第15話 重力コントローラ
西暦2350年。
国際素粒子物理学協会(International Association of Particle Physics, IAPP)は、ブラックホールエンジンによる「重力コントローラ理論の確立」を単独で学会に発表した。ブラックホールエンジンが作成される前、グラビサイエンス研究所と未来エネルギー研究連盟が2349年に人類初の人工ブラックホールの生成に成功した直後のことである。
国際素粒子物理学協会、通称「IAPP」といえば、2323年に重力科学研究機構と「重力子の実用化」を共同発表した素粒子学界を牽引する老舗団体だ。
IAPPは自分たちが世界一の頭脳集団であることを自負し、100年間誰も成し得なかった「重力子の実用化」は彼らの誇りでもあった。重力科学研究機構との共同の成果と発表はしているものの、IAPPが主体となり100年かけて成し遂げたものだからである。しかし「ブラックホール生成理論」と「ブラックホールエンジン理論」を量子重力学連合に先を越されたことで、彼らのプライドに火が点いた。彼らは思考実験を繰り返すことにより「重力コントローラ理論」を確立したのだ。
「重力コントローラ理論」とは重力線を立体的に構築する理論だ。
従来の重力線照射装置は、レーザービームのように一定の口径に対して同口径の面に重力を発生させるものである。一方の「重力コントローラ理論」は既成の概念を根底から覆すような理論で、空間そのものに働きかけることで一定の空間内の重力を自由自在に操るものである。
例えば、あたかも地球上にいるかのように足元に引力を感じる環境を創り出すことができる。さらにこの理論を用いて重力の力を利用し、空気を保持することも可能だ。重力の制御によって、空中を歩くような感覚で移動することも可能となるのだ。
「重力コントローラ理論の確立」はIAPPの「努力と根性」の成果と言ってもいい。
「努力と根性」は「重力子」「幽子」「霊子」を発見したJ.ナカオカ博士の座右の銘である。
IAPPの科学者たちは「素粒子学の父」としてJ.ナカオカ博士を尊敬し心酔していた。「変人」と呼ばれたJ.ナカオカ博士だったが、彼の遺志は脈々と受け継がれていたのだった。
「重力コントローラ理論」とは宇宙物理に新たな視点をもたらす考え方だ。この「重力コントローラ理論」の提唱は、物理学、宇宙物理学、医学、さらにはオカルト研究団体に至るまで、多岐にわたる分野で大きな反響を呼び起こした。そしてこの理論が実用化されれば、新たなエネルギー供給源や、宇宙探査、宇宙移住といった未来の展望を拓く礎となると誰もが思った。
しかし「重力コントローラ理論」は「ブラックホールエンジン有りき」の理論である。理由は天文学的な数量の重力子が必要になるからだ。熱核融合炉によるエネルギー変換では、何万台もの熱核融合炉が必要になるほどである。重力コントローラを実用化するには、ブラックホールエンジンの高出力化は必須であった。
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