【恋人未満?】とある初秋の頃のこと。



「というわけで今日は俺ン家に拉致るから」


「何が『というわけ』だって? ――って言ってやりたいところだけど、台風が来るからだっていうバカのバカ理論に察しがついてしまう自分がかなしい」


「愛の力だな」


「そんなものはない」


「即答過ぎるだろ。一応プロポーズした人間を相手にひどくね?」


「何もひどくない。バカがバカを言うのをまともにとる人間がいる?」


「バカバカ言いすぎだろ。俺一応お前より成績いいんだぞ」


「一応をつけなくてもアンタの成績がいいのは知ってるけど、そういう意味のバカじゃない」


「まぁそれはともかくとして今日明日は俺ン家な!」


「ゴリ押しか。さすがに普通にひきこもるしなんなら自主休校するのも考えてるから、アンタの斜め上の心配は必要ないんだけど」


「っつってもあの家だろ? 崩壊しねぇか気になって気になって仕方ないからやっぱ拉致ろうと思って」


「いくらアンタが金持ちで一般市民の感覚がわかってないのを加味しても、その発言はあんまりにもアパート住まいにケンカ売ってるってわかってるよな?」


「理性はな。感情は納得しないから大人しく拉致られとけ」


「…………。拉致られるくらいなら自分で行く」


「へ?」


「バカのバカな行動に他人サマを巻き込むくらいなら身一つで行った方がマシ。……まぁ準備段階で既に他人サマの手は煩わせてるんだろうけど」


「雇用機会を作って金を回してるんだからむしろ褒められてもよくね?」


「そう思えるアンタの頭があまりにもおめでたくて頭が痛い」


「それ気圧のせいじゃねぇの? 安心しろ、薬も医者も完備だ」


「バカじゃないの? いや本当にバカじゃないの???」


「重ねて言うほどか?」


「薬はともかく医者とかバカなの? いやバカだったねごめんね」


「謝られると『諦められた』感がヤバいな」


「そこで反省して改善しないのがアンタだけどね」


「よくわかってるじゃん。やっぱ愛だな」


「それ以上バカ言うなら行くのやめるし拉致もお断りする」


「目がマジだな。もう言わねーから来いって。自家発電施設もあるから万が一停電になっても快適だぞ」


「それはちょっといいかも」


「夜通しレトロゲー祭りでもしようぜ。――一応言っておくけど、手ェ出さないから安心しろ」


「……そういうところは信頼してるよ」


「お前婚前交渉とかキライそうだしな!」


「今ので一気に好感度下がったから覚えておけよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る