第10話 『学校』
俺達『E・R・Oハンター』は郊外にある古代より使われなくなった『学校』にたどり着いた。
AIが全て教えてくれるので必要がなくなった学校。俺は学校は教育だけでなく人とのコミュニケーションを学ぶ場だと思う。現に先に訪れたAI国家に住む人達は会話は一切せず、与えられた行動をしているだけで、どちらかと言えばロボットに近いと感じたからだ。
キーンコーンカーンコーン……。
突如、学校のチャイムが鳴り響く!
「なんだ!聞いたことのない音だ!敵襲か!?」
ロミが周りを見渡す。
いや、学校のチャイムだよ。
そうか、教育をしない彼女達は学校に行ったことがないからチャイムの音を知らないのか。
しかし、なぜ数千年前から使われなくなった学校からチャイムが流れるんだ?
「誰がいるかもしれない!慎重に進もう」
俺は校舎の茂みに身を潜める。
「大丈夫よ。私達にはこれがあるから」
ココがブルマについているポケットから黒い手袋を取り出す。
手袋をはめたココは学校の門に向かって軽くパンチをしてみせた……。
ズガガガガガァ――ン!!
――!?
すごい音と共に門がぶっ飛ぶ!
「パワーグローブです。ドラゴンにだってパンチ一発で勝てます」
ココが得意気にシャドーボクシングを俺に見せる。
「すごい力だね……。これは男はいらなくなるわけだ……」
力だけでは一番小さなココにだって勝てない。
ますます俺が『勇者』なんて呼ばれる意味を考えてしまう。
「じゃ行きましょうか」
彼女達は堂々と正面から学校へ入っていった。
粉々になった門の瓦礫を跨ぎながら「歴史的に貴重な物じゃないのかな?」と疑問に思ったが、教育・勉強・研究はAIの発達により終わりを迎えてしまったこの世界では、人は『価値』を求めなくなったのだろう。
……なんか、さみしいな。そんな事を思いながら、彼女達のあとを追った。
ゴブゴブ……ゴプッ。
しばらく進むと、ココが吹き飛ばした門にゴブリンが集まっていた。
「ゴブリンが学校を寝城にしていたようだね!今度は私がぶっ飛ばすよ!」
ミクがブルマのポケットからパワーグローブを取り出して手にはめる。
「ちょっと待って!様子が変よ?ゴブリン語を翻訳してみましょう」
ロニが『AIの首輪』を操作する。
「ゴブリンの言葉も翻訳できるんだ!俺も聞きたいな」
「イヤホンで天外も聞けるわよ」
二コはブルマのポケットから取り出したイヤホンの差し込み口をブラジャーの先端に取り付け、紐を伸ばして俺に渡す。
……なんで、そんなとこから!?
でも、どうせ聞いてもわからないし、なんか嬉しいから何も言わないでイヤホンを受けとる。
『すごい音がしたコブ!敵襲かゴブ!?』
『それはないゴプッ。最弱の我らゴブリン。誰も相手にしないゴブ』
すごい!ゴブリンの言葉がわかる!
そして!何か悲しいこと言ってる!
『さっ、授業に戻るゴブ。子供達が待ってます。ゴブピー先生は『子供の作り方授業』ゴブナガ先生は『ゴブリンの歴史』の時間ですよ』
すごい!ゴブリンが勉強してるようだ!
「……そ、そんな」
彼女達の様子がおかしい。
彼女達の完成したAI国家では勉強は必要ない。答えは生まれた時から持っている。最弱の何も持たないゴブリンが彼女達が追い求めている『個性』を学んでいることがショックだったようだ。
「私、覗いてくる!」
二コは初めての好奇心を抑えられないようだ。
ロニは「やれやれ」と溜め息をつき、班分けを提案する。
「大人数で動くと目立つわ。二コには天外と『子供の作り方授業』ロミとココは『ゴブリンの歴史』私とミクはゴブリンの人数・武器・脅威となりうるかを調査しましょう」
『承認』
彼女達は声を揃えて『承認』と言った。
「わかった」は「わからない」が合ってはじめて「わかった」と言える。
「わからない」が存在しない、こちらの返事は『承認』なのだろう。
【1-ゴプ組 『子供の作り方』】
ゴブピー先生の教室では30人くらいの子供達が机に座っていた。
ゴブピー先生が教壇に立つ。
『ゴブリンの雌とゴブリンの雄では子供はできません。良い行いをしてホブコブリンに進化したゴブリンのみが子供を授かります。さらに雌、雄ともにホブコブリンの場合、生まれてくるゴブリンは1/8の確率でゴブリンキングとなるゴフ』
そうなの!?はじめて聞くゴブリンの生態に俺は驚く。隣で盗み聞きしている二コに関しては涎を垂らしているのも気づかないほど「ハァハァ」言いながら集中して授業を聞いていた。
『先生~!どうやったら子供はできるゴブか~?』
お!聞きたい質問きた!
『雄のゴブ棒を大きくして雌の
わりとストレート――!!
俺は驚いた拍子に取れたイヤホンを慌てて耳につける。
『ゴブ棒はどうやって大きくするのですか?』
『君たちはまだゴブリンなので子供はできませんがゴブ棒は大きくできます。ゴブミさんとゴブオ君、前に出なさい』
呼ばれた雌のゴブリンと雄のゴブリンがみんなの前に出る。
『ゴブミさん。ゴブオ君のゴブ棒をスライムを舐めるように舐めてください』
……。
……え……え――!!
まずい!まずい!どうやらゴブリンには羞恥心というものがないらしい!
そして、隣の二コの涎が地面と繋がってる!
「二コ!バレそうだからここを離れよう!」
「え!ちょっと!今、いいとこ……」
俺は二コの手を引きその場を離れようとするが、二コが激しく抵抗する。
「これ以上はいろいろダメな気がする!行くよ!」
俺は強引に二コの手を引く。
『ゴプッ……こふえふごぶ(こうですゴブ?)』
聞いてはいけない言葉を遠くに聞きながら、その場を離れた。
「私もさっきのやってみたい」
二コが真っ直ぐな目を俺に向ける。
俺は視線を合わせることができず、ただただ苦笑いをすることしかできなかった。
「あ……あはは!あはは!あははのは!」
<つづく>
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