第51話
城の中へ向かうと、スカルドラゴンがお出迎えしてきた。ネグロニカは、自らの口から黒い炎を吹き出し、スカルドラゴンに応戦していた。私も勇者の剣で、彼らを一掃した。
『キリがない!』
わらわらと出でるスカルドラゴンを私たちは一体、また一体と倒していくが魔法陣によってスカルドラゴンは何度も再生してるみたいだ。
「先へ進むぞ! モールは多分、3階の王の間だ!」
『闇雲に探すよりマシか! 連れてって!』
城の内部情報をよく知るネグロニカが先頭に立ち、私達は階段を上っていった。2階に上がると、兵士の恰好をした竜が何体か待ち構えていた。
『なにこれ』
「ゴーレムドラゴンか......。ただの土くれの護衛人形だからぶっ飛ばして構わんゾ!」
私はその言葉と共に、床に手を置いた。
『ガイア・ブレイク!』
相手のゴーレムドラゴンの周りの地面から尖った岩が隆起し、彼らは見るも無残にバラバラになっていった。ゴーレムドラゴンたちは色を失い、砂のように城の方々へと散っていった。私たちがそれを見て安心して3階へ上がろうとした瞬間、その階段を潰すように砂の塊が横切ってきた。
『なに?』
「まずい......」
砂は一か所に集まっていき、形をなして大きな竜へと変化していく。
その姿はさっきのゴーレムドラゴンを大きくしたものというだけでなく、なぜか大砲のようなものを背中に携えていた。
『は? なにあの姿!?』
「ゴーレムドラゴンの合体形態、呼称するなら『ゴーレムドラゴン=バスター』とうげきカ! 初めてこの目で見たナ......。このデザインにしてよかった」
『自慢は後にしてくれる?』
ゴーレムドラゴン=バスターの銃口が私達に向き、先ほどと似たような砂の塊を打ち出してきた。私たちは二手に分かれて、先に私が勇者の剣に魔法を付与していく。
『ブリザード・スラッシュ!!』
斬撃から凍てつく風が吹き荒れ、ゴーレムドラゴン=バスターの足元を凍らせる。そして、時間差でその凍った箇所が斬撃で吹き飛んでいく。足を失ったゴーレムドラゴンは転倒してしまう。
\10,000【ハンバーグ】
\4,000【とってもトマト】
\250【ビキニアーマー親衛隊】『ビキニアーマーこそ嗜好』
誰もが私たちの勝利を確信して、イヤホンから耳が痛くなるほどにスパチャが流れていた。だが、ネグロニカだけは警戒を解いていないようだ。背中からでも彼の筋肉の強張りを感じる。彼はキリッとした表情で私に目を向けた。
「まだだ! あいつは砂があれば、再生は容易ダ! 再生する前に本体を引き抜いてやる! ネクロ・ソウル=グラスプ!!」
ネグロニカはゴーレムドラゴン=バスターに近づき、その胸元に紫色に光る自身の腕を突っ込んでいった。すると、その龍の本体と思わしき石のようなものが出て来た。
「今だ!」
『スパイラル・フィスト!』
貫通魔法を付与した拳が、その石を砕いていく。すると、再生しようとしていたゴーレムドラゴンが一気に砂と化した。その砂は、二度と再生することはないようだった。
\3,000【ドエロ将校】『かっこいい! イケメン! 好き! 抱いて!』
\5,000【元冒険者】『城にいるボスを倒せばクリアなのか?
『よかった。みんなも、スパチャありがとうね! 今はみんなのコメントは拾えてないけど、私の力になってるからコメントは忘れずにね?』
【ころころころね】『見てるよ』
【十九堂】『もっと拾えよ』
【ジョニー・チップ】『お? アンチか?』
『ごめんて。そんな怒んないでよ。こっから大ボス挑むんだからさ』
風魔法を使って壊れた階段の上に登って、私達は3階へとたどり着いた。
そこには、玉座に横柄に座る隻眼のモールがいた。彼は私たちを見るなり、立ち上がり口を開いた。
「久しぶりだな、我が弟よ。そして、勇者気取りの配信者。我の名はモール改め、ネグロモール! ネクロマンサーの遺児にて、この世界を合一する
『何言ってんの、この人......。ただの探偵だった癖に』
「自分のことが知りたくて探偵になった男が、自身の出自を知って狂うとはな......。皮肉めいたものダ。兄上、その玉座を渡してもらうゾ!」
そう言ってネグロニカは先行してモール改め、ネグロモールの元へ立ち向かっていく。そして、彼はすべての力を解放するように咆哮してネグロモールに殴りかかる。
「我に負け、勇者に拾われここに来たか。落ちぶれたものよ!」
「お前に言われたくないねェ! オレは不死身の龍。ネグロニカ! 邪龍継承者は俺だ!!」
「邪龍は2体もいらぬ!」
私は、二人の邪龍を目の前にそのまま勇者の剣で二人もろとも切り裂こうと構えた。
『おりゃあ!!!』
斬撃が飛び、部屋の壁にさえも割けて二人の元へ向かいそのままま轟音と共に邪龍二体の身体を引き裂く。さらには、城の内部が崩れ始めて邪龍たちのいた付近は瓦礫で覆われていく。
「おい! てめえ、オレまで巻き込んでどうすんだよ!」
ネグロニカは瓦礫からすぐに這い出して、蘇生して私の元に戻って来て目を見開いてブチギレ始めた。だけど、その言葉には少し信頼を感じ取れる。
『あんたは生き返るからいいじゃん』
軽く返すと、彼は呆れ笑いを浮かべながらもこちらに詰め寄ってきた。
「そういうもんじゃねえよ! あと、痛みはあるからな!」
仲良く喧嘩していると、ネグロモールがいたであろう瓦礫が動き出した。
そこからは、ネグロモールが恨めしそうにこちらを見つめて来た。
「お前、いい加減にしろよ......。なんのためにこんなことやってると思ってんだ!」
「おやおや......。シオリ、君がとどめを刺してやれ。兄上に、良き最期があらんことを......」
『死なないんじゃ、止めの刺しようがないじゃない。これどうすんのよ』
ネグロニカの方を向くと、彼は何か知っていそうな雰囲気で口を紡ぐ。しばらく沈黙が流れた後、彼は重い口を開けた。
「不死を無効にする手段、一つだけ方法がある。......それは」
「それは、聖なる光属性の魔法石で作られた勇者の剣で直接切り伏せることだろ」
ネグロニカの言葉に合わせるように、モールの方がきっぱりと言って見せた。敵が自分の弱点を話した? なんでそんな不利なことを......。
「俺はもう終わりにしたいんだ。俺が邪龍になれば、闇の瘴気を操れると思っていた。でも、違った。むしろ、闇は広がるばかりだった。街の住民に被害を出して、俺は何がしたかったんだ......!」
「兄上......。せっかく王座を明け渡したというのに、なんという体たらく。君のような優しすぎる者には、魔王になれない......。ならば、私が返り咲いてやろう! そのため、私はここに戻ってきたのだ!!」
『は? 何言ってんのよあんた!』
だが、ネグロニカの顔は本気だった。彼はネグロモールに近づき、その肩に手を置いて慰めるように、いや見下すようにネグロモールをまじまじと見つめた。ネグロモールはなにかを諦めるかのようにネグロニカにすべてを委ねているようだった。
『やめなさい! 二人ともおかしくなったの?』
「もう遅い。私は完全となった! 兄上など必要ない。世界を闇黒に染め、邪龍帝国を築く。そして、父の雪辱を晴らすため貴様の世界に侵攻してやる!』
『させるわけないでしょ!! なんだって、私はあんたの弱点を知ってるんだから』
私は勇者の剣を構え、巨大化していくネグロニカへ走っていく。途中、ドローンからかコメント機能かノイズ音が聞こえ始める。気になるけど、前のネクロマンサーみたいな世界崩壊の危機なら止めなくちゃ!!
「無駄だ! 今闇は満ちた! 勇者の剣で太刀打ちできるほどヤワではない!!」
ネグロニカの身体に剣を当てつけるも、霞を切っているかのように感覚がない。
巨大化したネグロニカは、城を破壊してズリズリと這いずる蛇のように闊歩していく。私は何度も何度も彼に挑むも、全く手も足も出ずにいた。
「これが、世界を解放する
配信者たちの出入りしている扉をネグロニカが破壊すると、そこからブラックホールのようなものが生まれて周りの木々や岩がつぶれていく。そして、ネグロニカがその渦に消えていこうとした。
『逃がすかぁ!!』
私はその、黒い渦の中へ飛び込んでいった。
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