第3話 まがい物の愛...(其の3)
―――――夢を見た。
きらきらと輝く太陽。花が咲き乱れる野原。少年と少女が二人で楽しそうに遊んでいる。
「――は大きくなったら破壊者になるの?」
手元で花の王冠を作りながら少女が問う。
「僕の家はお父さんが破壊者だから、僕も破壊者になるよ!!それで、悪い冒険者を退治するんだ、かっこいいでしょ。」
エイッエイッと木の棒を振り回して破壊者の真似っ子。
「あっ!四つ葉のクローバー!!」
視界に入ってきた幸運の象徴を手に取り、嬉しそうに眺める少年。
「いいな~!!私に頂戴!!」
少年以上に目をキラキラさせる少女。
「じゃあ、その花の王冠と交換しようよ。」
算学の宿題をするとき以上に難しそうな顔で悩む少女。
「ほしいけどなぁ~、王冠もなぁ~、ぐぬぬ~。」
「どうするの~?四つ葉だよ~、四つ葉~。」
「わかった...王冠あげる!だからクローバーちょーだい!」
王冠とクローバーを交換し、少しの静寂の後、王冠をかぶり少年が一言、
「我は破壊者の王だ~!!ハッハッハー。」
腰に手を当て、棒切れを空に向け、気分は完全に王様だ。破壊者に王様なんていないが、少年には関係のないことだった。
そしてその少年を眺めながら、嬉しそうに微笑む少女。その小さな手には大事にクローバーが握られている。
「そういえば、――は大人になったらなにになるの?」
「わたし?えーっとねー...」
少女のうれしそうな顔は憂いを帯びた顔に変わり黙り込んでしまう。
「どうしたの?大丈夫?」
「うん、へーきへーき。今はまだ決まってないんだ~。なれるなら――――かな。なんちゃって。」
少年や少女の名前も、遊んでいる場所も、何もかも思い出せない、そもそもこれは自分の記憶なのか。ただその場所は、妙に居心地がよく懐かしいと感じる場所だった。
窓からの光に眩しさを感じて目を開いた。どうやら生きているようだ、というかここはどこだ。俺は確かキュクロプス、いや巨大鎧を倒してあと倒れたはずだが。なぜベッドの上にいる。それに全身包帯まみれだ。どうなっている。今まで幾度となく気絶してきたが目を覚ましたら必ず倒れた場所にいた。忌み嫌われているんだ、手を差し伸べる人間などいるはずがない。いるはずがないのだ。経験則であくまで俺の予想の域をでないが善意をもって接してくる人間にほど呪いは強く働く。治だったり安全地帯に運んでくれたりなんてありえない。
だからこそ、この状況は意味不明だ。とりあえずさっさと出よう。傷は治っていないがこんなところに長居するのはよくない。
激しい痛みに声を漏らしながらもやっとの思いで立ち上がり部屋を出ようとした瞬間だった。
コンコン、とドアをたたく音が聞こえた。
敵か、いやいやさすがにないか。
「起きてますか。」
この声は確か...依頼人。ということはここはあの時の貴族の邸宅か。返事をすべきか否か。あれこれ考えていると入りますよという声とともに依頼人が入ってきた。
「あぁ、起きてる!!よかった。」
???
鳩が豆鉄砲をくらったような顔で立ち尽くすアローン。こいつ今、よかったと言ったのか。俺に...俺に?!
「あぁ、すみません急に大きな声出してしまって。」
「ああ。問題ない。」
状況が整理できない。こんな形で人と話すのは数年ぶりだ。
「えーっと、なんでここにいるのか?みたいなこと考えてたりします?」
「ああ。」
話を聞くと、俺が依頼に赴いて数時間後、北の方で爆音がなったかと思うと急に地面が揺れ始めて、まさかと思ってキュクロプスがいたところに行くと俺が倒れていたらしい。それを屋敷に連れて帰って介抱していたと。三日しても帰ってこなければと言っていたはずなのだが、助けの来てくれたのか。それを聞いてアローンの中で消えかけていた願いが蠢き始めた。愛だのなんだのと自問自答し続けた日々についに終止符が打てるのか?ついに俺は「たった1人」を見つけられるのか?と。
「屋敷に他に人はいるのか?」
「いますよ。でも安心してください、あなとのことはただの来客としか伝えていませんから。あなたを送り出した後、少しあなたについて調べたんです。みんなあなたのことを悪く言っていました。それに、家の者にあなたが依頼を受けてくれたことを報告したら、すごい嫌な顔をしていたんです。それで、その嫌われ者破壊者ってあなたのことなんだってなりまして。」
「...。」
来客にこんなに世話を焼いていて怪しまれないのか。
「ええと、あの私は別にあなたのこと嫌いじゃないですよ!!」
「...。」
読心を使っても、俺に対するを悪意を感じれない。どういうことだ?やっと「たった1人」が見つけれたのか、そういうことなのか?楽観的に考えるな、その手の類のスキルだってある。対読心のスキル。だが、たかが貴族の娘、そんなスキル習得するだろうか?破壊者じゃあるまいし、そんなもの習得するはずがない。
アローンがだんまりとしていたからであろう、空気に耐えきれなくなった娘は
「そういえば、三日もご飯食べてないんですよね!!今すぐ持ってきます!ちょっと待っててください。」
と言って部屋を出ていった。
これは、そういうことなのか。ついに、ついに「たった一人」を見つけたのか?僕はついに見つけたのか?鼓動が高鳴る。今までの苦痛の日々が思い起こされる。僕はこのために今日まで生きてきたんだ。やっと僕は報われる。
俺がいままでこんなに苦労してきたんだこんな簡単に行くものなのか?そうなのか?僕はいままで十分頑張ってきた、当然の結果だよ。
落ち着け俺。相手は没落貴族、あれは演技で俺を利用しようとして金でも稼ぐつもりではないのか。落ち着いて考えろ、貴族は話し合いのとき読心師を連れていることが多々ある。それ対策に対読心のスキルだってもっててもおかしくないだろ。
僕はそう思わないけどな。
お前は引っ込んでろ。ずっと静かだったくせに、急に出てきやがって。
強がるなよ「俺」。本当は愛されたいって思いはお前も持っているんだろう。あの時「愛されたい」という本音を見ないふりをして生きてきたんだろうけど、心の奥底に「愛されたい」という本音がある限り、僕は消えない。
もういいだろ、楽になろうよ、お前は今までよく頑張った。いいんだよ、ここで休んだって。
―ダメだ!呑まれるな!
俺は...俺は..オレハ..イママデヨクガンバッタ。
―流されるな!
あの人は俺の探し求めていた「たった一人」の人。そうだ、そうに違いない。
コンコンとドアをたたく音が
「両手がお盆でふさがってまして、ドアを開けれないです。ごめんなさい、あけてくれますか~?」
「ああ。」
ドアを開けると山盛りの食事を持って入ってきた。
「怪我人なのにすみません。さあ座ってください。自分で食べれますか?食べさせてあげましょうか?」
ほらこんなに優しい。
「いや、自分で食える。感謝する、えーっと、」
「あ、名乗ってませんでしたね私はロベリアといいます。」
ニコッと笑い彼女はそう言った。
満月のように美しい瞳、綺麗に束ねられた青紫の髪、健康的な体。少し幼さが残る可愛い顔には笑顔がお似合いだ。
「それで、どうして俺を助けた。」
「それはあんな依頼料で危険な依頼を受けてくれたんです、介抱して同然です。」
エッヘンといった感じでとても得意な様子。
「そうか。」
「話はいったん置いておいて、ご飯を食べてください。三日間も寝込んでいたんですから、よく食べて元気になってください。」
「ああ。」
飯はうまかった。ずっと自炊だった故、久しぶりに人の愛情がこもった料理を食べた気がした。食事中、終始ニコニコしながらこちらを見ていて少し食べづらかったが気にしないでおこう。
「ご飯を食べたら休んでください。片づけは私がやりますから。」
「休めって、これから出ていくつもりだったんだが...」
もちろんそんなことは考えていない、留まる気満々だが形だけでも断りを入れるのが筋である。
「無理は禁物、あなたは救世主なんですから、もっと偉そうにしててもいいぐらいですよ。」
ロベリアは食器をもって部屋を出ていった。
没落貴族なのに、領民は幸せそうで、こんなに優しくて、素晴らしい善人だ。きっと頭首も優しいんだろうな。きっと領民に優しい統治をしていたから金がなくなって没落したのだろう。俺が力になれるなら力になりたいものだ。
力になれることといえば破壊者として稼いだ金を渡すぐらいか?領地内の魔物、冒険者の破壊もできるか。そのためにも速く快復しないといけないな。
解説コーナー(知らなくても楽しめるけど、知ってたらもっと楽しめるやーつ。)
ロベリア=レイター
没落貴族のレイター家の娘。容姿端麗、ダンスは得意(運動全般苦手)、優しい?
黄色の瞳。青紫色の長髪を後ろでくくっている。身長は平均程度。豊満な体つき。
丁寧語だったり、そうじゃなかったり抜けてるところが多々ある。
素うどんが好き。
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