第54章−4 異世界の……(4)※
オレとフレドリックくんが誤って肉食花の蜂蜜を摂取してから、三日三晩が過ぎちゃった。
四日目の朝、ようやく肉食花の蜜の影響から脱することができたオレとフレドリックくん、そして、宣言どおりに身を挺してがんばってくれたドリアは、折り重なるように抱き合って、昼頃まで眠っていた。
……あのピンクの禁書庫でオレが最後に読んだ本。
あの本には、夜の営みを素晴らしいものにするための魔法が記された本であった。
オレが苦労して解読した最後の魔法は、……複数の男性を同時に受入れることができるようになる魔法だった。
まさか、これを使う日が来るとは……。
異世界って、本当に、恐ろしい場所だったよ。
………………。
オレが異世界に召喚されて五十四日目の昼……。
「あああっ!」
「はあ……っ」
「……………………」
オレは……。
オレたちは、大反省会の真っ只中にいた。
ドリアは王太子の衣装、フレドリックくんは新しく用意された騎士の制服、オレは室内着に着替え終えると、それぞれが集まるようにベッドの上に力なく座る。
大きな溜め息と嘆きが交互に口からでてきて止まらないよ。
互いの顔を見ることができず、示し合わせたわけではないのだが、オレたち三人は背を向け合って座っていた。
「ああ……なんということだ……」
フレドリックくんの悲痛な嘆きが、身に染みる。
この三日三晩のアレヤコレヤだが、オレもフレドリックくんも、ほとんどのことをはっきりと覚えていた。
……生々しいほど記憶している。
言葉もないし、言い訳もできないよ。
「ああ……」
フレドリックくんは頭を抱え、気の毒になるほどどんよりと沈み込んでいるよ。
今になって、自分がドリアにしでかしたことのアレヤコレヤに戦慄しているようだね。
事前に剣を取り上げといてよかったよ。
絶対、思い余って腹切りしてる。
そういうオレだって……。
恥ずかしくて、恥ずかしくて……泣きたい。
穴があったら入りたいよ。
(いくら、肉食花の蜂蜜を摂取してしまったからといって……)
あんなことを……ふたりまとめては……。
昨晩のコトを思い出し、全身がカッと熱くなる。
オレのバカ。
どうして、三人一緒がいいなんて言ったんだよ。
なぜ、なぜ……。
禁書庫の本を読みたいと思ったんだろうね……。
「はあっ……」
ドリアが悩まし気な溜め息を吐き出す。
「最初はちょっと驚いたけど……三人でするのも……すごく……よかった……」
思わずドリアの言葉に頷きかけて、オレは慌てて首を横に振る。
フレドリックくんは……ドリアの発言に傷ついたようで、さらにへこんでしまっていた。
ドリア、なんてポジティブなんだ……。
己の欲望に正直なドリアが羨ましい。ある意味、尊敬しちゃうよ。
「二回に一回くらいは、三人でやりたいよな」
いやいや、いくらなんでも、それはやりすぎだろ……と、やることを前提で突っ込みを入れそうになった自分自身を殴りたいよ。
「すごいよな。三人でするのって……。なんか、新しい世界が拓けたというか、なんて言うんだろう……」
うっとりとしたドリアの声につられ、オレはのろのろと視線を動かし、ドリアの横顔を盗み見る。
「癖になりそうだ……」
天井……よりも、もっと高いところを見上げながら、恍惚とした表情で呟いている。
そうだね、ドリア。
どうして、散々な目にあったはずのキミが一番、満足そうな笑顔を浮かべているのか、その理由を教えてほしいよ……。
ショックが大きすぎて、涙もでてこない。
「さてと……」
と、小さな声で呟くと、ドリアはベッドから降り、オレたちの方に向いて立ち上がる。
びっくりするくらい、ドリアは元気で生き生きとしている。
責任ある仕事をやり遂げた……なにやらわけのわからない達成感に満たされているようだ。
ドリアと目が合いそうになって、オレは慌てて顔を下げた。
「マオとフレドリックが元に戻ったようで、安心した」
「…………」
うん。
元に戻った途端、後悔の嵐に襲われてしまっているよ……。
なんで、あんなコトしちゃったんだろうね。
肉食花の恐ろしさを改めて痛感したよ。
「どこか具合が悪いところはないか? 医者に診てもらうか?」
「いや、大丈夫」
「わたしも必要ありません」
医者が匙を投げた症状だよ。
診察してもらっても意味がないだろうね。
逆に新薬の使用感など質問されたら困る。
あれの潤い効果は、とてもよく効いて、香りも気持ちを高めるには素晴らしいものだった。
欲をいえば、小瓶からだしたときの、ひんやり感が「びくうっ」となるので、とろみプラスして温熱効果があればと思う。
……と、冷静に新薬の感想を思い浮かべている自分が辛い。
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