マンネリ?
第6話
ダンジョンビキニアーマー配信無双として活動を始めて2か月ほど経った。その間で私、宇津呂木 栞は成功を収めていった。だけど、そんな私にも突如として悩みは訪れる。年齢のこともあるけど、それ以上に今一番悩ませているのはそうマンネリである!!
「じゃあ、今日は45階の攻略行ってみよう!!」
それでも私は、明るく振舞う。それが私、ダンジョンビキニアーマー配信無双こと宇津呂木栞の使命なのだから......。
【酒バンバスビス】『45階かぁ~。もう見た~』
コメントからは、他にも私と同様にマンネリにうんざりしているような声がイヤホンを通して聞こえてくる。聞こえると言っても実際の彼らの声じゃなくて、AIが適当に当てた機械音声なんだけど......。
【ジョン】『正直このダンジョン、いろんな人にやりつくされてるよなぁ。オワコンかぁ~?』
【ふっくら】『いい加減地下も探索しようぜ~』
『確かに地下は配信できてないね~。また今度やるねー」
地下か......。ちょっと嫌なんだよなぁ......。
とにかく、今は地上階ダンジョンで配信しまくって楽しんでもらおう!!
【ドエロ将軍】『エロも
「私の強み、エロ要素一択なの!!?」
あー、なんかテンション下がってきた......。
負けるな、私。とにかく、今日の配信はやっていかないと!!
【袋】『そうだお』
【ぐわんぐわん】『そうだね』
『くっ......! いいもん! とにかく、45階行くよ!』
私は、そのままエレベーターホールから45階のダンジョンへ進んだ。そこには、いつもとは違う砂漠地帯のような風景が広がっていた。床も砂だらけで、壁もピラミッドみたいに砂を固めて作ってるっぽい。初めて見るタイプのダンジョンだし、レアキャラがいるといいけど......。
『最悪、素肌に砂が......。ていうか、私これずっと着てる必要ないよね?』
【ドエロ将軍】『それは困る』
【ぐわんぐわん】『唯一のアイデンティティじゃん』
【ジョン】『みんな、ビキニ姐さんを見に来てんだから捨てちゃだめだよ』
【ふっくら】『と言っても砂漠の砂は嫌だな。大移動で何が来るかもわからなくなったし』
『大移動ねぇ......。最近ダンジョンのモンスターもエリアも配置入れ替えがあったってやつでしょ? それで、今回は45階が大ボスマップになったって聞いたけど?』
ダンジョンができて初めての出来事に、大きめなニュースにもなったみたいだけど実際仕様がどうなってるかは正直知らない。なんで配置入れ替えなんてあるんだ? 誰かが人為的に? あるいは、モンスターたちも同じ場所にいるのも飽きたりしてるのかな......。
【ドエロ将軍】『ただ、どんなモンスターが来るかは運次第という』
【ジョン】『ある意味、ガチャ要素だね』
【袋】『はえ~。初めて知った』
ガチャね......。カメラ映えするようなレアボスが当たればいいけど、一番最悪なのは一度倒したことのある相手だな。
『レアキャラ来い!!』
砂漠のようにサラサラとした砂に足を取られつつもなんとか歩みを進めていると、モンスターの鼻息が聞こえ始めた。
『ん? なんか聞こえる......』
氷で滑る中、壁を利用して静かに止まった。ひょこりと壁からのぞき込むと、そこにはまたミノタウロスがドシドシと歩いていた。ただ、この前より少し小さいかな?観察を続けているとミノタウロスは、鼻息を荒くして探検者を探しているみたい......。
『また、ミノタウロス!?』
私は砂漠をズサズサと歩いていく。ミノタウロスの体長は、多分2~3mくらいかな。前戦ったときより小さくなってるじゃない!!
【ジョン】『前見たのと違う?』
【袋】『小さいけど、体毛が金色だ! レアかも!!』
【ドエロ将軍】『いや、多分色と角の形が違うだけ。レアじゃないと思う』
【ぱおぱい】『多分デザートミノタウロス。体毛が金なのは、砂漠に紛れ込むためだよ。珍しくない』
せめて珍しくあれよ!!
呆れながら、ようやくミノタウロスのすぐそばまでたどり着いた。
ここまで来て倒さずに終わりたくない!!
『ああ、もう! こんな停滞期に同じモンスターよこすんじゃねえよ! このクソダンジョンが!!』
私は怒りに任せてドロップキックをミノタウロスに浴びせる。ミノタウロスは、もろに私の蹴りで頭を強く打ったためかよろけていく。だが、腐ってもミノタウロスだ。すぐに立ち直り、目を血走らせながら私の方へ突進してくる。
『はぁ、ワンパターンだっつうの...... スパイラル・スピア!』
私は、ガントレットについた魔法石に力を集中させてそのまま放出した。その力は槍のような鋭利な攻撃魔法となったが、ミノタウロスが私の直線的な攻撃魔法を見切って横に避けてからさらに速度をあげてくる。
『マジか!?』
【じんせい】『うぉっ!?』
【袋】『俊敏性上がってる!』
私は目の前まで来ていたミノタウロスの角を横目に転がり避けた。だが、よろよろで寿命が縮んでいたドローンはミノタウロスを避けられないまま大破してしまう。
「ドローンちゃーーーーん!!」
イヤホンからは、まだコメントが流れている。ということは、映像だけ流れてない状況ってこと?
「ごめんね! とにかく、一旦配信切るから!!」
腰に付けていたタブレット端末で配信を強制停止させた。このまま戦っても取れ高もくそもないし......。ここは、嫌だけど退避するしかない。
「エレベーターはどこ?」
戦闘離脱は自己判断なんだけど、どうやって逃げるかまではダンジョンの運営はサポートしてくれない。つまり、相手モンスターの目をかいくぐり、自力で脱出しないといけない。ミノタウロスは、さっきのドローンと衝突した衝撃で起きた電撃と、煙幕で動きも取れず、私を見失ってる。今がチャンスだ!
「そろり......そろり......」
砂の上で歩いた時のザラザラとした足音をなるべく立てないように、ゆっくりと足を一歩一歩前へ出す。エレベーターが近くなり、私はホッとしてすくりと立ち足を一歩前へ出した。瞬間、殺気めいたものが私へ降りかかる。
「や、やべ......」
「ヴォアアアアアアア!!」
ミノタウロスが気付き始め、私の方へと走り出してきた。私は、急いでエレベーターの下ボタンを何度も何度も連打した。そんなことをしても、エレベーターは来てくれない。そんなことはわかっている。でも、この状況はそうしないと落ち着いてられない!!
「急いでよ!!」
エレベーターがやっと来て、1階を押してささっと閉じるボタンを押した。その同タイミングで、ミノタウロスがエレベーターに向かって突進した。エレベーターはどんなモンスターが突進しても歪んだり、停止したりしないように頑丈な作りになっていたためか、鈍重な音を響かせてミノタウロスは私を諦めてくれたようだった。
エレベーター内で私は、一息ついたと同時に足がすくんでその場で座り込んでしまった。
「情けないわね......」
うなだれながら私は、受付でダンジョンから一度退室する届け出を出した。これがないと、失踪届出されちゃって面倒になるからね。一通りの手続きと、着替えを済ませ、茫然とした状態で電車へ乗り、自宅にたどり着いた。
「生きてる......。のよね......」
自宅の明かりや冷蔵庫の晩御飯が、どれだけ今の私にとって安心材料になってるか。それもあって、改めて生を実感した。 やっと落ち着いてきて、SNSで私の安否を心配するコメントが相次いでいたので、無事であることを伝えて布団に入った。
「でも、ドローンがオシャカになっちゃったのよね~」
配信しないと、ダンジョンのアイテムは換金できないシステム上、一般人として探索しても明日の生活は担保できないんだよねぇ。
「ま、ドローンは明日考えるしかないか」
いつもの楽観的で、大事なことを後回しにする癖で今日も眠るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます