after story sideクロ

 うろうろ、うろうろ。


「ふぅっ……はぁ、はぁ……んっ!」

「そうそう、上手ですよ。力を抜いて」


 僕たちが再会して一年が過ぎた頃。

 すっかり大きくなったお腹を愛おしげに撫でていた君。

 今朝方急に産気づいて、急いでマクベルが産婆を呼んできた。

 清潔なタオルや温かいお湯が用意され、その間にも君はふぅふぅと苦しそうに呼吸をしている。


 メアリの出産には立ち会っていないから、僕が君の出産に立ち会うのは初めてで。

 こんなに苦しげな君を見るのももちろん初めてで……


 ――ああ、何もできないのがもどかしい。


 僕に魔力があれば、なんか、こう、うまく補助ができると思うんだよね。やったことないけど。ほら、回復魔法とか、ね? だから、こうして君を励ますことしかできないことが、本当にもどかしい。


「にゃぁ」

「ふふっ、ありがとう。二人目だもの、大丈夫よ」

「ああ……二人目とはいえ、こう、何もできない自分が本当に無力だよ」


 マクベルは僕と同じぐらい、あわあわと狼狽えている。

 ちょっと、君は経験者だろう?

 君が落ち着いてくれなきゃ、僕も落ち着けやしない。


 メアリはまだ幼いというのに立派なもので、懸命に母親の手を握って励ましの言葉をかけている。


「ママ、がんばって! 赤ちゃんもがんばって!」


 君はそんなメアリを愛おしげに見つめながら、寄せては返す陣痛に耐えている。

 え? もう何時間になるんだい?

 お産が大変なものとは聞いていたけれど、いざ目にしてみると想像を絶するほど過酷だ。


 僕は君に寄り添い、見守ることしかできない。


 産声が聞こえたのは、日が高くなった頃だった。


「おんぎゃ、おんぎゃっ」

「二人とも、よく頑張ったねえ。元気な男の子だよ」

「はぁ……はぁ……ああ、よかった」


 産婆が赤子を取り上げ、おくるみを巻いてから君の胸元に赤子を運んでくれる。

 君は本当に愛おしそうに生まれたばかりの皺くちゃな赤子の頭を撫でた。


「うっ、うっ……本当に、本当に二人ともよく頑張ったね。ありがとう、ありがとう」

「もう、あなたったら。赤ちゃんよりも泣いているじゃない」

「わぁ~、こんにちは。お姉ちゃんだよ~」


 マクベルはおいおい泣きじゃくり、その様子に呆れたような嬉しそうな君。

 メアリは既にお姉さん顔で赤子に挨拶をしている。


「ほら、クロ。新しい家族よ」

「んにゃあ」


 君が僕もそばに来るようにと呼んでくれたので、恐る恐る近づいた。


 え? 小さすぎないかい?

 ちょっとつついたら壊れてしまいそうなほど儚いよ?


 ――でも。


「ふえっ、ふええ」


 うん、なんだろう。

 庇護欲がくすぐられるなあ。

 うん、これは……可愛い。


「んなー」


 まだ目が見えないらしい赤ん坊は、懸命に手をにぎにぎして母親を探している。


 ふふふ、仕方がないから、この子のことも僕が面倒を見てあげるよ。うん、仕方ないからね。ほら、可愛すぎてどこかの誰かに攫われるかもしれないし、カラスに連れて行かれるかもしれないじゃないか。あ、流石にカラスには持てないか。

 ともかく、この子は僕が守るよ。


「うっ、うっ、ありがとう。ありがとう、ノエル」

「もう、あなたったら……素敵なお顔がぐしゃぐしゃよ?」

「だって……ずび」


 やれやれ。赤子の可愛さを堪能していたところだったのに。

 僕は泣くじゃくるマクベルの肩に飛び乗り、軽く頬に猫パンチを喰らわせた。


「うおっ、ちょっと、クロくん」

「んなお」

「……そうだね。僕はもう二人の子供の父親なんだ。うん、ノエルも、子供たちも、僕がしっかり支えていかないとね」

「にゃー」

「あはは、ありがとう。君もいるんだから、きっと大丈夫だね」

「にゃ」


 そうそう。僕がついているんだから安心しなよ。

 マクベルはマクベルにできることを、僕は僕にできることをするからさ。


 男同士で語り合っていると、君が楽しそうに肩を揺らした。


「ふふ、すっかり仲良しなんだから。嫉妬しちゃうわ」

「え? どっちにだい?」

「それは――どっちもかな」


 こうして僕たちに家族が増えた。

 ますます僕たちの生活は色鮮やかにキラキラと輝いていく。





 -fin-





最後までお付き合いありがとうございます!

短編から1万字弱加筆しました( ˘ω˘ )

クロのおかげで物語が動いてくれるので助かります。

彼らの物語を再び紡げて楽しかったです!

また別のお話でお会いできることを心待ちにしております。

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