第15話 9-1.大晦日、実家へ
寒くなり、日が短くなってきた頃、麻布のビル工事が完成し、一つの現場が終わった。
普通はまた違う現場へ行くことになるが、年末はお歳暮配達のバイトが稼げるということを耳にし、せっかくパチンコ屋を辞めたので色んなことをしてみようと思い、警備会社に、しばらく休みます、また連絡します、と伝え、短期間で高収入を得るべくお歳暮の配達を始めた。
冬に入った街を走り回るうち靴が破れたが、お金がないと言うよりは買いに行く暇がなく、破れたまま配達を続けた。担当区域は港区の白金、白金台、六本木、麻布、元麻布、麻布十番といった高級住宅が立ち並ぶエリアで、某芸能人の豪邸へお届け物をしたり某政治家と超高層マンションのエレベーターに乗り合わせたりした。
二十歳で東京へ来てからの四年間で京都の実家へは一度帰っただけだが、帰って来い、との催促の電話は母から年中ある。
パチンコ店員の頃は交代制勤務で三連休以上の休みが取りにくく、年末年始は稼ぎ時で休めない事情があったり、人に堂々と言えないような仕事に就いている身で里帰りすることを憚る気持ちがあったが、今年の年末年始は久しぶりに世間と同じような感じで休めることで、たまには帰るのも悪くないかも、との気になった。
年末の二十八日までお歳暮の配達をして、せめて少し部屋の掃除をしてから帰省を、と思ったが疲れて身体が動かず、布団やこたつにもぐってだらだらと過ごし、大晦日の昼過ぎになってしまった。
切符も買っていないので帰れるかどうかも分からなかったが、夕方暗くなってから西荻窪駅のみどりの窓口で京都行き新幹線の切符があるか聞いてみると、ひかりとのぞみはないがこだまならある、とのことだった。
西荻窪から中央線、山手線を乗り継いで東京駅まで行き、公衆電話から、実家へ帰る旨の連絡を入れる。東京駅からこだまが発車したのは七時を過ぎていた。
京都駅には十一時頃着いた。地下鉄に乗り松ヶ崎駅で降りたのは十一時半を回っていて、闇に光る月明かりに照らされた高野川の流れを見ながら実家へと歩いている頃、除夜の鐘の音が聴こえた。
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