第43話
アナウンスの指示で、リングAに上がったけどどうなってんのこれ。
二人いるんだけど? タッグマッチとかなんか?
「君が優勝候補ねぇ。悪いけど、
二人のうち、背が高くすらりとした切れ長な目をした男がこちらに話しかけてきた。もう片方は身体が丸く、岩でできてるくらいに固そうな見た目でこちらを睨みつけている。
『また、運営の刺客? そんなに露骨だと、お客さんも白けちゃうよ? ちゃんと運営できてる?』
私は皮肉るような笑顔でリングにいる二人に返すと、丸っこい方が大きな声で叫びながら地団駄を振んだ。
「うおおおおおおお! オマエ、潰す!!」
『うおっ!? うるせぇっ! ていうかあんた、初めの方に戦った相手とキャラ被ってない?』
「弟のことをバカにするな! 我が弟の迷宮玄武拳は格闘四王一だぞ!」
『格闘技四王? もしかして、青龍とか白虎とかもそれの仲間? その子が玄武なら、あなたは朱雀ってこと?』
「そうだ。ダンジョン地下格闘技王最後の刺客。迷宮朱雀拳のズサク! そして、我が弟、迷宮玄武拳のブンゲ......。我ら兄弟が君に引導を渡そう!」
一通り挨拶がすむと、闘いのゴングが鳴った。途端、丸っこい身体のブンゲがとてつもないスピードでこちらにタックルしてきていた。避けることもできず、私はリングの外に吹っ飛びかけていた。
『地面についたら場外になる! ここで巻き返さないと! アイヴィ・ストリングス!』
ツタを蜘蛛の糸のように伸ばしていき、リングの方へ戻って今度は私が背の高い方のズサクに蹴りを入れた。ズサクは腕でガードすると、こっちの脚を使って叩き落してきた。
『うぎゃあ!』
会場からカウントが聞こえる。10カウント以内に立たないと、戦闘不能として負けちゃう。ここまで無敗でやってきたんだ。さっさと片づけたい!
『ねえ。あんたたち倒したら、勇者の剣、抜けるの?』
「倒せるものならな。だが、我ら二人相手に勝てるというのかね?」
私はそのまま倒れるように走り出し、一番耐久力のありそうなブンゲの懐に近づいた。
『ハイドロ・カノン=レーザー!!!』
魔法陣が浮き上がると、そこから大量の水が高水圧で吹きだしていく。その様はレーザーのように一直線に貫いていく。そして、ブンゲの重そうな身体が持ち上がっていき場外へと持ち込まれていった。
『ブンゲ選手、場外です! これよりの参加権はありません!』
「よくも弟を! 朱雀豪炎脚!」
炎を纏った足が、私の顔スレスレを通り過ぎていく。
私もズサクを蹴り、距離を物理的に取った。
『サンダー・ブレイク=シュート!』
矢のように放たれた雷は、ズサクに届くものの彼はそれを腕ではじいてしまう。
嘘でしょ、必中の魔法じゃないの?
「朱雀焔環爆裂撃!」
ズサクの拳が私の顔元まで伸びていく。同時に爆発魔法が彼の拳を加速させていったのが見えた。
『アクア・ベール=カウンター!』
「弟よ! 力を貸してくれぇ!! 玄武怒涛百裂撃破!!」
私自身に水魔法の防御陣を貼るも、ズサクはその水の膜をむりやりこじ開けて平手を打ち込んできた。その一発は、何百発分もの威力があるように感じた。それでも、今ここで倒れるわけにはいかない!!
『私にだって! 力を貸してくれるファンがいる! みんな、もう少しだけ応援よろしくお願いしまーーーす!!』
【袋】『うおおおおおお!!』
【どろどろ】『なんか知らんけどうおおおおおお!!』
【ころころころね】『倒してくれ!!』
\5,000【ジョニー・チップ】『いつも応援してるぜ! 姐さん!』
みんなのコメントが、スパチャが私の力になるのを感じた。魔力の高まりを感じる!! みんな、ありがとう......。
『マグマ・エクスプロージョン=メテオ!!』
地属性と炎属性の魔法を両手を使って組み合わせて、地面からマグマが噴出してズサクをリングの床事持ち上げてそのまま隕石のように地面に落ちていく。さらに、地面に落ちたズサクに待ち受けるのは大量の岩石だった。
『おおっと! これは、ブンゲ選手に続きズサク選手も連続瞬殺! そして、なんと! ビキニアーマーしおり選手に勇者の剣を引き抜くチャンスを獲得したぞ!! 久しぶりの勇者の剣イベントに会場は大盛り上がりだぁ!!!』
リングを降りて、ダンジョン奥の照明で照らされている勇者の剣の元へ向かう。
カメラと会場の刺すような視線に耐えながら、私はその剣の柄の部分を持つ。
【ジョニー・チップ】『ドキドキ』
【ころころころね】『ドキドキ......』
【酒バンバスピス】『緊張する......』
コメントのせいで余計に緊張する。ぶるぶると震えながら、両手に力を入れた。
グッと引き抜くと、ごそりと音がして剣が私を受け入れたかのようにするりと台から引き抜かれていく。その剣は新調したてかのように光り輝いていた。
『うおおおおおおおおおおおおおおお!!! 勇者の剣を抜いたぞ! これはすごい!! あれ、でもこれじゃあこのトーナメントは必要ない?』
「どれだけ俺らが頑張ってきたと思ってんだ!」
「これだけが金策だったんだぞ! いい加減にしろよ!」
「あのビキニアーマーから勇者の剣を取りあげろ!」
私が剣を抜いた途端、歓声とともに怒号が響き渡り暴徒と化した探索者たちがこちらにわらわらと向かってくる。中には剣や弓矢をこちらに向けてくるものもいた。
私は剣を構えて、少し振った。すると、その少しの振りが大きな斬撃を生み出した。
斬撃は鎌鼬のように襲い掛からんとしていた暴徒たちを薙ぎ払い、一瞬で消し去った。残っていたのは、彼らが持っていたアイテム一式だった。
「これが、勇者の剣の力か! やはり、人間の管理すべきものではない!」
司会の声と同じ人物が、こちらに向かって剣を振ってきた。私はためらいなく自分の剣を振った。だが、彼は防御魔法を最大限に活かしてその衝撃波を緩和しながらこちらへ向かって来た。
『これは私が勝ち取ったんだ! これって、あんたたちのルールに則って得たトロフィーだよね!? それを自分の都合で取り戻そうとしないでよ!』
「うるさい! お前らごと記憶を消せば済む話だ!!」
彼の言葉で、瞬間に悪寒と共に自分の記憶が消える瞬間のヴィジョンが見えた。
記憶が消える時の、高いところから落ちるときのヒュンと体が持っていかれるような感覚。それが、私の全身に走る。
【酒バンバスピス】『正体現したわね......』
【ジョニー・チップ】『マジであるんだ。記憶消去......』
【ころころころね】『姐さん逃げて! 超逃げて!!』
『分かってるって!』
「逃がすものか! その剣をよこせ!!」
だが、彼の目つきはまるで蛇のようで、私はそれに睨まれたカエルのように身動きの取れなくなっていた。
『あなた、ただの人間ではないわね』
「ネクロマンサーを倒した強者だけあって鼻が利くようだな。私はダンジョンワームのアニマス。ダンジョンを新たに管理する者」
『ご挨拶どうも。じゃあ、倒していい?』
「させるかっ! メモリア!」
シャッター音のような音が聞こえると、アニマスの目が光りだした。瞬間、身体フッと浮かぶあの感覚があった。何をしていたか、何をしようとしていたかが崩れ去っていく。ただこの剣は......。この剣だけは絶対に放さないという強い意志で握りしめた。ただ、その記憶だけは忘れない。忘れちゃだめだ......。
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