漠はさながら海のように途方もなく大きく広がっていた。砂漠は灼熱に焦げた砂を抱えており、足を踏み入れた生き物を炙って、たちまちに枯らせてしまう。
水の一滴すらも見られない。人間の力だけで越えるのは難しく、旅人たちがこぞってその道を避けるのだ。人々の間で、それは「砂海」と呼ばれていた。イファニオンはその砂海に囲まれた、陸の孤島であった。
「……おい」
そんなことを考えていると、ふと、背後から声がかかる。威圧感のある、ソリバの声であった。
「どうしたの?」
ディジャールが振り返り、上機嫌そうに返した。アフラムは迷惑そうに足を止め、口を閉ざしている。
「イファニオンへはかなりの距離があるが、そこまで徒歩で行くつもりなのか」
「ああ、そんなこと。まあ道中で馬か何か拾っていければとでも思っているけどさ」
「この国の馬は」
「ほぼ使い物にならないじゃない。小さすぎるし体力ないし、どうせすぐ死ぬって」
それまでは歩く、とディジャールが言いかけて、ソリバの隣で立っている衛兵が呟いた。
「魔法では行けないの?」
その問いに、ソリバも同意したように視線を向ける。しかし、アフラムは馬鹿馬鹿しいと首を振って、さっさと背を向けて歩き始めてしまった。ディジャールは苦笑いを見せ、アフラムについて行きながら話した。
「転移魔法を使えば確かに一瞬だ。でも、君たちが思っているよりも、転移はずっと難しい魔法なんだよ。ちゃんと成功するか分からない。他人を転移させるとなると、難易度はさらにはね上がる」
次元や空間に干渉する魔法は大抵そうだ、とディジャールは言う。
「君たちだって、体の一部がどこかに行っちゃったら困るだろう? 今はコストも削減しておきたいし、第一、転移なんて使ったら……」
ハハ、と乾いた笑いがディジャールから発せられる。
再び静寂が落ちた。
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