島は夜に昇る
Aiinegruth
上
Eat me Eat me
Eat me Eat me
・・・・・・
島になるかどうかは、ゆっくり決めていいですからね。脳裏を過る
「四之島、
そうつぶやくと、遠く離れた廃棄孔からグォオオオオオと唸り声がする。島は大小あるが、平均して厚さ二〇メートル、半径五〇〇メートルほどの傘状をしていて、内部に層を成した生活区がある。クラゲの触手にも似て側壁から伸びている一〇本の
ギュムっと、
昼は陽を避けて幕の下に降り、夜は瘴気を避けて幕の上に昇る。大気圏で
しばらくすると、ズンと重い振動が部屋全体を揺らし始める。中間帯へと突入した証拠だ。レベッカは灰色の板をベッドに投げ、その隣に寝転がる。ふぁさっと広がったブロンドの髪を弄んでいるうちに、
「ゆっくり決めろったってさ」
繁栄に伴って人口が増え、新たな生活の基盤が必要とされる。現在適合値の最も高い一八歳のレベッカは、新しい八之島の第一候補だ。七日前の測定で最も適合値の高かった妹のオリヴィアは、秘密裏に開かれた
正直な話、寝て起きたら妹を失っていたことには、ほっとした。何もかも自分より優れているくせに、しつこいくらい話しかけ続けてくる腹違いのオリヴィアは、レベッカにとって厄介な相手だった。種は同じだから、死んだ母が侮辱されるようで腹立たしかった。近くにいるだけで、自分が小さくて、汚れていて、劣っているということを嫌でも感じた。これからもずっと当て馬にしてやるぞ。彼女の笑顔の裏には、そんな感情があったに違いない。
どれだけの武器を持ち込もうが島は人間が操縦できない関係上、
住民たちは、ほとんど島化の儀式を生贄のそれと似たようなものだと思っていて、七之島を失ったことで、第一候補となったレベッカに驚くほど丁寧に接するようになった。前々からいた倫理観を問題視する活動家の数も増えたもので、別のやり方で居住区を拡げる方策を考える流れが強まっている。島になってほしい、あるいはなるべきではない。そんなやかましい嘆願が彫られた
『やめなやめな、島とか全然いいことないよ。ほら、
「どうでもよかったのに、いますごく嫌になってきた」
適合値の高い者には、島の声が――思いのほかめちゃくちゃ流暢に喋っているのが――聞こえる。
勝手に移り住んだ不心得者たちの安否には期待しないが、ともかく言葉を飛ばしながら、
そんなに妹さんを邪険にしないの。
『いよっしゃぁ、最後の三匹まとめて、獲ったどおおおおお! 誇りなさいレベッカ! 今夜の漁獲量対決は、四之島が第二位よ』
「それはトップだった時のテンションでしょ」
ドンっと打ち下ろすような衝撃が走ったあと、島が静止したのが分かった。ベッドから転げ落ちたレベッカは、部屋端までふっとんでいった
円盤の地形の中央にある広場。聳え立つ
『終わったよー! ほら、皆も食べた食べた!』
役目を終えて広場から抜け出すのにそれほど時間はかからない。ドロドロの上着を落下防止の柵にひっかけて絞っていると、
シュンっという風切り音と共に足元が爆ぜた。背後に飛び出すケラチン質の板。斜め下から錨のように島に打ち込まれたのは、
地面を失った足元に浮かび上がって現れたのは、黒焦げの巨塊。恒星放射によって、
『痛ッ!? って、待って、逃げないで! 話をしようよ!』
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