ダンジョンビキニアーマー配信無双 ~追い出された元所属事務所のアイドル助けてクソバズる~ 

小鳥ユウ2世

配信スタート!

第1話

 動画配信ってのは、結構体力がいる。大学卒業してから6年経った今、痛感してる。特にダンジョン配信はコメント読みだけじゃなくて、実際に魔物退治があるからキツい。


『ハァ、ハァ......。ハァッ!!』


 今日も今日で大変。ダンジョン内にいる40階のフロアボスの討伐だったし。

今はもうドロップアイテムと化してはいるけど、昔はこんなのひょいひょいと拾って終わらせてた。それなのに、最近は少し息切れがマイクに乗ってしまう。


『でも、まだまだいけるっしょ?』


私は、事務所から貸出されてる球体型のドローンのカメラに目線を送り、ウインクをしながらピースサインを送る。



【こーぎー】『いつ見てもしおりんのキレキレな剣捌きかっこいい!』


【じょう】『老いてない! 若いよ!』


左腕のアーマーに取り付けたスマホの配信画面とコメント欄が、ホログラムスクリーンとなって映し出されている。いつも通りの日常だ。そして、いつも誰かが私の年齢をいじる。29歳という年齢はいじりにくいし、いじってほしくはない。

それでも、自他ともに認める童顔という武器があるから、許せている。

こんな地獄みたいなやりとりが普通に行われているのもおかしいけど、これ自体おいしいと思っている自分の感覚もおかしくなってるのかも。


『はい! 年齢差別~! 私のことおばさんだと一瞬でも思ったやつ素直に手上げなさい?』


【じょう】「ノ」

【同穴ムジナ】「ノ」

【ろうと】「ノ」

【酒バンバスピス】「ノ」


他にも多数のファンの子たちが手を挙げていく。

ま、実際に挙げてるわけじゃないだろうけど......。

この手のプロレスは1年前の誕生日くらいから始まっている。

正直、擦りすぎて再生回数も若干減っている。みんな、ダンジョンを華麗に攻略するだけでは飽きてしまうらしい。


『もう、私以外でこのノリやったら怒られるんだからね!?」


お決まりのキラーフレーズを使いつつ、彼らを画面の虜にする。

自分でもキツイと思ってるけど、やりがいのある仕事だ。単純に配信が楽しいんだけど......。


【ろうと】「わかってるつーのw」

【ぼう】「きっつw」

【酒バンバスピス】「しかし、かわいいから許される」


『そうだ。今日マネちゃんに呼ばれてるんだった! 時間ちょっと押してるから唐突だけど今日はこれで終わるね! じゃあ、またね~』


私の急な配信切りでも、お構いなく彼らのコメントは続いていたのが見えた。

今日の配信は、同接100人だったな......。やはり、昔よりも確実に減っているっ! 

多分マネちゃんの話題も、私の収益が芳しくないことについてだろう。私は1階に戻り、更衣室でダンジョン専用の装備から私服に着替えて、ダンジョンを後にした。


事務所は、ダンジョンの最寄り駅から電車で1駅行ったところにある。そこから大体5分くらいの好立地な場所だ。私はその事務所の入ったビルのエレベーターで5階へ向かった。


「とにかく、なんで呼ばれたかはわからんけど謝るにこしたことはないよね......」


エレベーターであらゆることをシュミレートしていると、5階にまで上がった。

私はエレベーターを降りて事務所内の会議室に入った。



「お疲れ様です! すみません、遅れてしまって!」


会議室に入った私は、開口一番謝罪した。予定時間より10分の遅刻。ショートメッセージで事前に伝えたけど、マネージャーは特にとやかく言うわけでもなく、静かに真剣な顔つきで私を見つめる。いつもなら私の謝罪すら受け付けないくらいの速さで謝り返してくる子なのに......。これはまずい。気軽に来てしまった......。やっぱり、悪いニュースかもしれない。


「お疲れ様です、宇津呂木さん。こちら、どうぞ」


「はい......」


仕事に熱心なタイプじゃないし、謝罪慣れしていそうなハイライトのない目が今日は一層黒々としている。面倒事や、嫌な役割を押し付けられたのだろう......。

私は、そんな彼女に恐る恐る話を聞いてみた。


「あの、折り入って話ってなんですか?」


「......。単刀直入にいいます。しおりさん、契約満了です。今後の更新はありませんと上層部にきっぱり言われました」


「え? 契約更新月ってまだ先じゃないですっけ?」


「ええ......。ですが、最近のDストでの収益減に悩まされていることや、年齢のことなど色々難癖をつけられて......。察してください......。すみません」


なるほど、つまりはクビってことか。まあ、話は分かった。それでも、6年間しかも配信黎明期に前線で頑張ってきた私をこうもあっさり切るとは思わなかった。しかも、その事実がこんなにも辛いなんて思いもしなかった......。まだまだ頑張っていきたいのに......!


「悔しいけど、ここでできることはやりつくしたわ。合意の上での退社ということで」


「助かります。じゃあ、こことここに実名サインでお願いします」


私はマネージャーから渡された手続書に、自分の実名である『宇津呂木 栞』と丁寧に書いた。書類には、情報漏えい問題等で事務所側の内容を公言しないという誓約が書かれていた。別に事務所の特別な情報なんて持ってないから公言しようもないし、しようとも思わない。


「これで、いい?」


「はい。今までありがとうございました あ。後、貸し出していたカメラと衣装、全部返却してください」


「ええ? それも~? まあ、仕方がないか......。 はい、これ。いままで世話になったわね......」


簡単な挨拶だけ済まして、私は事務所を出てエレベーターを待った。

エレベーターが開くと、2人くらいの若い女の子が事務所へ向かっていく。


「あれ、もしかしてしおりんちゃんねるさん?」


2人のうちの一人、お団子頭の子が私に向かって話しかけてきた。


「ん? あなたたちは?」


「あーしは、みかん。こっちがれもん。あーしたちかんきつ女子ってんだけど知ってる?」


かんきつ女子って、確か最近流行りのコンビ配信者だっけ?


「あ、ああ。まあ」


お団子頭のみかんと、ポニーテールのれもんの二人が私を引き留めて絡んでくる。

彼女たちは私にマウントをとるように肩に腕を置く。まあ、でも自分には関係ないと彼女の腕をするりとどかしてエレベーターに目線を戻す。


「うん。それじゃあ、頑張ってね......」


彼女たちの憐れみと嘲りの視線が私を襲う。そそくさとこの場を後にしたい気分だ。

というか、もう後輩じゃないんだし絡みたくない。


「うわ。露骨に興味なさそ~。せっかく後輩が挨拶してるのに」


お団子頭のみかんは腕組みをして、私を見下ろす。

みかんに倣って、れもんはみかんに肩を寄せて腕組みをする。


「でも可哀想だよね~。私たちの育成のために、契約切られるなんてね! 今の気持ちはどう? オバさん」


「うわ、れもんひど~」


二人の煽りに私は負けじと、毅然とした態度をとった。


「いや、私は契約満了って......」


いや、そうしたかったけど彼女たちの身長の高さとスタイルの良さを見ると委縮してしまった。私だって別にスタイル悪いわけじゃないし、身長は彼女らよりも小さいけど......。

臆病風に吹かれて小さな体をさらに小さくしていると、れもんの方が知らない話をし始めた。


「え~? 知らないの? あなたの契約満了はウソ。人を減らして、より売りたい人材を前に出す。これが本当のこの事務所のやり方なの。可哀想だけどね」


「ちょっとれもん、言いすぎだって。マネージャーに口止めされてたでしょ」


「いいのよ。ちょっとくらい身の程わきまえてから、社会に出た方があなたのためしょ。オバサン」


彼女たちが言い捨てた後、彼女たちは華麗に事務所へ消えていった。私は彼女たちが乗っていたエレベーターへ飛び乗るように入って、1階のボタンを押した。

エレベーターの中、私は早く忘れようとスマホを見つめる。スマホの画面には、映したくもない涙がスクロールされていく。


エレベーターの扉を開くとすぐに私は腕でその涙を拭い、駅へまっすぐと走っていった。スマホを握りしめて全力で......。そのままスマホを改札にかざして自宅方面の電車に乗った。


「あんな性格悪い子が後輩だったなんて......。最悪! でも、辞めるときに知れてよかったかも。関わることなんてもうないだろうし......」


電車に揺られて30分ほど、さらに徒歩で20分ほどで私の住むマンションにたどり着いた。


「ただいま~」



暗く、言葉も返してくれる人もいない小さな部屋。

パソコンを開き、自分のチャンネルを見ると、すでにアカウントが削除されていた。

こっちでやらせてくれないんだ......。

せめて自分の声で引退の旨を言っておきたかった。スマホを開いてSNSを見ると、元いた事務所の公式アカウントから、私が契約満了にて退所した旨を伝えた文章がつづられていた。


「とりあえず、個人アカウントでも伝えておくか」

 

 『これからはフリーとして活動していきます』と最後に綴っておいたが、見切りはついていない。

このまま『しおりんちゃんねる』で続けるつもりはないし、あのまま同じようにしても自分の状況は変わらない。

 じゃあ、他の仕事を? いや、私はダンジョン配信がしたいんだ。なんでそう思うかなんて私にもわからない。他の仕事をしている自分を思い浮かべられないってのもあるし、成功体験をこの身で実感してしまったんだ。


......もう、戻れないのかもしれない。


「はぁー! とりま寝るか!」


明日のことは、明日任せよう。

配信はなくても、ダンジョン冒険者の道はある......。

私は目を閉じて、眠りについた。









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