第13話 お助け?

その後の話の流れは大まかに言うと……。


面倒事を避けるため、まずは異世界人というのは出来るだけ秘密にすること。


俺はハンターギルドに登録し、相棒としてハクをテイマー登録すること。


それに合格しないと、基本的に都市の中を連れて歩けないらしい。


あとは珍しいからといって、ジロジロと見ないこと。


最後にアリアさんが土地を探している間に、自分で出来るだけ稼いでおくことなどだ。


「そしたら最終的には店を開くと良い」


「はい、わかりました。テイマー登録は何処で出来るのですか?」


「ハンターギルドの二階にある。ハンターギルドとテイマー協会は密接な関係にあるからな。狩りの相方としては、魔獣はとても便利だ」


「まあ、それはそうでしょうね」


前の世界でも猟犬は使っていたし。

多分、そういう立ち位置なのだろう。

その後、建物を出て中央通りを歩いていく。

俺はハクを手放さないようにしっかりと抱きしめる。


「ハク、もう少しだけ我慢してな?」


「ワフッ」


「良い子だ」


「まあ、その子なら平気だろう」


「ええ、俺もそう思います。完全に人の言葉を理解してますから」


色々と気になるものが目に入るが、ひとまず無視して歩き続けると……一階部分にハンターギルド、二階部分にテイマー協会という看板を見つける。

周りの建物よりふた回りほど大きく、これならすぐに場所がわかる。


「おっ、ここですね」


「ああ、そうだ。では、案内しよう」


カランカランという音を立てて扉が開くと、中の様子が見えた。

中は割と清潔感があり、前の世界でいう役所をイメージさせる。

左側にはテーブルや椅子があり、人々が談笑している。

右側の壁には掲示板が貼ってあり、それを人々が眺めている。


「おおっ、意外と綺麗ですね」


「それはそうだ。ハンターギルドとテイマー協会は大陸中にある組織だ。昔は無法者の集まりとも言われていたが、今はしっかりした組織になっている」


「なるほど……奥にあるのが受け付けですか?」


「うむ……カレン、悪いが先に上に行ってテイマー協会に話をつけてきてくれるか?」


「了解です、その方がスムーズに進みますね」


そう言い、右側の奥に歩いていく。

どうやら、あっちが二階に上がる階段があるらしい。


「さて、まずはハンター登録をしようと思う。タツマ殿は身分証がないからな。それがあれば都市の中を自由に出入りできるし、いざという時に身分を示せる」


「だから、まずはここなんですね」


「ああ、受付にハンター登録をしたいと言えば詳しく説明してくれる。私はここで待っているから、行ってくるといい。何事も経験だ。ただ、登録したら一度戻ってきてくれ」

 

 俺は、それはそうだなと思った。

 いつまでも、甘えるわけにはいかないし。


「では、行ってきます……ハク?」


「……フスー」


「あらら、静かだと思ったら寝てたのか」


「ふふ、まだ子供だからな」


「アリアさん、抱っこはできますか?」


「う、うむ……やってみよう」


 アリアさんは、恐る恐るハクを抱きかかえる。

 その様子は可愛らしい。


「柔らかいな……小さい……可愛いな」


可愛いのは貴女ですが?

……いかんいかん、俺みたいなおっさんがそういう目で見たら失礼だ。

俺は受付に向かい、受付の女性に話しかける。


「すみません。ハンター登録がしたいのですが、よろしいですか?」


「はい、承ります」


「それで、どうしたらいいですか?」


「まずはこちらを書いてください。字は書けるでしょうか?」


「はい、多分大丈夫です」


 俺は、渡された紙を眺める。

 とりあえず、名前と年齢と種族だけでいいらしい。

試しに日本語で書いてみる。

さて、どう出るか……これ、 出来なかったらどうしよ?


「……これでいいですか?」


「はい……ええ、大丈夫ですね」


ほっ、言語理解がここまで生きているらしい。

 これで店を出しても、メニュー表を書ける。


「では、ハンターギルドについて説明致します。というより、読み上げますね」


 「はい、お願いします」

 

「ハンターギルドとは、国とは別の組織です。よほどのことがない限りは、国には干渉しないしされない。ですが、関係性は多少は異なります。この国は寛容なので良い関係を築けてますね。ハンターの仕事は多岐に渡りますが、メインは魔物や魔獣に関するです。時に雑用系もありますので、そちらもどうぞ」


ふんふん、何でも屋って感じでもあるのか。

もしかしたら、国が届かない部分を補っているのかも。


「次にランクです。上から順に、SS,S,A,B,C,D,E,F,G,Hの10段階となってます。SSは形式上あるだけで、なった方はおりません。ランクは依頼事にあるポイントを得て、規定値まで達すると試験が受けられます……以上ですが、質問はございますか?」


「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」


そんなに難しいことはない。

要は地道に仕事をこなしていけば良いということだ。

こういうのは嫌いじゃない。


「いえいえ。では手続きをするので、血を貰ってもよろしいですか?」


「えっと、血が必要なのですか?」


「ええ、そうですね。ご存知ないですか?」

 

「すみません、田舎者でして」


「いえいえ、ハンターカードという物があります。それを他人が使用できないように、自分の血の情報を入れるのです。他の人が持っても、何も映らないただのカードです。そして、身分証にもなります。さらに、倒した魔物が記録されます」

 

なるほど、便利なカードだ。

 それなら不正もできないし。

獲物の横取りとかもできないってことだ。


「ご丁寧にありがとうございます。では、どうすれば?」


「いえいえ。それでは、手を出してもらっていいですか? すぐに終わりますので」


 俺が大人しく手を出すと、その下にカードを置かれる。

 大きさは、クレジットカードより少し大きいくらい。

 そして針で刺されると、血が垂れて……カードに触れると光る。


「はい、これで完成です。これから、よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 カードを眺めると、そこには名前、年齢、種族とHという文字が刻まれていた。

その後、アリアさんの元へ戻ろうとしたが……何やら問題か?

 アリアさんが、山賊みたいな風貌の男に話しかけられている。

 

「困っているように見えるが……どうする?」

 

俺は、ここで親父さんの言葉を思い出した。


『いいか、タツマ。無闇矢鱈むやみやたらに助ければいいって事ではない。もしかしたら勘違いかもしれないし、お節介かもしれない。助けることによって、もっと酷くなるかもしれない。だが、それでもお前が誰かを助けたいと思ったなら、最後まで責任をとれ』


……ええ、わかっています。

ひとまず覚悟を決めた俺は、アリアさんに近づく。


「アリアさん、お待たせしました。二階に行きましょうか?」


「タツマ殿!いや、そうしたいのだが……」


「なんだ!?テメーは!?」


「初めまして、タツマと申します」


相手が苛立ってる時こそ冷静に。

それが飲食店の務めであり、親父さんの教えだ。

……ただし、限度を超えなければ。


「ああ!?そんなことはきいてねえ! 口説ているんだから邪魔すんじゃねえよ!」

 

「それに関しては、俺が先約なので」


「ウォレス、すまんがそういうことだ」


「ああ!?ふざけんなよ!?知るかそんなもん! この俺様はB級ハンターだぞ!お前みたいなど素人が口を挟むんじゃねえ!」


 アリアさんさんが、強気に出れないのはこれが原因か。

 下手に刺激して、他の人の迷惑になったら困るもんな。


「アリアさん、正直に答えてください。お困りですか?」


 アリアさんは、ものすごく複雑そうな表情だ。

 おそらく、俺に迷惑とか思っているのだろう。


「す、すまない……少し困っている。だが、殺してはダメだぞ?」


「それだけ聞ければ大丈夫です。あとはお任せください」


「なにを、ごちゃごちゃ言ってんだ!?」


「いえ、気になさらずに。では、引く気はないと?」


「当たり前だ!こんな良い女はそうそういねえ!レアな魔物を倒したことで、俺はアリアより強くなった!強いということは何をしてもいいってことだ!」


 これはダメなやつだ。

 完全に自分の力に溺れているな。

 さて……そうくるなら話は別だ。


「ふざけるなよ?強ければ何をしてもいいだと?貴様は馬鹿か?そんな訳がないだろう。何故、その力を他に向けない?」


「な、なんだ!?急に態度が変わりやがった!?」


「これでも引く気がないなら……死ぬなよ?」


「ハハハ!テメーは何言ってんだ!?俺様はB級のハン」


「ふんっ!」


 奴が言い終わる前に拳を腹に打ち込む!

 B級というなら、簡単には死なないだろう。


「ぐはっ!?」


 俺の拳を受けた男は、三メートルほど吹っ飛んだ。

 あれ?ちょっとヤバいか?


「おーい、生きてるか?」


「な……何が起きた?」


「おっ、大丈夫そうだな」


「て、テメーはなにもんだ? この俺様を一撃だと?」


「ただの料理人ですよ。少しは頭冷えましたか?」


「……ああ、上には上がいるってことだな。悪かった、俺の負けだ」


「いや、気にしなくていいですよ。わかってくれたなら、それで良いですから」


「へっ、出来た男だぜ……」


 どうやら気を失ったようだ。

 すると、仲間?たちが引きずってギルドから連れ出して行く。

その後、ギルド内から歓声が上がる。


「うおー!すげー!」

「なんだ!?あいつは!?」

「B級を一撃で!?」

「タツマ殿! とりあえず二階に!」

「ええ、そうですね」


俺たちは騒ぎになる前に、階段へと向かう。

そして階段を上がったところで、アリアさんが立ち止まる。


「タツマ殿、ありがとう。正直言って、とても助かった」


「いえいえ、頭をあげてください。お節介でなかったなら、良かったです」


「ウォレスも、そこまで悪い奴ではないんだ。調子に乗りやすかったり、酒癖が悪かったりはするが。面倒見が良く、男連中には人気だしな。ただ、急に強くなったことで、増長してしまったのだ」


「なるほど……多分、彼は平気かと」


親父さんに言われたことがある。

悲しいことに、俺の父みたいにどうしようもない人間はいると。

そいつらは変わることはないし、変えることもできない。

ただ、ふとしたきっかけで変わる者もいると。

あの目からして、彼は後者だと思った。


「タツマ殿に殴られて、目が覚めたのだろう。これで、あいつも以前の様になればいいな……ちなみに、タツマ殿は心配なさそうだな」


「まあ、そうですね。精神を鍛える武道を長いことやってきましたから」


「ふふ、素敵なことだな。そういえば、口調が変わったが……あちらが素なのか?」


「うーん……両方とも素なんですけど、切り替えみたいなものですね。こんな見た目なんで、なるべく怖がらせないようにしてるんです」


「ああ、なるほど。確かに普段からあの感じでは怖いかもな。ただ、私は素敵だと思ったぞ?」


「あ、ありがとうございます」


 そんなこと言われたのは初めてなので、思わず動揺してしまうのだった。

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