第48話
「外してやれ」
目隠しが取れると、そこは城のようなレンガ作りと王座のようなものがあった。そしてその王座には黒い竜が座っていた。その顔に見覚えはないが、声には聞き覚えがあった。
『ネグロニカ、いえネクロマンサーでいいのかしら?』
「なぜ、その名前を知っている? その名前は、私の父の名前だが......」
父親? どういうこと?
『え?』
【ジョニー・チップ】『?????』
【ドエロ将校】『予想外のとこ来たな』
「ネグロニカ、俺達をここに招いた理由はなんだ? 誰から情報を聞いた」
『待ってよ、モール。まず聞きたいんだけど、父親はネクロマンサーは生きてるの?』
ネグロニカは、少し間を開けて口を開いた。
「数百年前に、死んだ。いい父親だったとは思わないが、野心家だった。”この世界を支配する。”父はその力を、俺に託してくれた。その点には感謝してる」
「それで、俺のことは誰から聞いた。直接のおもてなしとは、どういう要件だ」
モールが彼を睨みつけると、彼は少し哀れなような目でこちらを見つめた。
そして、先ほどとは打って変わってやけに恭しい態度で話し始めた。
「おやおや白々しい......。いけませんなぁ。ご自分が誰か、ご自分が一番ご存じのはずですよ? 兄上。家族を自家にいれてならない理由が、どこにあるのです?」
『待って、兄上? あんた、もしかしてこいつと兄弟なの? いろいろ話の展開が速すぎなんだけど? 伏線とかなんもなし?』
「知るかよ。こっちも驚いてるとこだよ。 てことは、兄である俺の居場所は家族ならば当然知ってるとお前は言いたいわけか?」
「聡明なる兄上でたいへん嬉しゅうございます。ですが、あなたはどうせ妾の子。保険でしかないのです。私が兄上を呼んだのは、保険であり反逆の芽となるあなたをここ潰すためしかねえだろうが、自分で考えろ! クソボケがぁ!」
ネグロニカは、大きな口を開いて咆哮した。
その声が衝撃波のようになり私たちを吹き飛ばした。
私は立ち上がり、背中に背負っていた勇者の剣を取りだした。
『やっぱ、魔王には勇者の剣よね!』
ネグロニカの元へ駆け寄り、私は剣を振り下ろさんとする。
だが、その剣はいとも簡単にネグロニカがその指二本で受け止めた。
『なっ!?』
ネグロニカは、さらに受け止めた剣をゴミを捨てるかのようにひょいと後ろへやった。その勢いで、私ごと吹き飛んでいった。
「甘く見られたものだ。人間が、竜族に勝てるとでも? まあいい。用があるのは兄上だ! 私自身の手で、貴様を殺してやる! モール!」
「くっ!!」
『させるかぁああ!!』
私はそれでもあきらめない。こいつを倒す機会は今しかないかもしれない。倒さない限り、元の世界には戻れない!!
「まだ来るか! 無謀な」
『元の世界に戻る! そのために、お前を地獄に送ってやる!』
「元の世界......。ああ、あのゲートのことか。それに、その恰好......。てことは、お前が父を傷つけたという英雄か! なら、お前にも用がある!」
ネグロニカは標的を変え、私の方へ一直線に向かった。
私はその鈎爪を剣で受け止めつつ、魔法を打ち込んだ。
『フレイム!』
「ぐぁっ!!」
ネグロニカが倒れている隙に、私がそっちに向かうといままで傍観しかしていなかったイェラが障壁となった。
「待ってよ」
『どいて。邪魔......』
「どかない! シオリ、もっと落ち着いて考えようよ。彼と話し合うことだってできるはずでしょ!」
「一般竜が、口を挟むな!!」
ネグロニカの声がイェラを挟んで聞こえてくる。
彼がイェラを手に掛けようとしたその時、私はイェラと自分の位置を入れ替えた。
その瞬間、ネグロニカの腕が私を貫いた。
『ぐぅっ!!』
痛みはなく、そのまま私の身体が消えるような感覚がした。
装備も、武器もなく私は大阪ダンジョンの入り口前に強制送還されていた。
私は、初めてダンジョンでのミッションに失敗した。
「お疲れさまです、宇津呂木栞様」
受付嬢が笑顔で腰の抜けた私に、手を差し伸べてくれた。
私はその手を取り、立ち上がった。ドローンは起動しているものの、死亡時に勝手に配信停止されるようプログラムされているからか、赤いランプは点滅していなかった。
「ありがとう......。久しぶりの感覚で、頭の整理がついてないんだけど......」
「お気持ち、お察しします。ただ、公認配信者とはいえドロップアウトはドロップアウトです。装備及び武器は没収。収集したアイテムもすべて没収となります。ですが、この度コンティニュー制度が追加されております。所持金の半分を失うことになりますが、同じダンジョンにコンティニューされますか?」
「それって、すぐに答えださないとまずい?」
「承知いたしました。ですが、24時間後にはお客様の武装品すべてが我々運営返還されてしまいますのでお早めに......」
「......わかった」
とにかくは、配信切れちゃったからみんなに話しなくちゃな......。
私は、1階にあるラウンジで、雑談枠として配信を開始した。
『おつかれ~。ごめんね、急に配信途切れちゃって......』
【ころころころね】『大丈夫?』
【ドエロ将校】『心配だったでござるよ~』
【ジョニー・チップ】『とにかく、生きててよかった』
『察してる通り、さっきの戦いで失敗しちゃって......。また、続きやってもいいかなぁ? 心残りもあるし、武器とかも回収したいし......』
【酒バンバスピス】『え、そんなことできんの?』
【元冒険者】『最近あったアプデで24時間以内にコンティニューすれば回収可能ってやつ? 結構優しくなったよね、運営も』
『そうだよね~。前まではコンティニュー制度なんてなかったし、同じダンジョンにはいけるけど回収はほぼ不可能っていう仕様だったし。まあ、チャンスがあるならもう一回潜りたいなって』
【ジョニー・チップ】『いいと思われ!』
【ビキニアーマー親衛隊】『俺達のビキニアーマーを取り返そう!』
【ころころころね】『そういえば、装備品外れてるなら今回だけビキニアーマーはなしってこと?』
『そうだねぇ~。今回は、通常装備で行くことになるかなぁ......』
\8,000【ビキニアーマー親衛隊】『ビキニアーマー新調代』
\5,000【ころころころね】『新衣装に期待代』
\10,000【元冒険者】『新衣装代』
『みんな......。ありがとう。ちょっと、このままってのもあれだしなんか買ってくる!』
私は、着のみ着のままダンジョン用の防具、衣装を変えるショップへ向かった。配信して大丈夫か、始めに許可を取ってからドローンを起動させた。
『あの、新作とかおすすめありますか?』
「はい、新作ならお店の前列に並ぶ聖女セットでしょうか。魔力を貯蓄することに特化した衣装でして、女性配信者が着られている印象があります。おすすめは、そうですね......。やはり、ビキニアーマー......。でしょうかね」
『えぇ......』
【ビキニアーマー親衛隊】『わかってるやん』
【ころころころね】『因果からは逃れられないんだよね......』
「ビキニアーマー配信無双様でなくても、おすすめはしてるんですよ? こちら、実はインビジブルスーツという機能がありまして。ビキニアーマーの弱点である肌の露出から生まれる防御性の薄さを補填しています」
『なら、なおさら却下。つまり、そのスーツが見せ肌になってくれるってことでしょ。視聴者がみたいのは、本物だと思うの。私も、そこは嘘つきたくないのよね......』
「中の身体を投影するスーツです。実際に見えている肌はお客様の肌ですよ」
『なんなのよその変態機能。余計にキモイんだけど?』
若干引き気味で他の衣装を見ていると、店員は益々興奮したように別の衣装を持ってきた。それもまた、ビキニアーマーだった。
「追加でビキニアーマー聖女というコンボもありまして......。これは、私が開発したものなんですが、いかがでしょうか。魔法防御性能、魔法攻撃性能ともに聖女衣装と遜色なし。さらには、肌見せという視聴者への配慮。この衣装、いままでにない革新的なデザイン! ダンジョンビキニアーマー配信無双様に是非着ていただきたい! いや、着てください! お願いします!」
そう言って、店員は土下座をし始めた。どんだけの熱意なのよ、これ......。
【ころころころね】『着てあげたらwwww?』
【ビキニアーマー親衛隊】『店員さんの熱意に敬礼!』
【元冒険者】『ここまで来ると、ね......」
【酒バンバスピス】『聖女の上着で露出は減ってるんだけど、それが逆に良いんだよね』
【ドエロ将校】『私はどちらでも一向に構わんッ!』
『か、買います......』
「よっしゃああ! あ、すいません。お買い上げ、ありがとうございます! 着て行かれますよね?」
『は、はい......』
店員の熱意に負け、私は太ももに十字架のガーターベルトのついたブーツと学校の水着のような紺色のアンダーアーマー、そして水色の胸部装甲パットと下半身パットのビキニアーマーを装着した。その上には聖女の証である白いローブを羽織った。
準備は整った。行こう、再びドラゴニアへ......。
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