第50章−1 異世界のお見合いは集団です(1)

 それからきっちり一時間後。


「勇者様、突然の呼びたて申し訳ございません」

「イエ。ゴショウタイアリガトウゴザイマス」


 いかん、いかん。


 気持ちが全く籠もっていない挨拶になってしまった。


 オレを午前のお茶会に招待した宰相サンは、突然の呼びだしに気にする風でもなく、にこやかな笑みを浮かべながら、オレに着席するようすすめてくる。


 十日、いや、もう少し前だったかにドリアとお茶をした場所だ。


 またここでお茶を飲んだり、バラを眺めたりしたいなぁ……とは思ったけど、こういう状況は望んでいなかったぞ。


 バラの花が咲き誇る庭園のガゼボで、今度は宰相サンとお茶をすることになってしまった……。


 宰相サンとオレの一対一。


 宰相サンの後ろには、騎士団長サンと騎士団長サンに似た若い騎士とエリーさんが控えている。


 偶然なのか、色味に微妙な違いはあるが三人、いやフレドリックくんもいれて四人の騎士が全員、赤髪だ。赤髪率が異様に高い。


 ガゼボの外では、ざくっと二十数名の見目麗しい騎士たちが、ガゼボを護るようにして立っている。


 ずいぶんと……物々しいお茶会だ。


 オレの背後には、フレドリックくんとリニー少年が立つ。


「小姓は席を外しなさい」


 ポットを手にしながら、宰相サンが厳かな口調でオレの背後に立ったリニー少年に命令する。


 とても有り難いことに、宰相サンが手づからお茶を用意してくださるようだ。


 ガゼボ近辺を見渡してみるが、いるのは騎士だけで、侍従やメイドの姿は見当たらない。


 ……これはちょっと、嫌な予感がする。


 いやもう、宰相サン主催って時点でアウトだろう。嫌な予感しかしないよ。


 お茶を用意する宰相サンの所作はとても洗練されており、リニー少年の姿と重なって見える。


「お断りします。宰相閣下より、勇者様がお部屋のお外に出られる場合は、フレドリックとわたくしが同行するよう、命を受けております」


 リニー少年のきっぱりとした宣言に、宰相サンの動きがぴくりと止まる。


 騎士団長サンが「クックック」と忍び笑いをしている。

 隣に立つ騎士が慌てて、肘でつついて騎士団長さんの無礼を咎める様子がちらりと見えた。


「……勇者様、どうぞ」


 宰相サンはにこやかな笑みを崩すことなく、ふたりぶんのお茶を用意する。


 リニー少年についてはそれ以上触れてこなかったので、このままこのガゼボに残るのだろう。


 軽く宰相サンが手を動かすと、ガゼボに組み込まれていた魔法陣が発動し、防音と認識阻害の魔法が発動する。


 これで、外からは、ガゼボ内部の会話や様子がわからなくなる。


 それだけでも十分なのだが、宰相サンの挑発的な目を見ていると、なんだかムカムカしてきて、オレも負けじと魔法を発動させる。


 ガゼボの魔法よりも、さらに強固な防音と認識阻害、ついでに、防御の魔法もかけておく。


 防御の魔法はかなりの威力があり、魔法、物理攻撃を無効化する。巨人やドラゴンがぶつかってきても、破壊されないくらい強固なものだ。


「ほぅ。無詠唱で、ここまでのものができるとは……」


 さすがですな、と、騎士団長サンが驚いた声で呟く。


 エリーさんともうひとりの騎士も、感心したように頷いている。


 それが瞬時にわかる人たちもすごいと思うけどね……。


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