第54章−2 異世界の……(2)※

 このときのオレは、どんな表情を浮かべていたのだろうか?


 ドリアの顔がみるまに怯えたものに変化する。


「ドリアは傍観者になるつもりだったの?」


 自分の声が聞こえるのだが、自分の声とは思えないくらい、甘くて魅惑に満ちた声色だ。


「いや、だって、マオは、フレドリックと……やりたいのだろう?」

「いつ、オレがそんなことを言った?」


 不思議なことに、あれだけ呼吸が苦しくて会話するのも辛かったのに、肉食花の蜜が全身に行き渡ると、意識がクリアになって、言葉がスラスラとでてくる。


「ま、マオ? なんか……変だぞ?」


 ドリアが乾いた笑みを口元に浮かべながら、一歩、二歩と後退っていく。


 邪魔な残りの服を脱ぎ捨てながら、オレは怯えるドリアを安心させようと、とっておきの笑みを浮かべた。


 怯えていたドリアの顔が、みるまに赤く染まっていく。


「せっかく、三人が揃ったんだよ?」

「へ……?」

「三人でヤろうよ」

「え…………えっっっっ!」

「ね? ドリア? ヤるなら、三人いっしょがいいな? ホントウはドリアも三人いっしょでやってみたいんだろ?」


 オレの爆弾発言に、ドリアの顔が驚愕に染まり、その後はこれ以上ないくらいに真っ赤になって、キラキラ輝く目が逃げ道を探すかのように泳いでいる。


 あ、この反応は、図星だ。


 そうなんだよね……。


 ピンクの禁書庫で知ったんだけど、こちらの世界のヒトたちって、複数人と同時にすることに、なんの抵抗もないというか、むしろ、やりたくて、やりたくて、たまらないらしいよ。


 オレにはなかなか理解できなかったんだけど、それができてこそ一人前というか、スゲーヤツ、みたいな考えがあるから驚いちゃった。


 最初は王族独特の性癖なのか、とも思ったのだけど、そうでもないらしい。

 本での知識だけだったんだけど、改めて確信した。


 まあ、あの『出産と豊穣、婚儀と情欲の女神』と称される至高神アナスティミアの管轄世界ならさもありなんだ。


 異世界って、ホント、恐ろしい場所だよ。


 トンデモない世界なんだけど、この世界の人たちにとっては、さして珍しくもない願望みたいだ。


 世界が変われば、常識も変わる。


 とはいっても、あくまでも、それは願望だよ。妄想レベルといっても差し支えないかなぁ。


 実際に、その妄想が叶った王様は半数くらいだけど……。

 オレにしたら半数もいるんだから、驚いたけどね。

 だからこそ、それができない王様たちは下手なポエムに走ったり、鬱陶しい日記を延々と書き綴ったりしていたわけだ。

 鬱憤を吐き出す場がポエムというのも、ちょっとなんだかなぁとは思う。


 異世界はすごいわ。


 それにしても……ドリアの表情と顔色がコロコロと変わって、とっても愉しい気分になる。


 もっと困らせて、もっといろんなドリアの表情を見てみたい。

 身体と心がワクワクというか、フワフワしてきたよ。


「やばいぞ。やばいぞ。トンデモなくやばい! おい、リニー! 医師を呼べ! マオが変だ! って、扉が開かないぞ!」


 寝室の扉まで後退したドリアが、扉をドンドン叩くが、全く反応がない。

 ドアノブをガチャガチャさせるが、扉はピタリと閉じられており、ビクともしない。開くはずもない。


「ドリア、叫んでも無駄だよ。さっき、寝室の結界を強化しておいたからね。ドラゴンだろうが、魔王だろうが、この結界を破ることはできないよ。もちろん、扉を開けることができるのは、オレだけだ」

「マオ! な、なんてことをするんだ!」


 ドリアが叫び声をあげる。


「部屋の結界は、いつものことだけど、今日は特に、特別に念入りにしたよ。だって、『オレたち』の記念すべき『初めての日』だよ。誰にも知られたくないし、邪魔されたくないからね」

「マオ……なにを言って……」

「安心して。オレたちの恥ずかしい声は漏れないし、オレを覗き見ようとしている大神官長サンも見ることができないくらい、強力な結界を張っているから。ああ……でも、きっと、至高神アナスティミアは視ているんだろうねぇ」


 すっかり怯えてしまっている顔面蒼白なドリアを眺め、オレは恍惚とした笑みを浮かべた。

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