パパはスーパースター!

ミストーン

はじまり パパが来た!

「すごい出席率だね……クラス全員の親が来てるんじゃない?」


 昼休みのドッジボールから五年二組の教室に戻ると、何かすごい状態。

 ほとんどがお母さんなのは、いつもの授業参観と同じ。でも、なんだか気合の入り方が違ってる……。


「ねえ、ひょっとして今日……さくらちゃんの所、お父さんが来るの?」

「本人はそう言ってたけど……。飛行機の到着時間がギリギリだから、間に合うかどうかわからないよ? 国際便は平気で一時間くらい遅れたりするし」


 幼なじみの大親友『あやのん』こと、大川彩乃ちゃんに普通に答えたら、教室中がどよめいた。

 早めに着いたなら、もう来てるだろうし……。

 パパの予定は、本当にあてにならないから。

 五年生になってから友だちになった『まゆりん』こと、鈴本まゆりちゃんは、大きな目をキラキラさせてる。


「えっ……。本当に『香坂誠也こうさかせいや』が、この教室に来ちゃうんだ……」

「うん。珍しくスケジュールが合ったとかで、すっかりその気だったから」

「そうなんだけどぉ……。あの香坂誠也だよ! ロックシンガーで、主演映画やドラマも出れば大ヒットのスーパースター!」

「もう……まゆりん。それでも、普通にさくらちゃんのパパなんだから」


 まゆりんのテンションについていけない、あやのんは苦笑い。

 つき合いが長いだけに、あやのんは何度もパパに会ってるから、もうすっかり

慣れちゃってる。

 でも、それは私たち二人だけみたい。

 ものすごい期待感で、教室が爆発しちゃいそうになってる。

 五年二組の教室で始まるのは、ただの五時間目の国語の授業で、授業参観。

 パパのコンサートじゃないのになぁ……。

 ガラッと前の入口から入ってきた、担任の浮橋麗うきはし うらら先生が、いっせいに向けられた視線に、ビックリしてるよ……。


「はいっ。五時間目の国語の授業を始めまぁす。娘の時間は授業参観でみんなのお母さんたちが見てるけど、緊張しないでね」


 うらら先生も今日は、声と服装がよそ行きだ。

 ワンオクターブ高い声と、ビシッとスーツはいつもの参観日なんだけど、今日はバッチリメイクまでしちゃってる。

 女子力アップは、参観日じゃなくて合コンとかでしようよ……。


 授業参観で、国語の授業といえば、あやのんの教科書朗読から始まるのは、もうお約束。

 柔らかなあやのんボイスで、流れるような朗読は癒し系。

 その上、しっとりとした長い髪の美少女なものだから、男子でなくても惚れちゃいそうだよ……。

 聴き惚れていると、何やらお腹に響く爆音が聞こえてきた。


「うるさいなぁ! どこの暴走族だよ!」


 窓際の男子が怒鳴りながら、窓の外を見てる。

 心当たりのある私は、他人の顔で見ないふり、聞かないふり!

 もう一人心当たりのあるあやのんは、朗読を中断して、苦笑いして私を見てる。


「何だよ? あのピンク色のでっかい車!」

「アメリカの車じゃない? すっげえ昔の……」


 はい、正解。

 一九五九年式の『キャデラック六二コンバーチブル』っていう、もう六十年以上前の古い車なんだって。

 いつも聞かされてるから、すっかり覚えちゃった。

 どこがカッコいいのか、私にはちっともわからないんだけど……。


「あ、おりてきた……って!」


 窓際の男子が、いっせいに私を振り返る。

 来てくれたのは嬉しいから、つい頬がゆるんじゃう。

 でも、いつもながら目立ち過ぎだよぉ……。

 もっと普通にタクシーとか……せめてベンツとかで来てくれないかなぁ。

 恥ずかしくて、下向いちゃう。


「遅くなりました……。香坂さくらの父です」


 後ろの入り口から良く通る声。

 これほど、来客用のビニールスリッパが似合わない人はいないよね……。

 外国のブランド物っぽいテカテカしたジャケットに、黒いツヤツヤのシルクシャツ。ピッチリ細身の黒いズボン。

 珍しく紫のネクタイをしてくれてるのは、学校だから?

 気づかいありがとう。でも、そんなに緩めて胸元を開けてたら、意味がないって。

 そんなパパが長い髪をかきながら、居心地悪そうに入ってくる。


「あら、香坂さん珍しい。 お仕事はよろしいんですか?」

「ああ……彩乃ちゃんのお母さん。良かった、知った顔があるとホッとします。さっきロスから戻ったばかりなので、さすがに今日は休みなんですよ」

「まあまあ……時差ボケとか大丈夫ですか?」

「普段でもボケ倒してますから、あまり変わらないかと」

「まあ……クスクス。冗談ばかり」


 周囲が騒ぎたいのを一生懸命我慢してる中、パパ……香坂誠也は、ニコッと笑みを浮かべて、あやのんママにご挨拶。

 普通の挨拶してるのが、不思議に浮いて見えるよ。

 あやのんママも、なんだかんだでパパに慣れてるからなぁ……。

 だから、私を見つけてサムアップはやめて。

 授業中なので、小さく手を振リ返すだけにしておく。

 やっぱり、嬉しい! パパが来てくれた。


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