第45話 幽霊撮影コンテスト(1)
ISCOは重力波研究に限定して、地球上での研究を容認した。ただし国家を含むISCO加盟団体のみである。重力波発生装置はシリアルナンバーから情報まで統制され、万が一の場合の責任の所在を明確にした。さらにISCOは時代に逆行するかのような「推定有罪」の原則を持ち出した。これはISCOの宇宙法が個人ではなく団体に適用されていて、所謂「団体の責任を個人で負わせる」ことができなくするためである。仮に個人で宇宙法を犯した場合、所属団体の管理責任となる。元より個人の犯罪は地球上の各国家の法に準ずればいいだけで、ISCOにとって個人の責任を問う必要はないのであった。
地球での重力波研究は、宇宙で行う研究よりも形になるのが早い。単純に研究施設の規模や研究者の数も桁違いに多いからである。ISCOにも加盟している「フューチャーネット・コンソーシアム (FutureNet Consortium)通称:フューチャーネット」が、地球上での重力波通信システムを構築した。フューチャーネットは通信と情報技術の分野で優れた実績を持つ企業と、研究機関の連携によって形成されたコンソーシアムである。親機と子機による通信システムで、親機側に大規模な重力波発生装置を備えることで子機側の負担を小さくしたシステムである。重力波は遮蔽物を透過し光速で伝搬するため、地球上であればどこにいてもリアルタイムで鮮明な通信ができる。宇宙との交信もほぼリアルタイムになったおかげで、大企業を中心にあっという間に普及した。
重力波研究は、ゴーストマターの研究にも拍車をかけた。ISCOが「時空間歪曲表示装置(Spatiotemporal Distortion Display)通称:SDD」の地球上での生産を許諾し、しかもライセンスフリーとしたのだ。光学企業各社はすぐにSDDの開発生産を始め、ハンディタイプの「SDDカメラ」まで登場した。
「何々?『幽霊撮影コンテスト』だと?なんだこりゃ?」
報道機関の編集室。ISCOからのプレスリリースが届いていた。
「お~い、誰かこのプレスリリースのこと知ってるヤツいるか?」
「ISCOネタですか?だったら僕に任せてください」
デスクの呼びかけに若い記者が答えた。
「はぁ~、お前か~」
「デスク、何で嫌そうな顔をするんですか」
「お前ばかりがISCOネタを独占してるって、他の記者から愚痴られてんだよ」
「だったら僕よりいい記事を書けばいいんです」
「お前、記者のくせに理系出身だからな。お前の記事は小難しいことがわかりやすいんだよな。はぁ~」
「何でそこで溜息を吐くんですか?」
「また、ベテラン記者の愚痴を聞かなきゃならんのか、と思ってな。はぁ~」
「くだらないこと言ってないで、何のプレスリリースですか?」
「ISCOから『幽霊撮影コンテスト』だとよ。お前、背景知ってるか?」
「だいたいわかりますよ。ISCOは重力波研究解禁だけじゃなくて『時空間歪曲表示装置(Spatiotemporal Distortion Display)通称:SDD』の地球上での生産をライセンスフリーで許諾したんですよ」
「何だ?その、時空ナントカって?」
「SDDカメラで通じますよ。デスクにわかりやすく言うなら『幽霊が映せるかもしれないカメラ』です。本来は重力波発生装置とセットなんですけどね」
「ちょっと待て。幽霊が映せるカメラ?それをライセンスフリー?そんなのバカ売れだろ?俺だってほしいぞ」
「かもしれない、ですよ」
「なんだ。検証済みじゃないのか?」
「宇宙じゃ地球よりも幽霊探すの難しいでしょ?だからコンテストを開催して、みんなにSDDカメラで幽霊を映せるのか検証させようってことです」
「なんだ。俺たちは実験の手伝いをさせられるのか。でも画像や映像なんて、今じゃ誰でも加工できるぞ。賞金なんて出したら、フェイクで騙そうとするヤツが出てきそうだな」
「だからコンテストの応募はSDDカメラ本体を主催者に発送するんです。画像は取り出せるんですけど、SDD内部にブラックボックスがあって、そのデータは消すことも加工することもできないんです。ブラックボックス込みのライセンスフリーだったようで、どのメーカーの製品もブラックボックス内臓だそうです」
「ずいぶんと手の込んだ実験だな。一般人も巻き込むのかい」
「大賞は1,000万ドル相当の好きな通貨です。場所と時間の情報提供は必須で、主催者側でも幽霊が確認できればもれなく賞金1万ドル相当ですって。大盤振る舞いですね。総額いくらぐらいになるんだろ?」
「ISCOって儲かってんだな」
「ISCOに払う国家や企業の供託金って、公表してないけどかなりの額らしいですね」
「噂じゃ国連より高いってさ」
「あ、そうだ。ウチもISCOに加盟しましょうよ。そうすれば本部のネクサスだって自由に出入りできるし、宇宙へ出張とかいいですよね」
「お前と俺だけじゃなくて、全社員の給料が半分になるだろうけどな」
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