第41話
【バッジ番号61番、62番。リングBにお越しください】
しばらく対戦も、配信も休んで選手専用の仮設ホテルで休憩していたら
アナウンスの声が聞こえた。
「番号が近いな......。てことは」
言われた通りリングに向かうとやっぱり、キルトがリングの角の方にうなだれて立っていた。
「キルト!」
「姐さん......。やっぱり、こうなる運命だったんだね」
キルトは今までとは雰囲気がガラリと変わって暗い影を落としていた。
なにがあったんだろう......。
「ねえ、何があったの?」
「負ければ、僕は記憶を消される......。もう記憶を消されたくない!」
闘いのゴングが鳴ると共にキルトは、鬼気迫る姿で私の顔を殴ってきた。
「ぐぅっ!? あんた、何言ってんの? 記憶を消されるってどういうことよ!」
「うるさい! 僕が勇者の剣を抜くんだ! 勇者の剣さえあれば、剣さえあれば!!」
キルトは自分自身の魔法でいくつも武器を作り、斧や剣、そして槍をとっかえひっかえして翻弄してきた。生成魔法ってこんな攻撃もできるんだ。私も負けじと生成魔法で盾を生成して、自分の短剣と組み合わせて戦った。
「誰にも僕の想い出は、記憶は奪わせない! たとえ、それが君を殺すことになっても!!」
「死ぬわけには、いかない!! バーニング・スラッシュ!!」
短剣に炎属性魔法を付与して、キルトへ切りつけるも鋼鉄の盾でそれを跳ね返す。
「僕には攻撃魔法はない。でも、僕には無限のアイデアがある! クラフト!」
キルトが生成したのは、電動チェーンソーだった。彼はそれの電源を入れてぐわんぐわんと見境なく振り回していく。さすがに私が適当に作った盾ではすぐに壊れてしまい、チェーンソーが私の眼前に迫る。
「サンダー!」
雷撃をチェーンソーに当てると、ショートして刃が止まる。突然の出来事に、キルトは一瞬手を止めてしまう。私はそのままチェーンソーを持つ彼の右手に蹴りを入れた。キルトはすぐさまチェーンソーを手放してしまう。私はそのまま彼の懐まで近づいた。
「サンダー・ブラスト!!」
「うああああっ!!」
『キルト選手、場外!! またもビキニアーマー選手が勝利! 彼女を止められるものはいないのかぁ!?』
司会の言葉と同時くらいに、キルトは運営スタッフ用のジャンパーを着た人たちに連れて行かれてしまった。
「や、いやだぁあああ!! 誰か、助けて!! 助けてくれえああああ!!」
彼をどこへ連れて行ったのかはわからないけど、負けが続いたら私も彼のようになってしまうかもしれない。このトーナメント、負けられない......。
「結局配信なしのまま戦っちゃったなぁ......」
逆に配信に乗せてなくてよかったとも思うけど。やるせない思いを抱きつつ立ちつくしているとまたアナウンスが聞こえた。
【バッジ番号61番、108番。リングBへお越しください】
「またここでやるの? まあいいけど......」
私は切り替えて配信のためにドローンの電源を付けた。
すると、この間よりも接続数が減っていた。やっぱり同じものばかりやってると伸びないよね......。さっさと終わらせて勇者の剣を抜くイベントにいかないとな。
『さてと、続いての相手は誰かしら?』
息巻いていると、リング上にトラ頭の人間が上がってきた。もしかして、ダンジョンのモンスターもエントリーしてるの?
「虎の獣人にして、ダンジョン地下闘技王が一人! 迷宮白虎拳のライガ! ここに推参!」
『また変なの来たよ......』
「変なのとは失礼な。れっきとしたダンジョン調査団員だぞ! もっとも、オレはダンジョン上級モンスターだがな。それゆえ、女とて容赦せん!」
モンスターなのにダンジョンの調査団なの?
まあ、だからって容赦されてもな。というか、このダンジョンにきて手加減された記憶なんてないし......。 ライガが構えると同時に私も拳法のように構えるとゴングが鳴った。
「行くぞ! 白虎千烈弾!」
両手を流れるように構えを変えていくと、彼の背中に大きな虎が見えた。
ああ、拳法使いって感じするぅ~。ただなぁ......。なんか、ベタすぎてひねりがないな。
『アクア・ベール』
ライガの拳は、すべて私を覆う水のベールによって衝撃が吸収されていった。
「何ッ!? 攻撃をすべて吸収しただと?」
『素手の攻撃ならまだしも、衝撃波を与えるタイプの拳法なら魔法で打ち消せるわよ。それくらい、誰にだってできるわよ。手加減、してるの?』
「何を! これからというもの!! 白虎迅雷拳!」
『ガイア・ウォール=インパクト!』
ライガが私の懐へ近づき、雷を纏った拳を繰り出そうとした。その一瞬で私は地属性魔法で床から壁を隆起させて彼を攻撃していった。ライガはさすがにそれらをかわしながら後退していった。
「これほどの魔法を繰り出せるとは......。なら! 白虎炎舞拳!」
彼はまたも武道の構えを変えつつ、儀式のに近い舞を舞っていく。だが、これはダンスバトルじゃない。それを邪魔立てしないという暗黙のルールはない。
『遅い! ハイドロ・カノン!』
すぐに右手でライガの頭を掴んでは水属性最強の魔法を繰り出した。
その勢いで、すぐにライガは失神してしまう。
【袋】『一瞬で草』
【ころころころね】『何があったしwww』
【ジョニー・チップ】『キレてらっしゃる?』
【ビキニアーマーを愛すもの】『なんかごめんて』
【酒バンバスピス】『こないだは言い過ぎたやで......』
『え? いや、それは別に怒ってないけど......。なんか、私もごめんね。盛り上がりもなく試合終わらせちゃって』
『ライガ選手、瞬殺!! ここまでビキニアーマー選手と同じく連勝のライガ選手、初黒星です! なお、これより試合で5回黒星を出されますと失格、リスタートとなりますので、皆さまより気を引き締めてくださいねぇ!!』
え、マジで?
ここに来てルール変更って、ありなの?
もしかして、キルトもその対象だったてことなのかな......。
リスタート、つまり記憶消されて初めからっていうこと?
いやだな、そんなことあったら。
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