パーティーに行ってみた――1

 蓮華の献身的な看病のおかげか、翌朝には、喉の痛みや倦怠感などの、風邪の症状は治まっていた。試しに体温を測ってみると、平熱を示している。


「熱、下がりましたね」

「ああ。けど、今日も安静にしといたほうがいいだろう。治りかけは気をつけないといけないらしいからな」


 隣から体温計をのぞき込んでいた蓮華に、照れ隠しとして頬をきながら、俺は伝える。


「迷惑をかけて悪かった。まあ、あれだ……きみのおかげで助かった」

「どういたしまして。ひさしぶりにデレ秀次くんが見られて嬉しい限りです」

「だからデレてないんだって!」


 噛みつくように否定するも、蓮華はニコニコと楽しそうに笑っている。『わたしはわかっていますよ? あなたの本心を』みたいな顔だ。


 おちょくりやがって……これだから素直に礼を言いたくなかったんだ。これからまた、蓮華に振り回される日々がやってくるんだろうなあ。


 諦めの溜息をつき、気分を切り替えるためにかぶりを振る。


「とにもかくにも、早く治ってよかったよ。蓮華にずっと欠席してもらうわけにはいかないからな」

「わたしはいくらでも欠席するつもりだったのですが……まあ、秀次くんが元気になってなによりです。明日から、また学校に通いましょうね」

「明日から? 今日からの間違いだろ」

「え?」

「え?」


 なぜか蓮華が首を傾げ、その反応の意味がわからず、俺もまた首を傾げる。なんだか話がかみ合っていない気がするのだが。


「……まさかとは思うが、今日も俺のために欠席するとか言わないよな?」

「そのつもりですけど?」

「なにを当然のように肯定しているんだ! 風邪はもう治ったんだから、俺の世話をする必要はないだろう!?」

「そういうわけにはいきません。秀次くん自身、先ほどおっしゃっていたじゃないですか。治りかけは気をつけないといけないって。完全に大丈夫な状態になるまで、わたしはお世話を続けますよ」

「いいって、心配しなくていいって、やり過ぎだって」

「昔の偉いひとは言いました。念には念を、と」

「いや、たしかにそうなんだけどさ……」

「それに、わたしは約束しましたからね」

「約束?」


 俺が眉をひそめると、蓮華は誇らしげに胸を張った。


「秀次くんのそばにいて、ずっとずっと尽くし続けると」

「ぐぬ……っ」

「対して秀次くんは、『ありがとう』と言ってくれました。これは、わたしが尽くすことを受け入れてくれた証拠ですよね?」

「ぐぬぬ……っ」


 得意げな笑みを浮かべる蓮華に、俺はひとつの反論もできない。できることといえば、歯噛みしながらうなることだけだ。


 蓮華のやつ、あからさまに調子に乗ってるな。風邪で気弱になっていたとはいえ、迂闊うかつなことを口走ってしまったもんだ。


 昨日の自分に文句を言ってやりたいが、タイムマシンでもなければできるはずがない。再び俺は、深く溜息をつく。


 その折り、テーブルに置いてあったスマホが着信を知らせた。


「いいか?」

「ええ。どうぞ」


 蓮華に確認をとり、俺はベッドから出てスマホを手にする。発信者は父さんだ。


 通話を許可し、スマホを耳に当てる。

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