第11話 生きるために
僕達はエフタル王国から逃げた。
おそらくはもう教会は存在しないだろう。言葉通りの意味として。
シャルロッテ教という宗教自体が邪教認定されたのだ。
王族所有の土地だといってたから、今頃は教会は跡形もなくなっているだろう。
宗教弾圧は暴君たる者のたしなみだしね。
そんなこんなで僕たちは無事に都市を離れ、バシュミル大森林に侵入した。
僕は事前に北門の警備兵に根回しをしていた。
北門の管轄はレーヴァテイン公爵家が担っているのが幸いした。
何事もなく素通りできたのだ。
それに嬉しい誤算があった。なんとハンス君が僕達に同行してくれたのだ。
ハンス君は無事、騎士になりレーヴァテイン家に仕えていた。
公爵はハンス君の意思を尊重して僕たちのもとによこしたのだろう。
しかし、随分と立派な若者に成長したものだ。
前を歩くハンス君。背中を見れば分かる。
彼は努力したのだろう。鍛えられた太い腕。そしてそれを支える逞しい逆三角形の背筋が眩しい。
いい男になったな。
「あの、ママ先生、やっぱりこの格好は、ちょっと……いえ、だいぶ恥ずかしいんですけど……」
子供たちを挟んで後ろを見守っている僕の隣にはクレアちゃんがいる。
やれやれ、いい加減慣れてほしいものだ。
シスターの服はスカートが長いため。森では動きにくい。
だからこんなこともあろうかと、というわけでもないが、暇な時間に古くなったシスター服を改造して。クノイチ衣装を作っておいたのだ。
いつかは教会のイベントで忍者ショーをやろうかと思ってたし。
もちろんハリウッド仕様で、黒のノースリーブに、ショートパンツだ。
正直、前世では戦闘服なのに素肌を出すのは、ただの男性向けのファンサービスで時代にあってない、と監督に抗議したこともあったが。これはこれで理にかなっている。
そう、とても動きやすいのだ。
もちろん実際の忍者はそんな格好はしない。だがフィクションの世界のニンジャーは体操選手のような身体能力が必須だ。
僕はハリウッドでスタントマンの人と日々鍛錬をしていた。
体が変わっても経験は生きているものだ。
今さらだが僕の運動能力は一般人よりもかなり高いということが最近になって分かった。
転生したばかりの時は巨大ハムスターは雑魚モンスターだと思っていたけど。
実は結構強い部類に入るそうだ。
まあそれでも巨大ハムスターを狩れる人間なんてごまんといる。
冒険者などはそれを生業にしているくらいだし。
僕が特別に強いわけでもない。
しかし、いつまでモジモジしているのだ。逆にエッチに見えるじゃないか。
「クレアちゃん。恥ずかしがる必要はない! 堂々としなさい。それはかっこいい服なんだ」
僕は腰に手を当てデデンと胸を張る。
それを見たクレアは僕の真似をした。
「こ、こうですか?」
まだ恥じらいがあるようだ。顔が羞恥心で満ちている。
しかし、クレアはいい体をしている。運動もできるし、頭もいい。
すぐに立派なクノイチになることだろう。
こうして、僕たちは子供たちを守りながらバシュミル大森林をすすむ。
当然モンスターにも何度も遭遇した。
ハンス君の腕ならこの辺のモンスターは余裕のようだ。
それに僕には忍法が使える。
巨大ハムスター程度なら一撃だ。
しかし、この森はハムスターしかいないのかと不思議に思ったが。
ハンス君曰く。バシュミル大森林はとても広い。もう少し奥に行けばいろんなモンスターがいるそうだが、現在は人間側のエリアにはマンイーターと呼ばれるハムスター型のモンスターが覇権を取っているようだ。
なるほどね、だからか。
だが、人間側のエリアからは少し離れないといけないだろう。
当然モンスターの種類も増える。
より強力な個体が出てくるかもしれない。
僕らの持ち運べた物資は馬車一台分の食料に、武器や工具一式。自給自足は何とかできる。
だがモンスターに対する備えは不十分だ。
子供たちにも戦いの仕方を教えなければ。
いよいよ映画みたいになってきた。忍者の里か。
やはり、ここは忍法を解禁しないとね。
子供たちの才覚にもよるけど、基本的には魔法の概念がある世界だ。
僕が体系立てて教えれば習得できるはず。
映画では忍者学校があったけど、それをするとこの世界のバランスを崩してしまうだろう。
当然、忍術を書物にまとめるのは厳禁だ。
まあ、女神シャルロッテなら多少は許してくれるかもしれないけど、それはやらないでおこう。
僕の存在はこの世界にとっては異物なのだ。
これから僕が子供たちを生かすために行うことは全て異世界チートなのだから。
だから外界との接触は極力避け。技術の伝承はすべて口伝でのみとする。
方針は決まった。僕の目の前には子供が21人。騎士が1人。クノイチ2人。
やれやれ。やってやろうじゃないか。僕たちは一生懸命生きる。
とりあえずは僕が死ぬまでに全員を一人前に育てる。
それが僕の今生の使命だろう。
よし、やってやるさ。なんせ僕は女神ユーギ・モガミなのだから。
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