第39章−4 異世界のハグは命がけです(4)

 眼の前にはドリア。


 背後にはフレドリックくん。


 見た目がイケメン、性格がイケメンという、毛色の違うふたりのイケメンに挟まれている。


 ふたりの温もりと、匂いを意識したとたん、オレの心のなかに、なんともいえない充足感と、さらなる快楽を求める渇望感が同時にわきあがってくる。


 なんなんだ、これは……?


「マオ……? なんだか、いつもとちがう……?」


 不思議そうにドリアが呟いているのを、ぼんやりと観察する。


 ドリアはとってもキラキラしていて、見ているだけで頭がくらくらしてくる。

 そのキラキラ眩しい笑顔が、唐突に固まった。


「そ、そ、そんな……」


 なにかを悟ったらしい、ドリアの美しい翠の瞳から、大粒の雫がぽろぽろと溢れては、こぼれ落ちていく。


「マオ……フレドリック……」


 どうしてドリアが泣いているんだろう?

 オレはぼんやりとした頭で考えようとするが、思考がうまくまとまらない。


「フレドリック……お前……」


 ドリアがオレの背後に立っているフレドリックくんを睨む。

 言葉がでてこないのか、ドリアは水揚げされた魚のように、ただ口をぱくぱくさせるだけだ。


「王太子殿下、お察しのとおりでございます」

「…………!」


 フレドリックくんの短い言葉は強烈な爆弾となって、室内に投下される。


 執務机の周辺でせっせと書類を集めていた書記官たちの手から、ザザザっと音をたてて、書類が手からこぼれ落ちる。


 書記官たちはしゃがみこんだ姿勢のままで動きを止め、ものすごく驚いた顔をしてオレたちの方を凝視している。


 部屋の入り口付近に待機していた近衛騎士たちがみじろき、剣の鞘が壁にガチャガチャと当たる騒々しい音がした。


「マオはわたしの運命の番だ!」

「勇者様は、わたしの運命の番でもあります」


(で、でた――。至高神アナスティミアのよからぬおせっかい)


 オレは前から、後ろから、同時にぎゅっと抱かれてしまう。


 ん……?


 ふたりに挟まれて、同時に抱きしめられるって、とっても贅沢な感じがして気持ちがいいぞ。


 このまま……。


 って、オレはなんてことを考えているんだ!


 いやいや、考えるようになってしまったんだぁぁぁっ!


 オレ的には、ずっとこの状態がつづいても問題なかったのだが、室内にいる書記官や近衛騎士にとっては、さぞかし居心地の悪い空間になっているにちがいない。


 背後にいるフレドリックくんが、どんな顔をしているのかはわからない。


 ただ、前にいるドリアの表情はわかるぞ。


 悔しそうに顔を歪めながら、ぽろぽろだった涙が、滝のようにだばだば流れ落ちている。

 

「わ、わたしが一番だぞ!」

「承知しております」

「最初だったぞ!」

「承知しております」

「マオはわたしのものだぞ!」

「勇者様は、誰ものもでもございません」


 ドリアの宣言を、フレドリックくんは、静かな声で受け流す。



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