44話 獣人とテイマー

 その後、巡回を終えたアリアさんと共に兵舎に戻る。


 そのまま中へと案内され、アリアさんの私室に通された。


 そこではカレンさんが書類などを仕分けしていた。


「あっ、お帰りなさいませ。おや、タツマ殿にハクですか」


「ああ、巡回中にあってな。お主に用があるというので連れてきた」


「お邪魔します、お仕事中にすみません」


「ワフッ!」


「いえいえ、我が主人の相手をしてくださり感謝します。どうやら、良い気晴らしになったみたいですから。任せていた決済を放って、いつのまにか抜け出していた上司さん?」


 その言葉に俺が振り返ると、バツの悪そうな表情をしたアリアさんがいた。

 こう……悪戯がバレた時のような感じで可愛らしい。


「むぅ……すまなかった。どうも、種類仕事は好かん」


「アリアさんでもサボったりするんですね」


「それくらいするさ。何なら、窓から飛び降りたりな」


「そういえばこの方、よく踊りの授業が嫌で窓から飛び降りてましたね」


「そ、それはいうな! お、踊るのは苦手なんだ」


 その姿を想像してみると、失礼だがありありと浮かんできた。

 きっと、活発な女の子だったのだろうな。


「楽しそうで良いですね」


「……女らしくないとか言わないのか?」


「ん? よくわからないですけど……人には向き不向きがありますので、男とか女とか関係ないかと」


「ふふ、そうか……」


「よかったですね、理解のある方で。それで、私に用とは?」


「えっと、ハクについてなのですか……」


 俺が簡単に説明すると、ハクとカレンさんが会話?を始める。


「ワフッ!」


「ふむふむ」


「キャン!」


「なるほど」


 ハクが足元でバタバタとし、それにカレンさんが頷いている。

 側から見ると、ただじゃれついているようにしか見えない。


「あれで会話が成立するんですね」


「獣人ならではの特殊能力だな。実はテイマー協会は獣人の保護団体でもある。昔は、奴隷だった時代があるのだ。そのせいか、まだ一部の者達には印象がよくなかったりする」


「えっ? ……そうだったんですね」


 魔獣の言葉がある程度わかるなら、テイマーにとっては必要不可欠な存在だろう。

 なるほど……だからスラムにも獣人が多かったりするのか。

 それを変えるのも、テイマー協会の役目ってことか。

 ……よし、俺も一員として頑張らなければ。


「ああ、だからお主には感謝してる。カレンに出会った時から、お主の態度は変わらない。周りから、獣人なんかを側近にするなんてと言われきたのでな」


「それは俺が異世界人なだけですよ。何もわかってないから、偏見の向けようがないですし」


「それでも、我々にとっては嬉しかったのだ。だから、ああしてカレンもお主には協力的だ。言っておくが、基本的には塩対応なのだぞ?」


「そうなのですね。俺もテイマーの端くれとして、改めて獣人達を保護します」


「ああ、そうしてくれると嬉しい。そういえば、あの二人はどうだ?」


「エルルとカイルなら、宿で待っているはずです」


 責任を持って、俺の宿で保護している。

 あんな騒ぎがあった後では、あの二人も目立ってしまうからな。

 それに、まだまだ危険な場所に変わりはない。

 無論、アリアさん達が頑張っているお陰で少しずつは良くなっているようだ。


「そうか、あそこも変わっていければいいが……ボスがどう出るか」


「ボスですか?」


「ああ、あそこにはラルドというボスがいる。そいつが実質的なスラム街の支配者だ」


「へぇ、そんな奴が……悪い奴なんですか?」


「難しいところだな……ハンター崩れだが、犯罪者というわけでもない。あの男がいることで、一定の平穏を保っているのは事実だ。おそらく、そのうち会うだろう」


「わかりました。では、自分で確かめるとします」


 そんな会話をしていると、ハクが俺の方に駆けてくる。


「キャン!」


「おっ、話は終わったみたいだな」


「まったく、途中からは余計な話ばかりでしたよ。やれ何か美味しかったとか、女の人って良い匂いとか、タツマ殿が鈍感だとか」


「ハク? お前、何を言ったんだ?」


「ワフッ?」


 俺が視線を向けると『しーらない』とそっぽを向いた。

 何故か、こういう時だけはよくわかる。


「すみません、お手数をかけて」


「まあ、良いです。それで、要約すると……次はもっと上手くやれるように強くなりたい。もっとお父さんに頼られたいし、お父さんを守ってあげたい。それに集約されるかと」


「ハクがそんなことを……ハク、すまんな」


「ククーン……」


 俺はハクの頭を優しく撫でる。

 てっきり、慢心してゴブリンなど退屈だと思ってしまったのかと。

 そうではなくて、早く強くなりたいという思いだったのか。

 それも自分のためではなく、他でもない俺のために。

 俺がそうだったように……親は子に似るというが本当だったか。


「ふふ、良かったですね」


「なるほど、立派な心がけだ」


「ええ、本当に。二人共、ありがとうございます。では、ちょっと考えてみるとします」


 やれやれ、子供の成長は早い。


 そもそも……俺が守ってやるなどいう方がよほど傲慢だな。


 ……親父さんも、子供から気づかされることがあるって言ってたっけ。







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