私は選択を間違える。
そばあきな
私は選択を間違える。
ゆっくり思考する時間を得たことで、私自身に関して思い当たった結論がある。
私はきっと、数多ある選択肢の中から、正解を選ぶ才能が初めからなかったのだと。
昔から、相手の機嫌を損ねることが得意だった。
逆に言うと、相手の機嫌を窺うことが大の不得意だった。
私なりに考えて選んだはずの選択は、ことごとく間違っていて相手の好感を下げ続ける。
それでも見放されなかったのは、その相手が幼馴染であったり、従兄弟であったりなどの、そうそう縁が切れない人物たちだったからだろうか。
しかし、私は反省してもその性質を直すことが出来ず、変わらず選択を間違え続けてしまった。
そして、新たに気付いたことがある。
どんなに過去を遡っても、「私」が「私」であるかぎり選択を間違え続けるのだと。
だから今のこの状況も、私が選んだことによる結果だったのだろう。
つい先ほどまでの出来事を思い返す。
私はつい先ほどまで、街中を走っていたはずだ。
どれだけ走っていたかは、もう覚えていない。
ただ、身体の限界というものはいつかは訪れる。
体力も尽きかけ、路地裏に駆け込もうとした時だった。
踏み出した足元の地面が光って、私はその光に包まれたのだ。
まぶしさに目を閉じる瞬間、私の声で「ごめんなさい」という言葉が聞こえた気がした。
次に目を覚ましたのは、何度か行ったことのある私の従兄弟の部屋だった。
しかし、そこから出ることはできなかった。
私は前に従兄弟の部屋へ行った時にはなかったはずの檻に閉じ込められ、自らの意志で外に出ることができない状況に置かれていたからだ。
私の立てた物音が気になったのか、別の部屋にいたらしい従兄弟は私の様子を見に扉を開けた。
檻の鍵を見て私が出ていないことを確認した従兄弟は、檻の中の私の頬に手を添え、幸せそうな表情を浮かべている。
どうやらここの従兄弟は、私に対して異常とも言えるほどの好意を向けていたらしい。
「あんまり騒がしくしたら近所迷惑だからね」とだけ告げ、従兄弟はまた部屋を出て行ってしまった。
一体どんな状況なんだ、と思わずにはいらなれなかった。
ただ、部屋自体は出られないけれど、今すぐに危険な目に遭うことはない。
そのおかげで、私自身のことについて多くの時間をかけて考えることができたのだ。
どうやら今ここにいる「私」の他にも、別の世界――パラレルワールドのようなものかもしれない――にも「私」という人間が存在していたらしい。
しかし、別の世界にいた「私」は、檻の中へ閉じ込められるまでに従兄弟との関係を悪化させていた。
きっと従兄弟との関係をやり直したかったのだろう。
本来ここにいたはずの「私」は何かしらの力を使って、今ここにいる「私」と場所を入れ替えたのだ。
もしかすると、次は失敗しないとでも意気込んでいたのかもしれない。
そんなこと無駄なのに、と思いながら、私は鉄格子に背中を預けた。
――向こうの私は元気にしているだろうか、と檻の中でぼんやり考える。
路地裏に追い込まれ、幼馴染のアイツにそろそろ刺されているだろうか。
涙を目に浮かべながら、包丁をしっかりと握りしめて「お前を殺して俺も死ぬ」という意志だけははっきりと感じ取れた幼馴染から逃げるため、私は先ほどまで街中を走り回っていた。
その矢先、光に包まれて私は路地裏から檻の中に場所を入れ替えられたのだ。
今ここにいる「私」は幼馴染のアイツとの選択を間違え、「私」と入れ替わって向こうの世界に行った「私」はきっと、この部屋の主である従兄弟との選択を間違えたの。
だから「私」はこの檻にこの先も閉じ込められ、向こうの「私」は包丁で近いうちに刺されてしまうのだ。
来世に期待することも、きっとできない。
「私」が「私」であるかぎり選択を間違え続けるのだから。
――――私は選択を間違える。
私は選択を間違える。 そばあきな @sobaakina
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