第54話
私はキルトたちから受け取った地図を見つめた。場所は東京湾近く、人工島の一つだ。私は目の前にいるネグロニカに向けて特大の炎属性魔法を繰り出した。
『フレイム・インパクト=エクスプロージョン!』
魔力の塊は、ネグロニカの顔面付近で爆発して彼をひるませていった。そして、またも彼は私の方へ顔を向けた。私は引き続き、自分の持てる魔法をすべてぶつけていった。
『サンダー・スラッシュ!』
『ブリザード・テンペスト!!』
『まだまだ!! ガイア・エクスプロージョン!』
一定の距離を置きながら発動した魔法は確実にネグロニカを怒らせていた。彼は完全に私に狙いを定めて追いかけていった。いいぞ、その調子で着いてこい!!
『遠くだけど、お台場が見える。所定位置までもう少し......』
【ジョニー・チップ】『がんばれ、がんばれ!』
【ころころころね】『早く倒してくれ~』
\6,000【ろっくどっく】
『早く倒したいのはこっちも同じなんだけど、私達にも作戦ってのがあるんだよね』
私は駆け足でキルトたちの待つ作戦位置まで向かっていった。風で潮の匂いが私を包む。高層ビルは少し減り、開けた場所へ来た。空はもう暗くも星は見えない。
『いた! キルト! れもん、みかん!』
そこには作戦準備を終えたキルトたちが集まっていた。ネグロニカはもうすぐそばだ。私たちは全員でネグロニカをけん引して、光属性の魔法石の置いた箇所へ引きづりこむ。
『いいぞ! 石を敷き詰めてくれ!』
『全員で一斉に唱えるよ! せーの!』
『セイント・ウォール!』
魔石を軸にして、光の壁がネグロニカを覆った。ネグロニカはそれを破ろうとして体当たりするも、その壁は強固でびくともしなかった。
「ぎゃああああ!?」
ネグロニカは人語を介さず、ただただ雄たけびをあげていた。きっと、光属性の力に苦しんでいるに違いない。
「これを、君に託そう。ダンジョンのためだ」
管理人は大きな魔石を取り出して、私に渡そうと見せて来た。
『ダンジョンのためじゃないわ。私はみんなと、この世界のために戦ってんのよ! ま、勝手にだけど』
私はそれを受け取り、自分の勇者の剣にその魔石を砥石のように擦らせた。すると、剣先がいつも以上に燦然と輝きだした。
『ちょっと刃伸びてる? ま、いっか! これで、終わりだぁああ!!!』
私は、光の結界の中に閉じ込めたネグロニカに向かって勇者の剣を突き刺した。
先ほどまでとは違い、勇者の剣はネグロニカの身体に突き刺さっているのが見えた。だが、ネグロニカはその痛みでさらに暴走して体を揺らす。
『おお!? うおあああ!?』
振り落とされまいと私がネグロニカの身体に深く刺さった勇者の剣に掴まったけど、どうすんのこれ!?
「ぐあああああああああ!!!」
ネグロニカは私を振り落とそうと必死にもがくも、私は絶対に勇者の剣を離さなかった。だが、ネグロニカの暴走により、結界を張っていた魔石数個を吹き飛ばしてしまった。
『まずい! 結界が破られる! 全員退避!』
『でも、まだ姐さんが!』
『大丈夫だ! 彼女ならきっとあのレイドボスを倒してくれる! 我々も応戦しよう! みんな、補給次第ネグロニカ周辺に集合だ!』
『了解!』
配信者たちの声が、社長のドローンのおかげで聞こえてくる。みんなまだ希望を捨ててない......。私もまだまだやれる! まだ戦える!!
『うああああああ!! やってやらああああああああああああああ!』
勇者の剣を引き抜き、反り立つ壁のようにゴツゴツとしたネグロニカの背中を勇者の剣を突き刺しながら這い上がっていく。そのたびに彼の大きな腕が背中にいる私を排除しようとしてくる。
『サンダー・スラッシュ!』
\5,000【元冒険者】『やっと戻ってこれた......。後はお任せします!』
【ドエロ将校】『おかえりなさい! お疲れ様です!』
【じょぐじょぐ】『なんか、みんなで頑張ってる感あっていいな......』
【ジョニー・チップ】『俺達も皆の配信をみて貢献してるから、みんなで頑張ってるんだよ! 応援すればするほど、彼らの力になるんだ!』
『そうそう。どんな困難だって、みんな応援があるから逆転できるんだから。これ、ガチのやつ』
自分で言ってて少し恥ずかしいけど、やっぱりみんなが大好きだ。これからも配信を、ダンジョン探索を続けたい!! だから、ここで絶対に決める!!
『終わりよ、ネグロニカ!!』
彼の頭に勇者の剣を突き刺そうとした次の瞬間、ネグロニカは翼を引き出して空に飛び立った。私はその場から落ちそうになったものの、なんとかネグロニカの持つ大きな角に掴まりやりすごす。だが、ネグロニカの高度は下がらない。一直線に上がっていく。空気が薄くなっていく。早く、終わらせないと!!
『これで終わりじゃああああああああああ!』
私はネグロニカの頭部に思いきり勇者の剣を突き刺した。
すると、ネグロニカの翼が受けていた力がフッと抜けた感覚があった。
3度、重力が私を引っ張っていく感覚。その横で、ネグロニカの身体がバラバラと消えていった。光と共に、アイテムが散らばっていく。
「ありがとう、そしてすまない」
心なしか、隻眼のモールのような声が風に乗って聞こえて来た気がした。
私はその言葉を聞いて安心して、気を失いそうになっていた。近くでヘリの音がする。だが、それはすぐに遠ざかっていった。ああ、もう私はダメなんだな。そう思っていた矢先、風を切る音がもう一つ私に近づいていた。そして、ガシッと私を包む大きな腕。艶やかな黄色い肌。温かい体温。すべてが懐かしく感じた。
「大丈夫。君は僕が助けるから」
優しい声が聞こえ、私はすぐに気を失ってしまった。
顔までは見えなかったけど、きっと私を助けてくれたのはドラゴニアで仲良くなったイェラだろう。邪龍軍になってたけど、逆にそのおかげで助かったんだ......。
私は、眠りの中イェラに微笑んだ。
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