名無し

@botannokijo

落とし物

私の目の前には一枚のハンカチが落ちている。


塾に行くときここは田舎なので二回もバスを乗り継がねばならない、そのため家から塾にいくには1時間近くかかるのだ。今日も私は、塾に行くため最寄りのバス停に向かった。

バス停に着くと私の目の前に一枚のハンカチが落ちている。四角く折り畳まれ、汚れもないように見えるきれいなハンカチだ。

落とし物かな?と、思って近づくとなんともいえない雰囲気がそのハンカチから漂っていた。

なんとなく本当になんとなくなのだか、拾わないような方が良い気がして私はそれを拾わなかった。別に私は根っからの善人というわけでもないから。

ほどなくしてバスが来る。平日の昼間ということもあり、車内には優先席にお年寄りが2、3人しかいなかった。日に当たるのが嫌だったので私は一番後ろの席に座った。

前述した通り私の家は田舎なので駅までも結構な時間がかかる、その上子供…人も少ないためバスに乗ってくる人は今日もいなかった。

ーー間もなく○○駅~○○駅~

駅に着くと車内にアナウンスが響く、私が降りる準備を始めて、ふと前を見ると

ーハンカチが一枚落ちていた

…落とし物かなと、思った。しかしそこには、私の前の席には誰もおらず、誰もバスに乗車していないはず…なんとなくわたしはハンカチを拾わずに駅で降りた。

今日の気温は38度。塾に行けば…そうでなくともバスに乗りさえすれば、涼しいクーラーが待っている。私は最後の乗り換えのバスに乗った。このバスは住宅街、しかも高校が近くにあるのでそれなりの人が乗っている。私は後ろから二番目の席に座った。…暑くてなにも考えたくなくなる。バスの出入口が空いているとクーラーの効きが悪いのだ。早く閉まらないかとバスの出入口を見る。

そこには一枚のハンカチが落ちている。

頭が冴え、とたんに目をそらす。心臓がドクドクと音を立てる。

しばらくたつが誰も乗り降りする音も気配もしない。バスの開閉音がなりドアが閉まる。そこを目で確認すると、なにもなかった。何一つも、木の葉の一つも落ちていなかった。

私は首筋に落ちる一筋の汗を暑さのせいだと思うことにした。

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