俺、妊娠したみたい

南極ぱらだいす

第1話 

「俺、妊娠したみたいなんだけど」


「!」


私は飲みかけていたアイスコーヒーを吹き出しそになった。


「宏~あんた冗談言うなら、もっと気の利いた冗談いいなさいよ」


ハンカチで口を拭きながら、現在交際中の男=高畑宏に顔を寄せてそういった。私の名前は青木由美。都内にあるK大学の二年生。宏とは小学校からの幼馴染だが、正式に付き合うことになったのは大学に入学してからだ。


「うん、俺もそう思う」


ここは私たちが通う大学の食堂で、私たちは窓際の席に座っていた。


「まったく、せめて鼻からパスタ食べれるようになったとかさ・・・そのぐらいなら、まだ笑えるのに」


まあ、宏にジョークを期待するのがそもそも無理な話なんだけど。こいつ昔からぶっちょ面で、ゲームをしてる時以外、感情をほとんど表には出さない。


「パスタはともかくジュースぐらいなら」


宏は飲みかけのジュースを鼻に近づけた。


「ちょっと。ちょっと本気にするな!」


私は宏の手を掴んで止めた。


「ほんとにアンタってふざけてるのかマジなのか本当に区別できないのよね。せめて表情ぐらいもう少しレパートふやしなさいよ」


私は目の前の宏を見た。背が高く、顔もかなりのイケメンなのに目は死んだ魚のように濁っている。どうせ今朝も一睡もしないでゲームをしていたのだろう。


「ごめん」


「で、大事な話ってホントは何?そろそろ次の授業の準備しないといけないんだけど」


「だから、俺妊娠したみたいなんだ」


「あー、いいかげんにしなさいよ!」


堪忍袋の緒が切れて、大声で怒鳴った私の腕を掴んで、宏は強引に私を食堂の外へ連れ出した。


「え、ちょっと宏どこいくの?」


私の声など聞こえないかのように、宏は私を午後の講義のためごった返している人込みの中を歩き続けた。

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