第3話

 助けたポニーテールの女の子は、私の顔を見た途端にキラキラとした目つきから、げっそりとしてかつ死んだ魚のような目に変わった。その瞬間、なんとなく前にいた事務所で見かけたアイドルことを思い出した。ここまで死んだ目をしていたわけじゃないんだけど......。それにしても、助けた人に向かってそんな目をしなくても......。


 『あの、どこかでお会いしました?』


『お会いもなにも、この間あったじゃない。私、かんきつ女子のれもん。覚えてないの? はぁ、これでも一応有名アイドル配信者なんですけど?』


【パインガッツ】『うおおおおおおおおおおお! れもんたそ!!!!』

【ろうと】『え? れもんってあの? やばっ』

【ブオー】『ええええええええええ? どういう絡み? コラボなのか?』

【ふっくら】『急に何こいつら......。人の配信コメ入ってきてなに?』

【かんキッズ】『なんかすいません!! 状況確かめたかったので!!』


『そうだった。配信中なの忘れてた! とりあえず、みんな落ち着いて!』


『そうそう。他の配信者のコメ欄荒らしたら、うちのせいになるんだから。ちょっとは、わきまえなさいよね』


どうやら、れもんの方もリテラシーはギリギリ持っているらしく、彼女の鶴の一声でコメント欄の祭り状態が解かれた。続けて、彼女は私に提案をする。


『あのさ。助けてもらって言うのもなんだけどさ、もう少し付き合ってくんない?』


『どういうこと?』


『いや、うちの相棒のみかんとボス手前ではぐれちゃって......。それで、私も魔力切れだし、助けに行くの難しいから、助けてよ』


れもんは申し訳なさそうに眉をハの字にして、懇願する。

正直、いろいろ言いたいことはあるけど、私はそれをすべて心の奥に飲み込んだ。

私は目を少し閉じて、もう一度開いてかられもんの手を握った。


『いいよ。ちょうどこのフロアのボスへ挑む配信する予定だったし』


『......とう』


『ん? なんて?』


『なんでもない! さっさと行くわよ』



\5,000【酒バンバスビス】「いい子だなぁ~しおりん」


\3,000【ぱるんて】「みかんちゃんの救出頼みます!」


\10,000【ほるんこ】「れもん、口悪いで好きじゃなかったけど仲間思いなの推せる」


『ねえ、あなたって自分の配信でも口悪いキャラなの?』


『キャラじゃねーよ! これは元から!』


『どっちでもいいけど、それでも嫌いになった人いないってのは才能だと思う』


れもんの方に顔を向けると、彼女は顔を赤らめていた。

微笑んでいると、彼女はこちらに気付いて眉を上げた。


『ニヤニヤすんな! さっさと行くぞ!!』


彼女の荒げる声に体がビクッと反応した。

映してほしくはなかったが、これは配信だ。

私の雄姿も、恥ずかしい姿もドローンによってありのまま映し出される。

そして、そのドローンは私たちの頭上を飛び、ダンジョンの先を映し出す。


『あんた、なにしてんの? もっと私たち撮らないと、視聴者飽きるわよ? ていうか、下手し炎上するよ?』


『わかってるけど、どうやって行けばボスの元に最短で行けるか見てるのよ。それに、ドローン飛ばしてればあなたの友達が見つけてくれるかもでしょ』


私は、ドローンをこちらの方に戻して映し出されていた道を進む。

映像は頭の中に記憶してる。後はその通りに行くだけだ。


『あそこ! 竜王が寝てる......。ボスのフロアについたみたい』


『え、まじ? あんた、ほんとスゴイな』


『それで、あなたの仲間はどこ?』


キョロキョロと私があたりを見渡していると、れもんがノートレスの右あたりを指さす。そこに目を凝らすと、人影が倒れているようだった。


『行ってみよう......』


私たちは、音を消しながら壁を伝って人影の見えたあたりまで近づく。

そこには、お団子頭の眼鏡をかけた女の子が一人倒れていた。かんきつ女子のもう片方だ。たしか、みかんって言う名前だったはずだ。彼女の方へと近づくと、竜王ノートレスがむくりと起きだした。私たちに気付いたのか?


『まずいんじゃない?』


『私が食い止めている間に、あなたはその子を!!』


ノートレスは完全にこちらに気付いて、その鋭い牙を私へ向ける。

グアッと竜王の口内が眼前に広がる。私はその大きく開いた口の上部に剣を一刺しする。


「グワアアアアアアアアアアアッ!?」


竜王はいきなりの攻撃に顔をのけぞらせて手で抑えた。

そういえば、れもんたちは? ちらっと後ろを振り向くと、れもんたちがフロアを抜け出す瞬間が見えた。


『よかった。無事だったみtっ......!?』


突如として、お腹当たりに鈍痛が走った。見ると、そこには大きな拳がビキニアーマーを貫いていたのだった。口の中に熱い鉄のようなものがこみあげてくる。


『ヴァッ!!!!』


赤い血が口から吹きだしていくのが見えた。

最悪......。カメラをオフにしようとするも、手が震えてしまう。


『こうなったら一瞬で片づけるしかないわね』


回復魔法を使い、立ち上がると竜王ノートレスは私に近づいてくる。

まるで回復を待っていたみたいだ。よくわからないが、これで戦える!


『お前なんか真っ二つにしてやる!』


【酒バンバスビス】<\5,000>

【ぱるんて】<\3,000>

【ほるんこ】<\10,000>

【パインガッツ】<\5,000>

【ろうと】<\250>


多くの視聴者からの応援スパチャが送信されていく。

まだ配信は見られているみたいだ。私は自分の背中に背負っていた剣を取りだして、竜王に対峙する。そして、一歩踏み出して恐怖を振りまくボスへと挑む。ビキニアーマーを着ているせいか、体が軽い。一瞬で竜王の首元にまでたどり着く。


『うわ、やばっ!?』


 だが、一筋縄でいかないのがフロアボスだ。私の一瞬の移動も気づいて、竜王はこちらに視線を戻して火球を口から吐き出す。一瞬の動きに私は持っていた軽い盾を身代わりにして、回避しつつ改めて剣先を竜王に向ける。


『おりゃーーーーーーーーー!!』


剣がスゥッと竜王の体に入ると同時に、光が差して目の前が見えなくなっていく。

それでも私は剣を引かない。相手がアイテムとなるまでは、完全に倒したとはいえない。


『うっ......。あれ、光がやんだ?』


しばらく白いモヤが続いた後、視界が戻るとそこには大量のアイテムが落ちていた。


『ぃよっしゃあ!』


嬉しさで飛び上がった瞬間、視界がぼやけてすぐに真っ黒になった。

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