57話 道中にて

 着替えを済ませた俺は、急いで待ち合わせである門に行く。


 すると、そこには美女がいた。


 ボタンのついた白シャツに赤いカーディガンを羽織って、黒いロングスカートをはいていた。


 シンプルだがスタイルがいいので、めちゃくちゃ決まっている。


 というか、休日のOLさんみたいで、メチャクチャ好みの格好だ。


 ……動揺するな俺! 頑張れ!


「アリアさん、おはようございます。すみません、待たせてしまって」


「ああ、おはよう。いや、私が早く来すぎたのだ」


「キャン!」


「ああ、ハクもおはよう。さて、では行くとしよう」


 ひとまず、アリアさんが用意してくれた馬車に乗り込み、港町に向けて出発する。

 すると、ハクがアリアさんの座席に座る。


「キャン!スンスン……」


「あっ、こら。ハク、匂いを嗅ぐんじゃない」


「クゥン??」


「き、気づかれてしまったかな……?」


「キャウン!」


 ハクが嬉しそうにアリアさんの胸に飛び込む!

 なんと羨ましいことを……!


「ククーン??」


「さすがは狼だな。その……今日は香りが付くものをつけてきてな。ハクは、この匂いは嫌か?」


「……キャン!!」


「うわっ!くすぐったいぞ!」


 くそっ! ハクと戯れるアリアさんが可愛い……!

 なんだ、あの可愛いさは……!


「タツマ! ハクをどうにかしてくれ!」


「おっと、いけない……やめ!」


 ピタっと、ハクの動きが止まる。


「ハフハフ」


「とりあえず、匂いが嫌じゃないのはわかったよ。その、タツマは平気か?」


「ええ、いい香りですね」


 柑橘系というか、馬車の中が気持ちの良い空間になっている。

 というか、俺は臭くないだろうか? ……色々と難しい年齢に入ってきたしなぁ。


「そ、そうか……」


「あと、今日の格好も素敵ですね」


「……ありがとう」


 よし! きちんといえた!

 ただし……相手の顔は見れなかったが。


「え、えっと、今日行く街の名前ってなんでしたっけ?」


「コホン……港町アクアニウムだ。交易の町とも呼ばれ、異国の物や他国のと交易を盛んに行わっている」


「そうなると、何か未知の食材がありそうですね」


「ああ、よくわからないモノも沢山あるはすだ」


 海産物は、前の世界でも食べれる国とそうでない国が多かった。

 今住んでるところでは、昆布とか見たことないし……そろそろ、和食が恋しい。

 味噌汁こそあるが、肉系の出汁が多い……やはり海鮮出汁が欲しい。


「それは楽しみですね」


「それで確認だが、目的はなんだ?」


「まずは行ったことないので行き、未知の食材や風景を見たいですね。あとは依頼もそうですし、ハクの鍛錬でもあります」


「ふむ、わかった。では、私はただついて回るだけにしよう」


 その後、アリアさんと談笑していると……御者の方から声がかかる。

 どうやら、街道近くにオークが現れたらしい。


「よし、ハク……お前の出番だ」


「ガウッ!」


 「討伐依頼は、オーク五匹だ。今回は、全てお前に任せるつもりだ。しかし、無理だと思ったらすぐに言いなさい」


「ワフッ!」


「では、私は馬車から見守るとしよう」


 そして、ハクと馬車から降りる。

 すると、街道から外れたところにオークが一匹いた。

 まだ、こちらには気づいていない様子。


「ハク、俺達はここで見ている。さて、行けるか? 相手を見ろ、勝てる相手か?」


「クゥン?……グゥ……!」


 ハクは、じっとオークを見つめている。

 ちなみに、大きさは倍どころではないか。

 ハクは俺の膝下ほどで、オークは俺の肩くらいはある。

 ステータスも、そこまで差はないだろう。

 すると。覚悟を決めたのか……ハクが勢いよく駆け出す!


「ガウッ!」


「おっ……なかなかに速い」


 ハクのスピードは、明らかに上がっていた。

 しかも、足音がほとんど聞こえない。


「ブボォ!?」


「グルァ!!」


 俺は、意識的に目と耳を集中させ、戦いの様子を眺める。

先手必勝というように、爪で左足を切り裂いた。

 すると、オークの左足から鮮血が舞う。


「ブオォ!」


 オークは血を流しつつも、竹槍を突いてきた。

 ハクは左右にステップをし、上手く躱している。

 すると血を流しすぎたかのか、オークの動きが鈍る。

 その隙を逃さず、右足も同じように切り裂く。

 数分後、両足から血を流しすぎ、オークは地に伏せる。

 トドメとばかりに、ハクは首元に食い付ついた。


「アオォォーン!!」


「上手いな」


 あれは、狩りの戦法だ。

 傷をつけ、弱らせてから仕留める。

 焦らずにじっくりと……ハクなりに考えた戦法なのだろう。


「見事だ。さすが、成長すれば最強の一角と言われるだけのことはある」


「やっぱり、そうらしいですね。皆、正体を聞くと珍しがりますよ」


「ふふ、あんなに人懐こいとは思わないからな」


 すると、ハクが嬉しそうに駆け寄ってくる。

 俺は大袈裟に手を広げ、最大限に褒めて迎い入れる。


「キャン!キャン!」


「おー! よしよし! よくやった!」


「キャウン!!」


 尻尾を振り、興奮している……可愛い奴よ。


 俺は口周りを綺麗にして、魔石を回収して馬車に乗り込む。


 その後もオークに出会うが、一度倒した相手には余裕を持って勝利した。


 そして丁度五匹を倒した頃、俺達は港町に到着するのだった。

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