第8話
落ち着いた大猫と、それを破顔して撫で続ける坊太郎を遠巻きに見ていた小人たちだったが、顔を見合わせ意を決したように1人の小人が進み出た。
「………、……!」
小人の代表が何かを話しだしたが、なにぶん彼が小さいうえに彼我の耳と口の高さにも高低差があり、坊太郎は小人の代表が何を言っているのか聞き取れない。
坊太郎は大猫を潰さないように注意しながら、耳に手を添えて小人に近づけた。
「乱暴な大猫を取り押さえていただき、ありがとうございます。それで、あなたは神様ですか?」
実際にはもう少し修飾や感嘆の言葉があったのだが、要約すると小人が言っているのはそういうことだった。
(驚いたな…彼らの言っていることも理解できるぞ。でも、口の動きと発音が合ってない…。洋画の吹き替えみたいに感じる)
大猫に続き、未知の存在である小人とも意思疎通ができることがわかった。坊太郎は、驚きつつも彼らの問いに答えようとした。
「僕は代田坊…」
坊太郎はそこまで言って、小人の問いの答えになっていないことに気づく。彼らは名前を聞いたのではなくて、坊太郎がどういった存在なのかを確認したいのだ。
自分のことを説明しようとして、坊太郎は逡巡する。
先ほど、大猫は坊太郎のことを大きい“ヒト”と言った。どうやら大猫にとって、ヒトとは小人たちのことのようだ。じゃあ自分もヒトか、というとあまりにサイズが違いすぎる。そもそもここは夢の世界のはずなので、馬鹿正直に説明するのもなんだかおかしな話だ。
考えあぐねてふと小人を見ると、変に納得したような、感極まったような顔で見上げていることに坊太郎は気付いた。
「ダイタボウ…ま、まさか国産みの神様であられましたか!」
小人代表のその言葉に、他も含め小人たちが皆一斉に坊太郎へ平伏した。
今までの小人たちの恐る恐るという態度が、畏怖と深い尊敬へ切り替わったのが分かる。
どうやら坊太郎が名前を途中で言い淀んだために、彼らの信じる神の一柱と誤解されてしまったらしい。
「いや、僕はそんな大層な者じゃなくてね…」
「何を仰られます。その山の如き玉体、恐るべき大猫を手懐ける大いなる御力、矮小な我らをお助けいただいた深き御慈悲、そして先程耳にした御身名。御隠しになられても、そのかたじけなさに涙が零れまする」
坊太郎は小人に説明しようとするが、やたら持ち上げられて“御御御付け”漬けにされて、聞き入れてもらえない。
(まあ、太郎の部分が抜けてるけど“ダイタボウ”が名前の一部なことは間違いないし、夢の話なんだからムキになることもないか…)
坊太郎は、なかば諦め気味に小人たちの誤認を受け入れることにしたのだった。
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