30歳童貞魔法少女先生ダンジョンに潜る
須垣めずく
第一章 童貞先生、魔法少女になる
第001話「探索者 (ダンジョンエクスプローラー)」★
【表紙】
https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16817330660882288213
大きく深呼吸をしてから、意を決して教室の扉を開く。
教室内はざわざわと騒がしく、生徒達が思い思いの会話を繰り広げていた。
彼らは入ってきた僕を一瞬だけチラリと見るが、すぐに興味をなくしたのか再び仲間達との談笑に戻る。
「どうする? お前、今日もこれからダンジョンに行くのか?」
「当然だろ! せっかく
「あー、だりぃなぁ。学校なんて行く必要あんのかよ。ダンジョン探索の方が楽しいし、金にもなるってのに学校とか時間の無駄じゃねぇか」
僕が教卓の前まで来ても、彼らは話をやめようとしない。帰りのホームルームが始まる前だというのに、教室内は生徒達の喧噪に満ちていた。
そんな彼らの様子を眺めながら、僕は静かに溜め息を吐いた。
僕の名前は
年齢は29歳で独身である。
身長は180センチくらいで痩せ型、顔立ちは……自分で言うのもなんだけれどそんなに悪くない方だと思う。
だが、元来の気弱な性格が災いしてか、女性からはモテた試しがない。きっと女性からすれば、僕は頼り甲斐のない男に見えるのだろうと思う。
実際その通りだし……。
かといって自分から女性にアプローチを掛けるような勇気もなく、この年齢になっても未だに彼女ができたことはない。
当然……童貞である――。
まぁ、それはともかくとして――――担任である僕が教壇に立っているというのに、生徒達は席にも着かず、僕のことなど眼中にないように好き勝手に喋っている。これは別に今日に限ったことではなく、いつものことであった。
端的に言うと、僕は生徒達から完全に舐められているのだ。
しかし、それも無理もない話だとは思う。なぜなら――――
「せんせーい! 早くホームルーム始めてくれませんかー? 私この後ダンジョンに行きたいんですけどぉ?」
1人の女子生徒が甘えたような声を出しながら、こちらを見つめてくる。
彼女は
まっすぐ切り揃えた前髪に、腰まで伸ばした艶やかな黒髪、勝ち気そうな大きな瞳に長いまつ毛、肌は透き通るように白く、手足はスラリと長く細い。
背丈や顔つきは年相応といった感じなのだが、スタイルは抜群であり胸の大きさは同年代の女の子と比べてもかなり大きい部類に入るだろう。
窓際の最前列の席である彼女は、何故か机を僕の方へ向けて、その上に座った状態のまま脚を組み替えたりしている。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16817330661083690512
他の生徒達からは見えない位置ではあるのだが、僕からは彼女のスカートの中が見えそうになってしまい非常に困る状態になっていた。
僕は思わずチラリとそこに目線を向けてしまい、慌てて顔を逸らした。
「あれ~? 先生ぇ? 今どこ見てましたぁ? もしかして、私のパンツでも見ようとしてたんですかぁ?」
にひひっと悪戯っぽい笑みを浮かべながら、嬉野はそう言って僕を挑発してくる。
「そ、そんなわけないだろう! 先生は大人だからね。嬉野がいくら美人でも、子供の体をじろじろ見たりする訳がないじゃないか」
「び、美人……」
僕が慌てて誤魔化すと、嬉野は何か小声で呟いたあと頬を赤らめた。だが、その後すぐにハッとした表情になると、慌てた様子でこう言った。
「ほ、本当かな~? 先生は童貞っぽいですからねー。いくら生徒とはいえ、私のような可愛い女の子を見たらエッチなこと考えちゃうんじゃないですかぁ?」
そう言いながら嬉野はニヤニヤと笑ってみせると、机の上からぴょんと飛び降りて、僕の方へ近付いてきた。そして、そのままぐいっと体を寄せて、上目遣いでじっと見上げて来る。
その瞬間、甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐり、僕は慌てて後ろに飛び退いた。「ゴチンッ!」と黒板に頭をぶつける音が響く。
嬉野は一瞬驚いたような表情をしたあと、目を細めてクスクスと笑う。
くっ……完全に遊ばれている。
こうやって嬉野はいつも僕をからかってくるのだが、僕は彼女に対して何も言い返すことができない。ただ、恥ずかしさに耐えながら黙って苦笑いをするだけだ。
どうして僕はこんなにも気が小さいのだろうか。もっと毅然とした態度で接することができれば、生徒達からももう少し信頼を得ることができるかもしれないのに……。
どんよりとした気持ちになりながら、心の中で深く溜め息を吐く。
そんな僕の様子を見て、嬉野は少し申し訳なさそうな顔になった。そして、コホンと小さく咳払いをすると、改めて口を開いた。
「まあ? 私は先生が童貞でも全然気にしないっていうか……むしろ――――」
「おい!! 桜井! 何やってんだよ! さっさとホームルーム始めろよ! この無能教師!!」
突然、教室内の空気が変わるほどの怒号が響き渡る。
声の主の方へと目を向けてみると、そこには怒りの形相をした男子生徒が立っていた。短く切り揃えた金髪に、整った顔立ちをしているもののどこか粗暴な印象を受ける少年だ。
「か、葛城……。先生を呼び捨てにするなと何度も言っているだろう……」
僕はビクビクしながら、目の前に立つ男子生徒――
だが、彼は僕の言葉をまるで聞いていないようで、ギロリと鋭い視線を向けると、更に捲し立ててきた。
「はんっ! 何で無能教師ごときを敬った呼び方しなくちゃなんねぇんだ? 俺を誰だと思っってんだよ!」
そう言うと、葛城は僕の方へズカズカ歩いてくる。そして、教卓の上にバンッと手を叩きつけると、そのまま身を乗り出して僕の顔のすぐ横まで自分の顔を寄せた。
至近距離から睨みつけられ、思わず僕は身を引いてしまう
「俺は探索者様だぞ? しかもプロの資格を持ってるこの街のトップランカーなんだぜ? 先月の俺の稼いだ金額、お前知ってるか? お前の年収の10倍以上だよ。わかるか? つまり俺はお前より圧倒的に格上の存在だってことだ。お前の1日と俺の1秒の価値を比べてみろ。どっちが大事かなんて考えるまでもねえだろうが! わかったらさっさとホームルームを始めろ! この役立たずのクソ教師が!!!」
僕は葛城に何も言い返すことができないまま、彼の言う通り、即座にホームルームを始めた。
「そ、それではホームルームを始めます。最近、並木野ダンジョンの10階層で、見たこともないような魔物を目撃したという報告が相次いでいるそうです。幸運にも死者は出ておりませんが、10階へ潜る探索者の皆さんはくれぐれも気をつけてください」
「ふん! 噂の
葛城は僕を罵倒した後、苛ついた様子で舌打ちする。
「う、うん……じゃあ今日のホームルームはこれで終わり……です。日直の人は号令お願いします……」
僕が消え入りそうな声で言うと、日直の生徒が立ち上がり、皆に礼を促す。全員が頭を下げた後、僕は逃げるように教壇から降りて、足早に教室から出て行った。
背中越しに生徒達のクスクスという笑い声が聞こえてくる。ちらりと教室に目線を向けると、心配そうな表情をした嬉野と視線が合った。
だが、僕は彼女に軽く微笑みかけることすらできず、すぐに目を逸らすと、俯いたまま職員室へと向かったのだった。
「桜井先生、大丈夫ですか? 大分お疲れのようですけど……」
隣の席に座る若い女性教師――
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/mezukusugaki/news/16817330661083712740
彼女は僕より年下の24歳で、まだ社会人2年目の若手なのだが、僕と違ってしっかりしていて頼り甲斐があり、生徒達からの信頼も厚い。
そして、その容姿はというと、肩口まで伸びたウェーブのかかった綺麗な茶髪に、優し気な瞳、整った鼻梁と、文句なしの美人である。おまけに巨乳だ。
おまけに巨乳だ。
「いやぁ、申し訳ありません。どうも生徒達に舐められているようでして……。あはは、情けない話ですよね」
僕は苦笑しながら、乾いた声で答える。すると、葉月先生は少し困ったような顔をしたあと、優しい声でこう言った。
「まあしょうがないですよ。並木野市は大規模ダンジョンがある影響で探索者の子がかなり多いですからね。探索者の子供達が大人を下に見るというのはよくあることですから。特に桜井先生のクラスにはあの葛城くんもいますし……」
――『探索者 (ダンジョンエクスプローラー)』
今から10年程前、突如世界中に謎の空間に通じる穴――通称"ダンジョンゲート"と呼ばれる異界への扉が現れた。
穴の向こう側に広がる未知の世界は、"ダンジョン"と呼ばれ、その内部には魔物と呼ばれる異形の怪物達が跋扈していることがわかったのだ。
世界各国はこの事態を重く受け止め、直ちに調査を開始した。当然日本もその例外ではなく、政府はすぐに自衛隊の一部隊を派遣し、内部の調査に乗り出したのだが、その際にとある問題が発生した。
ダンジョン内部には加工した金属や電子機器類など、こちらの世界の文明の利器を一切持ち込むことができなかったのである。
それらを装備していた自衛官達はダンジョンゲートに弾かれて内部に入ることができず、仕方なく彼らは武器や防具を全て外してから改めて突入を試みたのだが、内部に潜むモンスター達は野生動物よりも遥かに強く、武装していない彼らの手に負える相手ではなかった。
このままでは穴から出てきたモンスター達によって、日本の国土が蹂躙されてしまう。そう危惧した政府であったが、幸運なことに、モンスター達はダンジョンゲートからこちらの世界に出てくることが一切できなかった。
そのため、ダンジョン内部の調査はゆっくりと進められていき、やがてダンジョン内の資源を持ち帰ることができるようになった。
そして、ダンジョン内には貴重で有用な鉱石や、魔物から取れる、魔石と名付けられた、こちらの世界には存在しない謎のエネルギーを内包した石などが見つかり、人々はこれらを"ダンジョン資源"と呼ぶようになる。
これらダンジョン資源を活用することによって、世界のエネルギー問題は急速に改善され、更には人々の生活水準も大きく向上することになった。
それと同時に、若返りの薬や、どんな病気や怪我でも治してしまうような秘薬など、ダンジョン内でしか入手できない様々なアイテムが発見され、人々はそれらを求めて挙ってダンジョンへと挑んでいくことになったのだ。
しかし、先程も述べた通り、ダンジョン内の環境は非常に過酷で、ろくな武器も持ちこむことができないため、一攫千金を狙ってダンジョンへ入った多くの人間が命を落とすことになった。
政府はこれらの悲劇的な出来事を受け、ダンジョンを探索する為の資格――探索者制度を作り、ダンジョンへ入るには許可証が必要であることを定めた。
探索者 (ダンジョンエクスプローラー)の誕生である。
「プロの探索者は本当に凄いですよね……あんな子供が一月で何千万ものお金を稼いでしまうこともあるんですから……」
葉月先生は腕を胸の下辺りで組みながら、感心するように言う。その豊満なバストが強調され、思わず目を奪われてしまう。
やはり素晴らしい巨乳である。
「そ、そうですね。でも、プロといってもまだ中学生ですから、調子に乗って危険なことをしなければいいのですが……」
僕は慌てて視線を逸らしながら、何とか返事をする。
「でも、あれだけの力や収入があると、どうしても他人を見下したり、傲慢になってしまうのも仕方ないかもしれませんね。……私も、プロの資格を持っている友達がいますが、たまに彼女の発言を聞いているとハラハラすることがありますよ」
そう言って、葉月先生はどこか遠い目をして溜め息を吐く。
確かに彼女の言う通り、プロの探索者達の収入は桁外れに多い。何故なら、彼らのように貴重なアイテムを持ち帰ることの出来る人間は極一部しかいないからだ。
何故彼らのような子供が危険なダンジョンに何度も潜り、生還できるのか? その理由は至ってシンプルだ。
ダンジョン内に入った際、一部の人間――特に10代の少年少女だけが、ある特殊な能力に目覚めることがある。
それは"レベルアップ"と呼ばれる現象で、この能力を持つ人間は、ダンジョン内部では身体能力が劇的に向上し、スキルという不思議な力を手に入れる。
そして、モンスターを倒すことによってレベルアップを果たした彼らは、屈強な大人でさえ太刀打ち出来ないほどの高い戦闘能力を有するようになるのだ。
それは近代兵器を持ち込めないダンジョンでは大きなアドバンテージとなり、実際にダンジョンを攻略することが出来るのは、そういった強力な力を持つ探索者達だけとなる。
ダンジョンが発生した10年前に10代だった子供達、現在は20代の人間までがこの能力に目覚めた世代であり、僕のような年齢の人間はダンジョン探索とは無縁の生活を送っている。
稀に一攫千金を求めて、レベルアップ能力がないのにダンジョンに潜る未資格者もいるが、大抵の場合は帰ってこず、運良く帰ってきたとしても、二度とダンジョンに入ろうとはしない。
そういうわけで、当初は子供に探索者の資格を与えることも問題視されていたが、今ではレベルアップ能力に目覚めた子供であれば、むしろ積極的に与えるべきだという風潮になっている。
もはや世界はダンジョン資源なしには回らないと言ってもいいくらいなのだ。
だが、まだ精神的に未熟な中高生である彼らが、強大な力や大人でも稼げないほどの大金を手にすることで、増長してしまうケースが多く、大人を見下したり、社会のルールを守らなくなるなどの問題も多発するようになった。
中学校教師である僕らは、その影響をもろに受けて、今日も胃をキリキリさせながら教鞭を振るっているのであった。
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