第14話 良い女性

 話を終えると、アリアさんが袋を差し出してくる。


「これはなんですか?」


「タツマ殿が登録をしている間に、フレイムベアーの報酬や素材を換金してきた。これは、そのお金だ。私達が受け取るわけにはいかないので、タツマ殿が受け取ってくれ」


「良いんですか? これは、お世話になるアリアさんが受け取っても……」


「しかし、そうなると食べることや道具を買うこともできないぞ?」


「うっ、それはそうですが……では、有り難く頂きます」


「ああ、そうしてくれ」


 すると、アリアさんの腕の中にいるハクが目を覚ます。

 そしてキュルンとした瞳で俺を見てきた。

 実にあざとくて可愛い。


「ハク、起きたか。相変わらず可愛いな」


「クゥン?」


「ふふ、丁度いいタイミングだ。今から、テイマー協会の会長にあってもらう」


「なるほど、試験ですね。ハク、気合いを入れていけよ?」


「ワフッ!」


 そのまま脇にある階段を上っていき、カレンさんと合流する。


「カレン、待たせた」


「いえ、無事にできたようで何よりです」


「まあ、一悶着あったが……」


「ふふ、聞こえていましたよ。ですが、タツマ殿がいたので心配してませんでしたが」


「あ、ああ……守ってもらってしまった」


「主人をお守り頂き、ありがとうございます」


「いえいえ、これくらいはさせてください」


「い、良いから、早く行くぞ!」


 アリアさんはハクを床に下ろして、一番奥にある扉をノックする。

 ちなみに、カレンさんは先に兵舎に帰るといって去っていった。

 ……俺に任せていいのだろうか? いや、きちんと守らないと。


「はい?どちら様でしょうか?」


「失礼いたします、アリアです。よろしいですか?」


「ええ、お聞きしておりましす。 どうぞお入りください」


 ドアを開けて中に入ると、人の良さそうな中年男性が杖をついていた。


「これは、アリア様。今回はどうかなさいましたか? 何かテイマーが問題を起こしましたか?それと、そちらの男性と……ふむ、見たことない魔物ですね」


 ずっと思っていたが……多分、高貴な方なのだろう。

 でも、アリアさんはそれを笠に着ない……うん、素晴らしい女性だと思う。


「いえいえ、何もありませんよ。皆、良い方達ばかりです。それよりも、様づけはよしてください。今日は、こちらの方を紹介しに来ました。タツマ殿、私は黙っているから自分とハクを紹介するといい」


「初めまして。私の名前は、タツマと申します。この子の名前はハクです。今日はアリアさんの紹介で、テイマー登録というものをしにきました」


「キャン!」


「これはこれは、ご丁寧に。私の名前はホルスと申します。この都市でテイマー協会の代表を務めております」


「ホルスさんですね、よろしくお願いします。それでですね、この子を保護したのですが……」


「まずは、確認いたしますね……ふんふん、理知的な瞳をしてますね」


「クゥン?」


「はいはい、大丈夫だ」


 俺が撫でてやると、気持ちよさそうにしている。


「犬系はともかく狼系は懐き辛いのに、この懐き具合ですか……」


「……何か、問題がありますかね?」


「おっと、申し訳ない。いえいえ、素晴らしいと思いまして。大人しく話を聞いていますね。うむ……まあ、問題なさそうですね。では、説明に入りましょう。まず魔獣登録といって、テイムされた安全な魔物だという、承認を受けなくてはいけないのです。そして合格すれば、街の中で飼うことを許されます。もちろん、しっかり躾をすることが大前提です」


 「なるほど、至極当然の事ですね」


 前の世界でも、問題になっていた。

 躾の出来ない飼い主や、手に負えず放してしまう飼い主が。

 飼ったからには、責任をとらなくてはな。


 「そう言って頂けると安心ですね」


「いえいえ。それで、それを受けるにはどうすれば良いのですか?」


「本当なら、色々と試験があるのですが……アリアさんの紹介であれば、問題なさそうですが……一応、最終試験をいたします。タツマさん、ハク君に命じてください。自分がいいというまで動くなと」


「ありがとうございます。わかりました……ハク、俺がいいというまで動くんじゃない」


「ワフッ!」


 ハクはお座りをして、じっと俺を見つめている。


「完全に人の言葉を理解していて、それを実行できる。それに頭も良いし、主人の言うことにも忠実。これは決まりですね……ですが、最後に——ハァ!!」


 ホルスさんは杖を振りかぶり、ハクに向けて振り下ろす!


「クゥン?」


 それは、ハクの頭の上で止まる。

 ハクは『どうしたの?』みたいな顔をしていた。

 俺も雰囲気から殴る気がないのがわかったので大人しくする。


「一歩たりとも動かない……言うことを聞きつつも、私が叩く気がないことも理解している。さらには、その主人も動じていない……完璧です」


「えっと、それで……」


「もちろん、合格です。では、この腕輪をつけてください」


 すると、ズボンのベルトのような物を渡される。


「これじゃ、大きすぎませんか?」


「ほほ、まあ試してください」


「ハク、いいか?」


「キャン!」


 ハクの腕にそれを近づけると、サイズに合わせ腕輪が縮んでいく。

 そのまま、ハクの腕に巻きつけられた。


「……なるほど、こうなるのか」


「それは元々、太ったり痩せたりを繰り返していた人が、大きさを体型に合わせて変えられるように開発したものです。その腕輪は、その技術を応用したものです」


「体型合わせて……では、成長してもそのままでいいと」


「ええ、そういうことです。基本的には、いつもつけてください。でないと害される可能性や、攫われる時に登録された魔獣と証明が出来ないですから」


「わかりました。ありがとうございます」


「では、これにてテイマー登録完了です。貴方はしっかりとした考えの持ち主だと、私は判断しました。きちんと話を聞き態度も良い。その子も賢く、自分から危害を加えることはないでしょう。ずっと、大人しくしていますしね」


「合格だってさ。良かったな、ハク!」


「キャンキャン!」


「ほほ、新たな仲間を歓迎します。これから、よろしくお願いします。何かお困りでしたら、いつでも訪ねてください。あと餌ですが、赤ん坊ですけど肉をあげれば大丈夫です。もちろん、他の物も」


「ありがとうございます。後、どのくらいで大人になりますか?」


「狼系なら完全な大人まで1年ほどですかね。ただ、基本的に強い種族なのですぐに戦えるようになるでしょう。今でも、ゴブリン程度なら問題ないかと」


「なるほど……色々と、ありがとうございました!」


「キャン!」


 その後ハンターギルドを出て、再び歩き出す。

 今度は、力試しができるところへ案内してくれるそうだ。


「そういえば……アリアさん、なんでずっと黙っていたんですか?」


「私は、そこそこの身分の者でな……正直ホルス殿が認めなくても、私が認めれば許可がおりるくらいにはな。だが、ホルス殿も気分は良くないだろう。だから、余計な口ま挟まずに見守っていた。それに、タツマ殿やハクなら問題ないと思っていた」


「……」


「なんだ、呆けた顔をして?」


「あっ、すみません……次はどうしましょうか?」


「お主は自分の強さをまだわかってないようだ。なので、訓練所に行くとしよう」


 そして、俺はアリアさんの後をついていく。


 ……あのセリフを聞いた時、電撃が走った気がした。


 身分を振りかざない女性か……思わず惚れるかと思った。





 ◇


 ~ローレンス視点~



 ……なんなんだ! あいつはっ!


 ウォレスはあれでもB級冒険者だぞ!?


 それを一撃で沈めるとは……あわよくば、俺が仲裁に入るつもりだったというのに。


 そしたらアリアに恩が売れたが……くそっ!


「ど、どうします? あいつ、やばくないですか? 下手すると、A級クラスあるんじゃ……」


「だとしても、俺のやることに変わりはない。何とかして、アリアを俺の物にしなければ……」


「どうするので?」


「それを今から考えるんだよ!」


 すると、ウォレスがギルドから出てきて、路地裏にいる俺たちの方にやってくる。

 おそらく、報酬を欲しているに違いない。

 失敗したくせに、これだから下賤の輩は困る。


「おい、貴族さんよ。確か、ローレンスとか言ったか」


「言っておくが報酬は払わんからな。というより、貴様など知らん」


「そんなもんはいらねぇ、俺はあの男に殴られて目が覚めたしな。あんたも、引き返せるうちに引き返した方が良いと思うぜ?」


「なんだと? ふんっ、成り上がりのハンターごときが俺に意見をするな。偶然、力を手に入れただけの男が偉そうに」


 こいつは実力で強くなったわけではない。

 たまたま、弱っていた強い魔物を倒したに過ぎない。


「ああ、確かに俺は運良く強い魔物を倒して偉くなった気でいた……お前と何が違うんだろうな?」


「なに? どういう意味だ?」


「いや、わからないなら良いぜ。とにかく、俺は自分の行いを清算してくる」


 そう言い、スッキリした顔をしてウォレスが去っていく。


 理由はわからないが、俺は物凄い苛立ちを感じるのだった。



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